違和感
「——あの、はじめまして」
後部座席から声がして振り返ると、そこには若い——というよりかは幼いの方が適切にも思える——男がいた。
朱里は若いながらも、実は組織の中では首領の次に地位が高い。そんな自分の立場上、組織内にいる人の名前は全員覚えているはずだった。なのに、知らない人がいる。そのことに、強烈な違和感を感じる。
その男の隣に座っていた、コードネーム『伝書鳩』こと原田翔に問いかける。
「——ねえ翔、こいつ、誰?」
「ああ、こいつですか。裏路地に捨てられてたのを拾ったんですよ。名前は、柊誠って言うらしいです。取り敢えず俺が面倒みることになって、なら少し仕事を見せようかと思いまして。こいつも、今日から暗黒の疾風のメンバーになりましたから」
「……柊、誠です」
声変わりの時期独特の声で誠は名乗り、頭を下げた。
「コードネームは後々決めるそうです。あ、あと——」
翔が話す声が、だんだんと遠くなるように、朱里は感じた。朱里の頭の中は今、違和感に支配されていた。
——柊、誠?
——捨てられていたにしては清潔感もあるし、飢えてもいない……。
——肌の色が悪そうには見えるけど……化粧にも見えるのは気のせいかな……?
——柊誠……その名前すら、信用できない。
その違和感がどこから来るのかは朱里にも分からない。ただただ、おかしいと思った。それだけだ。
だからだろうか。誠に名前を聞かれたその時。
「あなたの……お名前は?」と問われたその時、朱里は、とっさにこう答えていた。
「——夕子。風野夕子。よろしくね」
勿論、朱里は仕事でも、プライベートでも、この名前を使ったことがない。一度もない。
これは完全なる、嘘だった。
翔が何か言おうとしたが、朱里は軽く睨みつけて黙らせた。
誠が戸惑ったように尋ねてきた。
「それ……本名ですか?」
「そうだよ。仕事の時の名前を聞きたかった?」
「はい……。だって今、仕事中じゃ、ないんですか?」
そう問いかける彼に、朱里は直感でこう思った。
——こいつ、信用できない。
「……確かにね。うっかりしてたよ。仕事の時は、南條郁恵って名乗ってる」
「あの……ひっ!」
またもや翔が何か言いかけ、朱里に睨まれる。
朱里は素早く翔にメールを送る。そのメールを見た翔は、表情でどうしてかと問いかけたが、朱里はその目を見つめるだけ。
「——おい、首領の了承を得たぞ」
運転席でずっと電話をしていた司令塔が、朱里の肩を叩く。
「じゃあそうだね、あの二組織以外の組織のリーダーにメールを送ろうか」
そう言って、朱里はメールを打ち始める。
しかし。
朱里がメールを打ち終わり、送信ボタンを押すのと同時に震えたのは、司令塔のスマホ。
——『作戦を変更する。』




