密会再び
朱里は首をぐるりと回し、肩をこきこきと動かし、そしてデカフェの珈琲を口にした。
疲れ目用の目薬をぽとりとさして、再びパソコンに向かい合う。
「……うん、そこまできたんだったね。じゃあ続きは……」
朱里は五十嵐を殺すための薬を手に入れたその日に、幸子にメールを入れた。
『薬が手に入りました。お渡ししたいのですが、ご都合のいい日はいつですか? お会いする場所は前回と同じ場所が良いと思いますが、いかがでしょうか?』
返信は、その日の真夜中にきた。
『明後日の深夜ならば空いております。同じ場所で大丈夫です。よろしくお願いします。』
幸子と待ち合わせをした当日。
その日も朱里は、ダンデライオンでタンポポ茶を飲みながら幸子を待っていた。すると朱里は何かを思い出したのか、
「ああ、そうだ」
と言って、数日前に購入した二つの目薬のうちの一つを鞄から取り出して、店長を呼んだ。
「店長、頼まれた目薬、買って来ましたよ。ただ、薬が値上がりしたのでその分もちゃんとお金くださいね」
「助かるよ、朱里ちゃん」
目薬を受け取りながらにっこりと微笑む店長を、朱里はじとっとした目で見る。その目にうっすらと殺意が滲んでいるように感じ、店長は、暑くもないのに汗をかいた。
「……おっと、ごめんごめん。今は、環奈ちゃんだね。ドーナツサービスするから許してよ」
「素早いご理解有難うございます。にしても店長、太っ腹ですね」
「外に出たがらない私に、いつもいろいろ買って来てくれる、環奈ちゃんへのお礼も含んでるからね。はい、チョコオールドファッション」
目の前に出された一番のお気に入りのドーナツに、朱里は思わずにやける。
「ありがとうございます。
……にしても遅いなぁ、幸子さん。もう待ち合わせ時間をだいぶ過ぎてるのに。」
心配そうな表情に変わった朱里が呟いたその時。
カランコロン、とカウベルが鳴り、依頼者の幸子が息を切らしながらやって来た。
「ごめんなさい! 仕事が長引いて……」
「大丈夫ですよ。取り敢えず座ってください。落ち着いたら、お話を始めましょう」
店長、お冷ひとつ、と朱里は呼びかけると、タンポポ茶を一口啜った。
出されたお冷を飲んで落ち着いた幸子は、紅茶とフレンチクルーラーを頼む。それと同時に朱里はタンポポ茶のお代わりとチョコドーナツを頼んだ。それらが二人のいるテーブルに運ばれたところで、朱里は店長に人払いを頼む。
人がいなくなった後は、もう話すだけだ。
「——幸子さん、こちらが毒薬になります」
そう言って朱里が取り出したのは、小さなジッパー袋。その中には『珈琲に混ぜるのなら』という月菜の計らいで茶色に着色された薬があった。
「この毒薬を珈琲に混ぜて、五十嵐さんに出してください。そうすれば、五十嵐さんは何の疑いも持たずに毒薬を口にするでしょう」
「……分かりました」
空気音の混ざった、掠れた声。
差し出されたそのジッパー袋を受けとる幸子の手が、震える。
「——怖いですか?」
「……ほんの少し、怖気づいています」
受け取った薬を握りしめ、少し俯いて笑うその引きつったその顔は、幸子がほんの少しどころではなく、とても怖がっていることを示している。
「そうですか……なら」
それを感じた朱里は突然iPhoneを取り出すと、それを幸子に見せびらかし、にこり、と笑う。
「——幸子さんは、怖がる必要はないのですよ」




