隠された生い立ち
「それで……なんで僕、ここにいなきゃいけないの? お母さんやお父さんに、僕、会いたいんだよ!」
「実はね、薫くん」
感情が高ぶっている薫に、朱里は静かに語りかける。
「薫くんが知っているお父さんとお母さんは、偽物、なんだよ」
その瞬間、薫の表情が凍りついた。
「本当の、お父さんとお母さんが、別に、いる」
「——嘘だ」
「本当だよ」
漸く否定の言葉を発した薫に、すぐ朱里はそう言った。
「私達はね、薫くんの、本当のお父さんとお母さんに、頼まれたの。薫くんを、連れ返してほしいって」
「薫くんの本当のお父さんとお母さんに頼まれた時、私も本当かなぁ? って思ったの。だからね、本当かどうか調べたの」
静かな部屋の中に、朱里の声だけが響いた。
「そしたらね、こんなことが分かったの。
宮部紘さん——薫くんのお父さんは、昔、金貸しをしていたの。そして、もしお金を返せなかった人がいたら、お金の代わりに、その人にとって一番大切なものを貰って行ったんだって」
「……そしたら、本当のお父さんとお母さんが、僕のお父さんに借金してて、お金が返せなくて、それで、僕が、連れていかれたってこと?」
しばらく考え込んで結論を導き出した薫に、本当に賢いのだな、と内心舌を巻きながら朱里はうなづいた。
「……まあ、簡単に言えばそういうこと。宮部さんがそういうことをしていたっていうのも確認したし、薫くんの本当のお父さんとお母さんも、そう言ってた」
このことを調べ上げたのは、やはり翔であった。
薫の見かけ上の親、宮部紘がかつて金貸しをしていて、金を返せない人から、その人にとって最も大切なものをその対価として奪っていたという情報をネット上で見つけてから、翔と朱里は別の方法でその裏付けをしようとした。
翔は紘とかつて関係があった人々を洗い出し、その人々の身近に紛れ込んでは紘の過去を聞き出そうとした。朱里は依頼者夫婦に連絡を入れ、どうして薫が宮部家で暮らし始めたのかを聞き出した。
そして、翔も朱里も、裏を取ることに成功したのだった。
「だから薫くん、あなたを本当のお父さんとお母さんのところに連れ返すために、こんなことをしてしまったの。ごめんね」
朱里が申し訳なさそうに謝り、頭を軽く下げる。
すると、その時。
「……如月さんは、謝らなくったっていいよ。もう、分かったから……でも、でもね……」
鼻をすする音が聞こえ、朱里は顔を上げた。
目を、疑った。
「頭ではね、分かるの。でもね、心が、お、追いつかないんだ……」
突然、薫がぼろぼろと泣き出してしまったのだ。
まさか薫が泣き出すとは思っていなかった朱里は、薫の心の中を察することもできず、ただその背中をさすってやることしかできなかった。
しばらく背中をさすってやり、薫が少し落ち着いた時、朱里は薫に笑いかけた。
「ねえ、薫くん。薫くんが寂しくならないように、話し相手を一人、呼んでいるんだ。その子はいつでも薫くんのそばにいるわけじゃないけど、少しは寂しさが紛れるんじゃないかなぁ」
「……話し、相手?」
朱里はうなづいてみせた。
「そう、話し相手。そうだ、今呼んでるから、中に入ってきてもらおうか」
朱里は扉に近付き、それを薄く開けると、外で待っていた何者かを呼び寄せた。
その人物を見て、薫は目を丸くする。
というのも、中に入ってきたのは、薫に瓜二つの少年だったのだ。
「——初めまして。立花薫くん、だよね?
僕は、二階堂弘也。よろしくね」
——そう。
新入りの構成員、二階堂弘也だった。




