困惑
虹岡検地は困惑していた。
何が起こった? あれほどの衝撃を受けながら私の体は無傷だと?
検地の強烈なタックルをかわした兵士2人もさすがに一瞬怯んだが、さすがはプロの兵士たち、すぐに体勢を立て直すと剣を抜いて威嚇してきた。
「貴様、何者だ! そこの娘は国境を越え、我らが帝国領に無断で立ち入った大罪人だぞ」
「そうだそうだ、庇い立てするとお前も同罪にするぞ」
顔を真っ赤にした巻き髪の少女はすぐさま反論した。
「この辺りの国境線は不確定で、確定された帝国領にはまだ入ってないはずですわ」
それに対し兵士たちは、ニヤリと笑うとこう答えた。
「残念だったな、俺たちの地図じゃあ、この辺は帝国領になってるんだよ」
「そうそう、俺たちにとってはこの帝国地図こそがルールーブックだぜ ヒャッハー!」
こいつらとまともな会話は無理だな、検地は戦うことを決めた。
だがどうする、向こうは簡素ながら鎧を着ていて剣も持っているぞ。
そう考えていると、後ろから少女の声がした。
「これを使って! お爺様から頂いた由緒正しい短剣です!」
少女から投げられた短剣をキャッチする。
「ありがたい、少し借りるぞ!ってあれ?」
気のせいか、体が重くなったような。
色々なことが一気に起きて、精神的に参ってきた頃だ。疲れがきてもおかしくない。なので体の重さは特に気にしないことにした。
こちらを舐めているのか、検地が短剣を受け取るまで兵士たちは攻撃して来なかった。
「準備はできたか? それでは行くぞ!」
そう言い放つと、兵士たちは2人同時に攻めてきた。
見た目はヒャッハー雑魚兵士っぽい2人であったが、中々どうして見事なコンビネーションである。
重い身体でなんとか攻撃を受け流す検地。しかし押されている。
「身体が重く動きが鈍くなっているのに加えて、なぜか力も出ないぞ。先ほどはあれほどの強いタックルが出せたのに」
何度かの攻防の後、両者は息を整えるため少し離れた。
検地は身体が思うように動かないもどかしさの中、構えを取り直し深呼吸し、再びの集中に努めた。
しばらく短剣を持った自らの右腕を見ていると、視界に何かゲームのステータス画面のようなものが浮かび上がってきた。
「なんだこれは? 転生したことで身に着いた特殊能力か?」
「ちから↓ すばやさ↓ 下向きの矢印? 良くわからんが、これって私の力とすばやさが、何らかの影響でダウンしてるってことなのか?」
特殊能力に目覚めた嬉しさと、ステータス異常をくらっているヤバい現状と、なぜか後ろから満面の笑みで応援してくる金髪美少女、このような意味不明な状況に置かれつつ、次の行動の選択肢が見つからない虹岡検地ではあったが、不思議と彼は歪な笑みを浮かべていた。