起床
組織内には、誘拐した人物や捕らえた人物を入れるための部屋が何部屋かある。その部屋のひとつに薫は寝かされた。
そこには簡素なベッドがあり、その枕元には目覚まし時計が。そして低いテーブルがあり、娯楽のための本が何冊かある。テーブルの上にある籠の中には、飴が沢山。本と飴は、粗末な部屋に連れてきてしまった薫への、せめてものお詫びなのだろうか。
朱里は、薫の部屋にいた。
朱里はここで、薫に与えた薬が切れ、目覚めるのを待っているのだ。
化粧は全て落とし、服装も組織にいるときと変わらない。まさに『如月朱里』としての姿だった。
iPhoneの時計表示を見て、薫を見る。
「そろそろだと、思うんだけどなぁ」
そう呟いた、そのときだった。
「……」
ベッドの方から、微かな声がしたのは。
ごそごそ、と布団の中で身じろぎをする音も聞こえる。
「……ここ、どこ……?」
寝ぼけた声で言うのは、薫だ。漸く目が覚めたらしい。
「驚かせてごめんね」
朱里が声をかけると、薫は人がいるとは思っていなかったらしく、甲高い声を短くあげ、ベッドから飛び起きた。その手にはしっかりと布団が握られている。
「——び、びっくりしたぁ」
「ごめん、薫くん。ここはね、いろんな人が暮らしているところなの。私もここで暮らしてるよ。薫くんにも、大体一ヶ月くらいここに住んでもらうことになったんだ。だから連れてきたの」
朱里はにこやかにそう言うが、薫は驚きと疑いと不安をごちゃ混ぜにしたかのような表情をしていた。
「なんで僕の名前を知ってるの? どうして一ヶ月ここに住まないといけないの? なんで、なんで僕を……攫ったの?」
「ちゃんと全部話すから。話すから、落ち着いて聞いて」
ね? と朱里が首を傾げてみせると、薫は疑いながらもうなづいてくれた。
「まず、自己紹介だけしておこうか。私は、如月朱里。さっきも言ったけど、ここで暮らしてるの。よろしくね」
「……如月、朱里さん?」
「そう。如月さんでも朱里さんでも、呼び方はなんでもいいよ」
気楽な感じでよろしくね、と言った朱里に。
「……なら、如月さんって呼ぶ。僕は、もう知っているみたいだけど、宮部薫。よろしく……お願いします」
まだまだ戸惑いを隠しきれないように、薫は言うのであった。




