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暗黒の疾風  作者: 秋本そら
Ⅲ 誘拐依頼 「飴玉」
27/37

振り返るは、三ヶ月前

 不意にコンコン、と扉を叩かれた。

「如月さん、翔です」

「——ああ、翔か。入っていいよ」

 聞き慣れたその声にそう返すと、扉が開き、その声の主が現れる。

「どうも。首領がそろそろまた、如月さんに任務を頼みたいらしいんですけど、今大丈夫なのか訊いて来いって言われましてね。大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよー。っていうか、もう報告書書くだけだから終わったも同然だし」

 朱里が紅茶を用意しながら答えると、翔は笑顔で「分かりました、首領に伝えときます!」と答えた。

「——にしても、あれから三ヶ月経ったんだねぇ」

 お湯を沸かしながら呟いた朱里に、翔は。

「そうなりますね」

 そう言って、壁に寄りかかりながら、笑った。


 ——三ヶ月前。

 その日、首領から任務について書かれたバインダーを受け取った朱里は、いつもなら先に自室で作戦を考え、その後に必要な情報を集めるのだが、今回はあまりにも情報が少なすぎるので先に(伝書鳩)のもとへ向かった。

 ——コンコン。

「翔、いる?」

「ああ、如月さんですか。鍵かかってないので入ってきてください。今、お湯沸かしてるんで、手が離せないんですよ」

「じゃあ入るよ」

 朱里が部屋に入ると、翔はコンロの前にいた。

「すいません、お手数をおかけして。そこの椅子に座って待っててくださいね」

 朱里は言われたとおりに椅子に腰かけ、先程渡されたばかりのバインダーを眺めた。


 ——数分後。

「お待たせしてすみません。お詫びの紅茶です。……ああ、如月さんも飲めるよう、今回はちゃんとデカフェですよ」

 その言葉に、朱里は目を丸くした。

「……いつ私がカフェイン駄目だって気付いたの?」

「この間、如月さんの部屋にお邪魔した時ですよ。ほら、以前は珈琲や紅茶の位置が戸棚の中だったのに、この間お邪魔した時はテーブルの上に変わっていたので分かったんです。流石にテーブルにある珈琲も紅茶も全部デカフェときたら、そりゃカフェインを避けてるってことに気づかない方がおかしいですって」

 得意げに笑う翔に朱里も笑い、心の中でやられた、と呟いた。

「翔って本当に情報収集が上手いね。はい、今回の依頼のバインダー」

「ありがとうございます。……へえ、今回は誘拐の依頼ですか。しかも相手方にばれないようになんて……今回も大変な任務になりそうですね」

 紅茶を飲みながら、翔は朱里に渡されたバインダーを見る。朱里は紅茶を飲みながら考えを巡らせる。

「一つ案はあるんだけどね……」

「案があるんですか⁉︎」

「うん、まあね。ただ、突拍子もないことだから他の案も考えなきゃいけないし。

 あと……依頼には関係ないけど、個人的に気になることがあってね」

 朱里の言葉に翔は、口に含んだばかりの紅茶を慌てて飲み干した。

「……個人的に気になることって?」

「なんで対象者の薫くんは、立花家じゃなくて宮部家で育てられることになったの?」

 翔は目を見開いた。

 確かに、依頼文には「諸事情あって」としか書いていない。朱里は別にそれがどんな事情でも依頼を翻すつもりはないが、ただ、それが喉に刺さった小骨のように引っかかって、気になって仕方がないのだ。

「……まあとにかく。翔、依頼者と対象者、そして対象者の今の保護者について、徹底的に調べて。どんな些細なことでもいいから、なるべく沢山の情報が欲しいの」

「分かりました。情報班の期待の星に任しといてくださいよ!」

 翔がどんと胸を叩くのを見て、朱里は頼もしいと微笑んだ。情報は喉に刺さ(朱里が引っ)った小骨(かかった疑問)抜く(解く)のにきっと役立つ。それにそもそも、どんな些細なものでも、情報は依頼の遂行に欠かせないものだ。

「じゃあ頼むね。あとさ、暗黒の疾風に入ってきたのは同じ年だし、もう長い付き合いなんだから、同期としてタメ語で話してよ」

「あー、それは無理です。他の奴に『なんで俺らは如月さんに敬語なのにお前だけタメ語なんだよ』ってど突かれますってば。ここは年功序列じゃありませんし、僕が情報班トップになるまで待ってください」

「……ならしょうがないかー。じゃ、私も情報収集頑張るけど、翔の方がそっちは長けてるから、本当に頼むよ」

 朱里は残った紅茶を飲み干すと、「紅茶美味しかった、ありがと」と言い残して自室に戻ったのだった。

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