密会
「今回のご依頼の背景について、改めてお聞かせ願えますか?」
「はい。まず、三年前のことからお話ししますと……」
幸子はゆっくりと、しかしはっきりと、依頼をした理由を語り出した。
三年前、自分が秘書をしている政治家である五十嵐隼が不正をしているのを見つけたこと。止めたのに相変わらずし続けていること。今までずっとやめるように進言し続けているがやめそうにもないため、依頼をしたこと。念のため然るべき所には既に報告をしてあること。
「——私、その時五十嵐さんに言ったんです。不正を犯した政治家が全員殺された事件を知らないのかと」
「——ああ、『不正政治家連続殺人事件』ですか……」
不正政治家殺人事件。
それは、今では何十年も前の話だが、不正を犯した政治家が何人も殺された事件だった。
犯人は裏社会の人々。彼らが表社会の者の密告を受けて、その政治家たちを殺したのだった。
それ以来、国は裏社会の犯罪を見逃すようになった。そしてその代わりに、裏社会を政治家たちの抑止力としたのだった。
もし不正をしたならば、裏社会の人間が黙ってはいない。だから不正はしてはならない、と。
「ええ、それです……。そう言ったら、五十嵐さん……こう言ったんです」
——あんなのは嘘だ。不正をさせないための、お偉いさんのでっち上げに決まってる。
それを聞いた朱里は思わず苦笑い。
「でっち上げなんかじゃ無いと思うんですけどねぇ。この組織内にもいたみたいですよ、この事件で政治家を殺したって人。一度だけ見たんですけど、当時のデータも残ってました」
それを聞いて、幸子はほっとしたような困ったような、微妙な笑みを浮かべた。
「こんなこと言うのもなんですけど……それが本当だったと言うのも、五十嵐さんに思い知らせたいような、そんな思いで依頼をしたと言うのもあるんですよ」
「構いませんよ、ええ」
「それに私、あまり五十嵐さんのことが好きじゃないんですよね。いえ、ここでしか言えませんけど……正直嫌いです。なのでそうですね……五十嵐さんの秘書を辞めたいとも思いますね」
「それも依頼をした理由の一つですか?」
「——ええ。ええ、そうなります……。こんなこと言ったら、駄目ですかね」
「いえ、いいと思いますよ。五十嵐さんについて調べて貰ったんですが、私もいい印象は受けませんでしたし」
にこりと朱里は笑うと、タンポポ茶を飲んだ。
「——ああ、思い出しました」
朱里はふと、呟くように言う。
「秋本さん、お聞きしたいことがあるのですが」
「——なんでしょうか?」
二人の声が、真剣味を帯びる。
「五十嵐さんは、持病とかお持ちではないでしょうか?」
「持病、ですか……一応、ありますよ」
「どんなご病気ですか? 薬とか……飲んでいらっしゃいますか?」
そう問われて「病気と言うのか分かりませんが……」と断っておいてから。
「……アレルギー性鼻炎持ちですね。毎日朝晩薬を飲んでいますよ」
(鼻炎か……)
朱里は二つの計画を考えてきていた。
一つ目は、もし対象者が病気——それこそ突然発作を起こしてしまうなどの命に関わる病気だ——であれば、その持病が発症したと見せかけて薬殺すると言うもの。
しかし、病気が鼻炎ではこの筋書きは使えない。
「……あともう一つ質問させてください。五十嵐さんはコーヒーを飲みますか?」
「ええ、いつも飲んでいます」
(しめた)
朱里は心の中でほくそ笑む。
——二つ目のアイデアを、使える。




