#24 アンデル 前線からの手紙
――親愛なるアンデル
先日はちゃんと挨拶もせずに、すまなかったな。もう元気になっただろうか。もしまだ疲れが残っているなら、無理をせず、しっかり養生してほしい。体が一番大事だから。私が言うと説得力がないね。
色々と話したい事はあったけれど、あまり長く部隊を離れていると、抜け目ない副隊長に指揮権を奪われかねないのだ。彼は目端の利く有能なやつなのだが、軍部でのしあがるためならなんでもするとしれっという男だ。私の部隊に配属になったのも、他のユーバシャールの部隊より、隊長が馬鹿そう――サイネルの言葉を借りると、提案がしやすく通りやすそう――だから希望したのだというのだ、図太い男だろう?
本当だったら君がヨルク・メイズから褒賞を賜ったという論文についても、話を聞きたかったのだ。それは次の機会にとっておこう。次の帰省のとき君は成人しているかもしれない。もう、酒もたしなんでいるのかな。だとしたら、私のコレクションから一本、贈りたいものがある。楽しみにしていて。
ハイリー・ユーバシャール――
◆
――親愛なるアンデル
またも返事が遅くなってしまって、すまなかった。半年も開いてしまったか。このところバタバタしていて、ペンを執る時間がないんだ。
さて、お誕生日おめでとう。まさかあの小さかった君が、もう成人してしまうとは。つくづく、時の流れは早いなあ。先日会ったときも思ったが、君はもうすっかり立派な紳士だ。いささか寂しい気もするけれど、誇らしいよ。
君が、ヨルク・メイズに命じられ、クラウシフとともに貿易用資源の確保に乗り出すことになったとは聞いている。特別措置で、学舎も飛び級扱いで卒業になるとか。
素晴らしいことだ。クラウシフも誇らしいだろう、まだまだ若い自分の弟が、すでに国になくてはならないものだということが。その資源が何かは詳しくは聞いてないが……秘密にされると好奇心が強まってしまうね。いつか公表されたとき、きっと私は驚くことになるのだろう、その日が楽しみだ。
これからも君らしく職務を遂行してほしい。忙しいだろうから、無理して私に手紙を書かなくていいよ。もちろん、いただける分には嬉しいんだ、とってもね。
くれぐれも、身体には気をつけて。
ハイリー・ユーバシャール――
◆
――親愛なるアンデル
筆不精ですまない、前回の手紙から半年も経ってしまうとは。君たち兄弟の活躍は、前線でも聞き及んでいるよ。
まずはマルート鋼の輸入量制限の緩和条約の締結、おめでとう。それから、ありがとうとも言わせてくれ。クラウシフが手がけてくれたそれのおかげで、前線のあらゆる不便が驚くほど軽くなった。
このままでは切り込み部隊である我がユーバシャール東軍はお払い箱か? というくらい、今、前線は士気があがっている。後方支援にかかる労力が格段に圧縮されて、今までの三割の人数で亡霊騎士の部隊と互角に戦えるのだ、本当に素晴らしい。君たち文官(君も最早立派な文官だな)に我々は助けられている。
それから、星霊花の採集部隊の編成の件も、おめでとう。君が発見した花が、まさかマルート鋼の精製に触媒になるとは。魔力の腐食を魔力にさらされ変質した花で抑制するなんて、まるで血清のようだな。それのおかげでマルートとの交渉が有利に進んだとも聞いたぞ。この先、我が国の重要な資源になるのは確実だな。
兄を助け国を助け、本当に素晴らしいよ、アンデル。クラウシフも鼻が高いだろう。
実は、星霊花の採集部隊に編成してほしいと、我が部隊も名乗りを上げたのだが、残念ながら却下されてしまった。がさつな者たちにそんな作業は任せられないと。あんまりな言い草だろう?
代わりに、その採集部隊の護衛ということで、久々に一番槍を任された。部下たちは喜んでいたな、なにせ、星霊花の群生地は魔族共の縄張りのど真ん中だ。切り込むのは実力が認められたからだと。……単に命知らずで扱いやすいからでしょう、なんてサイネルはぶつくさ言っていたが、私も嬉しく思う。役目はしっかり果たせたから、今後また同じような任務があったときも、声をかけてもらえるだろう。国の発展と防衛に役立てたと思うと、素直に嬉しい。君の活躍にも報いることができたかな?
ところで、君が婚約したという話を聞いた。おめでとう。もうイェシュカの喪も明けるな。そして、君もそういう年頃なのだね。成人したのだから、当然か。
ピリオア家のアリーナ嬢。名門ピリオア家のご息女とあれば、きっと君とも話もあうし素敵な家庭を築けるだろう。実は、彼女の兄が軍の同期でね、先日、彼からその話を聞いたよ。君の婚約は、我が事のように嬉しいが、同時に寂しくもあるな。
婚約のことも仕事のこともあって忙しいことと思う。返信は不要だ。
ハイリー・ユーバシャール――