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暗黒の疾風  作者: 秋本そら
Ⅱ 援助依頼「善と悪は紙一重」
22/37

任務の完了

 あれから、一週間が経った。

 朱里は報告書を首領に出しに行っていた。

「——そして最終的に、対象者は象の騎士によって射殺され、死亡した……か」

 首領は報告書の最後の一文を読み上げ、不意に目を細めた。

「……で、如月。ここに書いてないことも、あったんじゃないのかね」

 唐突なその問いに、朱里はギクリとした。

「ここに書いてあるのはあくまでも、この任務に関係することのみ。しかし、この任務に関係ないことも、あったんじゃないのかね」

「……」

「他の者から、あらかたは聞いている」

 首領にそうとどめを刺され、朱里は俯き、小さく溜息を吐いた。

「……ええ、ありました。私らしからぬことを、致しました」

 観念した朱里は、呟くように言った。

「対象者に尋問をする時……感情を、ぶつけました。冷静であるべきだったのに、久々にかっとしてしまい……」

 ぽつぽつと語る朱里の言葉を、首領はひたすら静かに聞いた。

「……今回協力を仰いだ、周りにマッドサイエンティストと呼ばれる彼女は言いました。

『私は確かに、周りの人々に批判されるような薬も、研究しています。怪我を早急に治す薬も、その研究から生まれたようなもの。動物実験もたくさんしています。たくさんの動物たちを殺してきたのです。周りが私をマッドサイエンティストと呼ぶのも、うなづけます。でも』」

 朱里はひゅっと浅く息を吸った。唇を噛み締める。頭の中には、ぼろぼろと涙を流しながら言葉を紡いだ彼女の姿があった。

「『でも……私がしていることは、私のしようとしていることは……悪なんでしょうか?』と。『私のしている事が倫理に反するのは分かります。でも、良かれと思ってずっと研究を進めてきたこの事は、悪い事なのでしょうか?』と」

 その時のことを思い出すと、朱里は身を切られるような痛みを心に感じるのだった。

「私たちの存在もまた、似たようなものです。自分たちは別に良かれと思って任務を遂行しているわけでもなく、自分のしている事が悪だと思いながら任務を遂行するわけでもないのです。それが善なのか悪なのかは、周りの環境が決める事ですから。わたしたちの行為を善と見るか悪と見るかはその人次第。けれど、何も背景を知らずにわたしたちの存在を、わたしたちの行為を()()()()()()()()()()()()行為は、私は許し難く思うのです」

 首領は、ゆっくりとうなづいた。

 朱里はそれを、見ていなかった。

「如月の言う通りだ。絶対的な善も、絶対的な悪も、そんなものあるわけがない。立場や状況、時代背景、ありとあらゆるもので変わってしまうもの……善と悪は、裏表なのだから」

 その声に、朱里はハッと顔を上げる。そして、その目を疑った。

 首領はそう、歯を見せて笑っていたのだから。

 首領がそんな笑い方をするところを、朱里は片手に入るほどしか見た事がなかった。いや、下手したら初めてかもしれない。

「他の者に聞いた話だと、対象者の話を聞いて苛立った者たちをお前は抑え、対象者の話が終わった後に、一人で感情をぶつけたらしいな。それは、何故だ?」

「……対象者の話が終わる前にこちらが口を挟んでしまっては、対象者は全てを語りませんから。それに……感情をぶつけるのは、一人だけで十分です。私があの場にいた全員分の怒りを背負い、ぶつけて仕舞えばよかったのですから」

 その答えを聞いた首領は「如月らしいな」と口角を上げた。そしてそのまま、バインダーに挟まれた報告書の表紙に、判子を押した。


 こうして、任務は完了したのだった。

これで「Ⅱ 援助依頼」は完結です!

いかがでしたでしょうか?

まだまだ物語は序盤。これからも朱里の物語は続きます。

温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

感想、評価、誤字報告等頂けますと幸いです。

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