#16 アンデル ある朝のできごと
空が白み始めたばかりの早朝、私の都合など考えないノックによって強制的に起こされた。ノックの仕方は切羽詰まっていて、忙しない。しかし、力加減から相手は私を無邪気に下僕扱いする可愛い甥っ子だとすぐにわかった。大人だったらもっと荒々しい音を立てるだろう。
寝ぼけ眼をこする私がドアを開けた途端に、寝巻き姿のユージーンが飛びついてきた。父親譲りの黒髪はくしゃくしゃになっている。
「あんでる……」
目に涙をいっぱい浮かべ彼は必死に訴えてきた。悪夢で泣く彼を最初に慰めるのは、一緒に眠る母の役目になっている。イェシュカはどうした?
ユージーンの言葉を聞き終わる前に、私は部屋を飛び出し、イェシュカの寝室に向かっていた。クラウシフとは部屋を分けている。夜泣きする双子に夫の睡眠を妨げられないように、と気遣ってのことだ。そしてクラウシフは前夜、城に行って戻らなかったはず。
今度は私がノックする番だった。返事がないので失礼を断って開けたドアの先、床にへたりこんでいる寝間着姿のイェシュカを見つけた。双子が、ベッドの上で火がついたように泣いている。
「イェシュカ、大丈夫? 落ち着いてゆっくり息をして、吸いすぎないで」
イェシュカは速く浅い呼吸を繰り返しており、顔色が白かった。私の腕を痛いほどの力で掴む。その背をさすって落ち着くのを待つ。彼女の鳶色の目には、苦痛の涙が浮いている。
ドアの枠にしがみついたユージーンの不安げな視線を感じていた。双子の唱和する泣き声が緊張を高まらせる。その中で、なんとかイェシュカは息を整え、がくりと脱力した。
「……ごめんな、さい……。起きたら、……息が、できなくて……」
「いいから、無理しないで。まずは横になって。いま人を呼んでくる」
ベッドに横たえ毛布をかけてやると、彼女はぐったりした様子で顔の上に手を置いた。
泣きじゃくっている双子の兄のジェイドを片手で抱き上げる。駆け寄ってきたユージーンが弟のジュリアンを抱き上げたが腕力が足りず、ジュリアンのつま先が床に擦ってしまっていた。私はなけなしの腕力を総動員して、もう片方の手でジュリアンを抱える。ぐずる双子を抱き上げるのは、かなりの重労働だ。
イェシュカがこうして体調を崩すようになったのは、双子を産みしばらくしてからだ。いつだったかはっきりは覚えてないが、不調を訴え、二日、三日寝込み、それからぽつぽつと今朝のようなことが起きるようになった。
医師によれば、子育ての緊張と不安、疲れが原因だという。やはり、年の近い三人の子供を育てるのは、負担が大きいのだろうと、乳母の雇用を検討したのだが、イェシュカは一人でなんとかしたいという気持ちが強いらしく、提案は嫌がられた。自分が乳母に預けられっぱなしで実母になじめなかったから、そうなりたくない、と。しばらく休めば動けるのだからということだが、あまりに続くようであれば、きっとクラウシフが乳母の雇用を強行するだろう。