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暗黒の疾風  作者: 秋本そら
序章
1/37

とある繁華街にて

 男が、夜の繁華街を歩いていた。

 ふらふら、ふらふらと、千鳥足で。

「――さーぁて、次はどの店に入るかなぁ」

 赤く上気した頰と鼻歌が、そして足取りが、男が軽く酔っていることを教えている。

 客の呼び込みをする人、同じように酔っ払って歩く人、それを様々な笑顔で見ている人。光と音と、人間で溢れる繁華街。

「……んあ?」

 その中に、およそ似つかわしくない、女性が一人。ポニーテールを揺らしながら、しゃがみ込んで辺りを見回している。

 普段の男ならば、気にもかけなかっただろう。

 しかし、酔っ払った今は違う。

「どうかなさいましたー?」

 気分良さげな、明るい声をかけられた女性は、ちらりと男を振り返った。

 息を呑むほどに美しい、白い肌と黒曜石のような目。つり目を伏せて、彼女は赤い唇を開いた。

「……亡くなった祖母からもらったハンカチを……落としてしまって」

「おやぁ、それは大変じゃないですか! 一緒に探しましょう。どんなー、ハンカチですか?」

「……ピンク色の、バラの花が描いてある、薄手のハンカチです。……死ぬ直前に、祖母が『大事にしてね』と、渡してくれたもので……」

「じゃあ、本当に大事な、形見のハンカチじゃないですかぁ!」

 男は目を丸くして、ほろ酔いでありながらも真剣に辺りを探し始める。

 しかし、ハンカチはない。

「……えと、お嬢ちゃん」

水無月(みなづき)環奈(かんな)です」

「環奈さんはー、どこを通って、ここにきたんですか?」

 男の問いに、水無月環奈と名乗った女は細い指で裏路地を指して。

「あそこから……」

 その答えに、男は路地を覗き込む。煌びやかな繁華街に対して、薄暗くひとけのない、静かな場所だ。

「んじゃあ、一旦、あそこに戻りましょー。そこに落ちているかもしれないでしょう? ね?」

 肩を落として俯く環奈にそう言うと、男は彼女が頷くのを見てから、その裏路地に入っていった。


 しばらく進むと、闇の中にぼんやりと、なにかが落ちているのが見えてきた。

「あれって……」

 男が駆け寄ると、そこには見事なバラが描かれた、ピンク色のハンカチが。

「環奈さぁーん、ハンカ——」

 大声をあげた瞬間、突然襲いかかる衝撃。急に体から力が抜けて、意識が朦朧とする……。


 環奈は、男が完全に意識を手放す前に、素早く懐からペットボトルを取り出して、中身を飲み込ませた。

 ラベルに書かれた文字は『睡眠薬』。非常に強力で、ものの数分で効き目を発揮するものだということを、彼女は知っていた。

 もう今は気を失っている男を見下ろして、環奈は得意げに微笑む。

 そして、どこにそんな力があるのだろうか、男の腕を自分の肩に回して立たせると、繁華街へと歩き出した。


「お父さんったら、もう! またこんなところで酔っ払って!」

 繁華街には、泥酔した父親(意識のない男)を介抱する(環奈)の姿。夜中によく見られる光景だ。

「ほら、しっかりして! ……あー、もう。寝ちゃったかぁ」

 そこに、タイミングよく現れたタクシー。(環奈)はなんとかそれを呼びとめた。

「すみません、父が酔っ払ってしまって」

「大変ですね、手伝いますよ」

「ありがとうございます」

 運転手の力を借りて父親()を乗せ、(環奈)もタクシーに乗り込む。

 扉は勝手に閉まり、タクシーは動き出した。

 繁華街でよくある一幕。目にした人もたいして気に留めたりはしない、日常の一コマだ。


「……上手くやれました?」

 タクシー運転手の問いかけに、環奈は満面の笑みを返した。

「見て分からない? 上々よ」

「流石は『暗黒の疾風』ですね」

「ありがと、『黒翼(こくよく)』。あんたもタクシー運転手そっくり」

「実際そうですからね。忘れてません? 僕はタクシー会社に紛れこんで運び屋をする係ですよ」

「それもそうね。さ、はやく依頼を終わらせましょ」

 闇に紛れて消えていくタクシーの中で、そんな会話が行われていることに気付いた人はいない。


 タクシーの運転手。そして、環奈。

 二人は、裏社会でとても有名な組織の一員だった。

 その組織の名は、『暗黒の疾風』。

 殺しも盗みも誘拐も手がける、裏社会の何でも屋。


 その巨大な組織の中で、組織の名と同じコードネームを持つ環奈は、二十五歳という若さでありながら最も技量が高い者として、多くの構成員に畏敬の念を抱かれる存在である。

作者自身が忙しいため、投稿は気まぐれです。

続きが気になった方はブックマークをして更新通知設定をしておくことをお勧め致します。

また、私の書き慣れていない方面の小説となります(書き慣れないジャンルというと、普段からヒューマンドラマのジャンルで書いておりますので大嘘になるため、このような言い回しになりました)ので、多少お見苦しい点もあるかと思いますが、最後までお付き合い頂けますと幸いです。

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