翔の考察
唐突にやかんがピイーッと鳴り始め、三ヶ月前のことを思い出していた朱里は我に帰る。
お客様用のマグカップに紅茶のティーバックをいれ、お湯を注ぐ。紅茶を淹れている間に自分用の珈琲をドリップした。
「——はい、これ。飲む?」
珈琲のドリップが終わった頃、朱里は紅茶のティーバックをゆすり、取り出して、紅茶を翔に差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「私が珈琲淹れるついでだから。あと、いつまでも突っ立ってないで、そこ座りなよ」
朱里の指がテーブルと椅子を指す。
「それじゃ、遠慮なく」
そう言って翔が椅子に座るのと同時に、朱里は自分の珈琲を手に取ってテーブルへと近付いた。珈琲をテーブルに置いてから、ずっと放置していたノートを拾い上げて棚へと戻す。
「——ねえ、翔」
棚を見つめたまま問いかける朱里。目線の先には、あのノートがある。今棚に戻したばかりの『親子とは何か』と題された、あのノートが。
「なんすか?」
紅茶に口を付けかけたまま応える翔。
「親子って……なんだろね」
「……なんなんでしょうね」
寂し気な目で疲れたような表情を見せる朱里に、マグカップをテーブルに置きながらうっすらと笑みを見せる翔。
「親子の定義は人によって違うと思いますが、俺が思うに、親子って血が繋がってなくたっていいと思うんですよね。実際、血が繋がってない親子なんて沢山存在するでしょう? 要するに、どれだけ相手を大切に思えるか、愛することができるのか、そういうことじゃないんすかね」
「……」
朱里は、考え込んでしまった。
それを知らない——朱里の気持ちが読み取れないので分かるわけがない——翔はあっけらかんと言い切る。
「血が繋がってたって、子どもを愛せないなら、親を大切に出来ないなら、それは親子じゃないのかもしれない。血が繋がっていなくたって、親に愛され、子に大切にされるなら、それは親子なのかもしれない。
……案外、そんなもんかもしれませんよ」
そう言って笑った翔に、朱里は。
「私、この任務をやってて思ったの。
……この任務は、そしてこの任務を遂行した私は、宮部家の親と子を、無理矢理引き裂いてしまったのも同然なような気がする」
ぼそりと呟き、疲れたように笑う。
「? 何か言いましたか?」
そう問うてきた翔に、朱里はすぐに表情を上手く繕って振り向いて。
「……なーんにも。空耳じゃないの?
さて、早く報告書を仕上げないとね。早く次の任務に取り掛かる為にも」
そう言ってテーブルに戻ると、朱里は鞄からパソコンを取り出し、すぐにパソコンを起動させた。




