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海辺の歌。


「歌っていうのは、その人の心が込められているほど、綺麗に響くのよ。」


 亡くなったクレアの祖母が言っていた。

 クレアは生まれつき、目が見えない。

 だから人の声、言葉、自然の音にとても敏感に反応した。

 そして、「歌」を彼女はこよなく愛していた。祖母がそうだったように。

 祖母から教えてもらった歌を、歌うのが好きだった。



      ◇ ◇ ◇


 

 愛する人よ。あなたのすべてが、私を幸せにする。

 あなたが嬉しいと、私も嬉しい。

 この歌が私たちの、始まりになるかしら。

 ああ、あなたと私は、おなじところから生まれたに違いない。

 神様の子。

 あなたに贈るわ。ありったけの想いをのせたメロディーを。

 なんて素敵な響きなの。

 ラララ ラララ ラララ

 この歌があなたへの花束になるかしら。


 愛する人よ。あなたのすべてが、私を苦しめる。

 あなたが悲しいと、私も悲しい。

 この歌があなたにとって、涙になるかしら?

 ああ、この歌があなたを、優しく抱きしめることを祈ろう。

 神様の子。

 あなたに贈るわ。ありったけの想いをのせたメロディーを。

 だから泣かないで笑って。

 ラララ ラララ ラララ

 この歌があなたへの愛情になるかしら。


 きっと私たちは2人で1つなのね

 だからこんなにも懐かしい

 だからこんなにも愛おしい

 手を触れ合えば、あなたの全てが分かるの

 ラララ ラララ ラララ

 この歌が来世へと語り継がれますように。

 


     ◇ ◇ ◇



 クレアは海辺へ向かっている。いつも祖母と一緒に来ていた場所。今日はクレアの近くの家に住むマリ姉と一緒に来ている。

 そしてここは、彼がいる場所でもある。

 目が見えないクレアは、彼がどういった風貌なのかも分からない。けれど祖母は、同い年くらいの男の子だと話していた。彼は耳が聞こえないことも。そしていつも絵を描いていることも。

 私は絵というものがどういったものか分からない。マリ姉も私に説明することができなかった。


「今日も、いる? その子」

 クレアはマリ姉に尋ねる。目が見えないクレアは、少し年上のマリ姉以外、友達がいなかった。そんな時祖母が、海辺にいる彼をクレアに紹介してくれた。クレアはその彼の姿を目にすることはなかったし、声が聞こえない彼との会話する方法はなかったのだけれど、祖母が間に入って会話をさせてくれた。クレアと彼は次第に仲良くなっていった。


「うん。いるよ。今日も絵を描いている。」

 マリ姉はクレアに微笑みながら伝える。その微笑みも、クレアには見えていない。けれど、マリ姉の口調から、マリ姉が笑顔でいることは、クレアにも伝わっていた。


「そうなんだあ。私もその絵を見てみたいなあ。」


 クレアは、マリ姉の服のすそを引っ張りながら言った。

「ねえ、マリ姉。私がもしここで、おばあちゃんから教わった歌を歌ったら、彼に届くかな?」


 クレアは、彼に友達とは違う感情を抱いていることに自分で気づきはじめていた。


「……うん。届くよ。歌っていうのは、その人の心が込められているほど、綺麗に響くのよ。だから、きっと届く。」

 マリ姉は、誰もいない海辺を見つめながら、切なげな表情を浮かべる。ただ、声だけは明るく言った。


 クレアは歌う。

 彼に届ける為に。

 誰もいない海辺で、誰もいないことを知りながら、自分の想像上の彼に向かって、歌う。


 その歌は響き渡り、海を越えて、いつか彼に届くだろうか。


 


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