区切り
牧野伊紀は、早々に見つかった。
意識はなかったが奇跡的に生きていた彼を、崩壊したビルから出したのは『司令塔』に指示された『象の騎士』たち武闘班だった。
『象の騎士』たちは外に出ると、伊紀に目隠しや猿轡をし、腕を縛ってから組織の車に彼を積み込んだ。目隠し等をしたのは、もし伊紀が組織に戻っている間に目を覚ましても、暴れたり声をあげたり、そういったことがないようにだ。
車の運転席に司令塔、後部座席に翔、目隠しや猿轡等をされた伊紀、そして象の騎士が乗っている。そして、その車の助手席に朱里が乗り込めば、発車の準備は出来た。
車は発進し、組織へとあちこちを迂回しながら向かって行った。
そして、その場に残された他の武闘班や新入りの誠は警視庁裏社会対策本部へと電話をかけ、その場の後始末を始めるのであった。
その後は、かなり慌ただしかった。
まず、表社会向けにはその時のことは『メイルズビルが老朽化の影響で崩れ、ビルの中にいた人は全員死亡した』と報道させた。勿論これには朱里や警視庁裏社会対策本部の根回しがあった。
次に朱里は首領に呼び出され、不確実な方法での計画の遂行を咎められるとともに、結果的には成功したためそのことについて褒められた。
「——お前の第六感は何故か何時も正確だな」
「ありがとうございます」
「しかし、いつ外れるか分からない。これからは確実にやるんだな」
「はい」
「あと、今回の計画の責任者は『司令塔』だったが……この状況では仕方があるまい。この計画の責任者を如月に変える。この計画の責任は、お前が全て負うことだね」
「——初めから、そのつもりでいました。私が全ての責任を負わせていただきます」
そして朱里は最近入ってきた男、誠についてを首領と話した。
「最近入ってきた柊誠という男のことですが——」
「言いたいことは分かっている。他組織のスパイではないかと危惧しているのだろう?」
「——なら、どうして構成員に入れたのですか」
朱里は誠を警戒していた。他組織のスパイではないかと読んでいたのだ。恐らく首領もそう考えただろう。ならば何故、首領は彼を構成員に入れたのか。それが朱里には分からない。
「如月にはまだ言ってなかったか。お前のことだからきっと自ら警戒して、あいつには重要なことは何も喋ってないだろうとは思っているが……まあ、念のため話しておこうか。
今、組織内では情報規制をかけている。下位構成員の名は知られてもまだいいが、上位構成員の名は偽れ、この建物内にある隠し通路は教えるな、組織情報は漏らすな……他にも様々な規制をかけている。詳しいことは後でメールで送ろう」
ありがとうございます、と軽く頭を下げる朱里に、首領は。
「ここであの男を殺せば、追い出せば、この組織を狙っている組織がどこなのか、それすら分からなくなる。手がかりはあの男しかないんだ。だからなるべくあいつに情報を漏らさず、あの男を泳がせ、あいつの化けの皮を剥がすんだ。
——これはある意味、任務の一種でもある。分かったね」
その声はどこまでも深く暗い闇のようで、そして、何よりも冷たかった。
そんな声にも、朱里は怯まない。表情を引き締め、先程よりも深く頭を下げ。
「——分かりました」
一言、返したのだった。




