電話の一報
「暗黒の疾風」とは何か?
一言で答えるならば、それは「裏社会に名を轟かせる何でも屋」だろうか。
暗黒の疾風は、殺人、詐欺、盗みなど、本当に様々なことをする。
ある時は、こんなことだって……。
その日、朱里は久々に表社会へと出かけていた。
きつめの化粧。陽に当たって艶めくお下げの髪。裾の長いおしとやかなワンピース。大人なパンプス。
本当の自分とも、仕事の自分とも違う彼女は、その時、秋月紅絹と名乗っていた。
やってきたのは、行きつけの書店。
「いらっしゃいませ——あ、秋月様。お久しぶりですね」
入り口近くのレジにいた青年が、朱里に声をかけてくる。お久しぶりです、と朱里は一言返し、久々に訪れた書店を見回す。
そこはチェーン店ではあるが、小ぶりでいかにも地元の本屋さん、という感じの場所だ。そのため、朱里は店員とすぐに仲良くなった。
あちらこちらに、手書きのポップ。そしてフリーペーパー。サイン色紙やサイン本もある。
本好きにはたまらない、小さな宝石箱。
そう例えるのがぴったりな書店だった。
朱里はこの書店をなかなか気に入っているため、いつも本の予約はこの書店と決めていた。それが大好きな書店を絶やさぬ第一歩だったりする、と朱里は知っていた。
手書きのポップがそこここにある本棚を、まるでそれこそ宝物を見つめる女の子のように見つめる朱里。その目の輝きも、その心臓の高鳴りも、全て宝石を見るそれと同じだ。いや、下手したらそれ以上かもしれない。
欲しい本を見つけるたびにその目は輝き、気になる本を見つけるたびにその胸は高鳴り——。
——iPhoneが、高らかに美しい着信音を鳴らす。
「なんで今……」
朱里は苦い顔をして、店を出てから電話に出る。
「——なあに?」
人目のない裏通りへと向かいながら、電話の向こうの声を聞いた。
「——分かった、今行く」
朱里は電話を切るなり、人目がないことを確認してからワンピースを脱ぐ。
するとそこに現れたのは、首まで隠れるぴっちりとした黒いセーターに、真っ黒なストレッチタイプのスキニージーンズ。いつ何があってもいいように、いつでも下にはこの二点を着込んでいるのだ。
手に持ったカバンに先ほどまで来ていたワンピースを入れ、真っ黒なスニーカーを取り出すとパンプスと履き替えた。パンプスも勿論鞄の中へと仕舞われる。
「——さて。『暗黒の疾風』、出番ですよ?」
気持ちを切り替えるべくそう呟くと、朱里はすぐに裏通りを駆け出した。
『——こちらはコードネーム『司令塔』。マッドサイエンティスト協会からの依頼で、彼らの敵対組織Live's Beautyを殲滅中だ。しかし雲行きが怪しい。そこで『暗黒の疾風』に助力を仰ぎたい。場所はメイルズビル』




