9.ヒロインの現在【ヒロイン視点】
あの・・・
ヒロインの取り巻き達が、暴走しております。
もともと暴走気味でしたが!
少し猟奇的な発言をしております。
表現は柔らかいと思うんですが、気分を害される方がいらっしゃるかもしれませんので、ご注意下さい。
無理だと思ったら、読み飛ばして下さいね!
自衛大事!
そして、今回はシリアス回です。
ヒロイン視点だとシリアス回になるのは何故なのか・・・
私の名前は、井上 瑠璃花
14歳の時に異世界へ召喚され、早2年。
色々・・・色々ありました!
私のこの2年間のダイジェストです。
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私は、私を召喚した国から逃げました。
逃げた先で私を助け、その後恋人になったイリアさんと穏やかな暮らしをおくっていました。
しかし最近になり、私を召喚した国から追手がかかっていることがわかり、隣国の学園に通うことになったのです。
ダイジェスト完!
そして今、現在ーーー
学園に通うことになって・・・
イリアさんと離れて寮暮らしをすることに勿論不安はあった。
でも期待もしてたんだ。
同世代の友達が出来るかもって。
入学して暫くは、友達が作れる状況じゃなかった。
けど!!!!
ようやく!!待望の女の子の友達が出来そうです!!
そして私の周りを常にディフェンスしていた男の子たちは、私が保健室を避難所にするようになってから近づきにくくなったのか、私に付きまとう事はしなくなった。
そのお陰で私も以前ほどストレスを感じていない。
男性恐怖症気味の私には、クラス中の男子生徒が常に付きまとってくる状態は苦痛でしかなかったから。
これも全部アリスちゃんのお陰。
まだお友達になれていないけれど、親切で親身になって話を聞いてくれる、とっても素敵な女の子。
アリスちゃんの助言で、私は本当に助けられたんだ。
そのお礼にと、早速クッキーを焼いている。
お友達になる為の、きっかけにもなればいいなって、ちょっと思ってる。
でもお菓子作りが大好きだから、是非アリスちゃんに食べてもらいたい!
私が生まれ育った向こうの世界で、休日になるとよくママとお菓子作りをしていた。
とても幸せな記憶
ママのお菓子は、とてもとても美味しくて・・・
私もママの味を誰かに・・・アリスちゃんに食べてほしいと思った。
美味しくなーれ!
美味しくなーれ!
むむむ!と念を込めながら作ったクッキーは、我ながら良い出来だ!
外はサクサク、中はホロホロで、とっても美味しくできました。
クッキーを一枚一枚丁寧に袋に詰めてラッピングしていく。
けれど貴族のお嬢様が手作りクッキーを食べてくれるか少し心配だった。
そんな考えは簡単に吹っ飛ばされたけれど!
実際にアリスちゃんにクッキーを渡したら、想像以上に喜んでくれた。
渡したその場で、クッキーを一枚とり出し、口に入れるアリスちゃん。
すると、次の瞬間パアアアアッ!って光り輝いたように思えた。
彼女の空色の瞳はキラキラと星が瞬いているように煌めき、白磁のように白い頬は薄ピンク色に上気している。
小さな口をモグモグ一生懸命動かしている姿が、小動物を連想させて・・・
やだ、なに、めちゃくちゃ可愛い!!!!
アリスちゃん、可愛すぎるよおお!
コクリ。
アリスちゃんがクッキーを嚥下したようだ。
けど、ピクリとも動かない・・・
あれ?
それから数秒たって、フルフル小さく震えだしたよ?!
ど、どうしたんだろう?!
するとアリスちゃんは突然動き出して私に詰め寄ると、瞳をキラキラさせながら、私の手を両手で包み込んだ。
「ルリカ!とっても!!とっても美味しいわ!!!」
貴族のお嬢様のアリスちゃんが、感極まった様子で美味しいと言ってくれる。
私とママの思い出のお菓子を、本当に美味しそうに食べてくれる。
私は思わず嬉し泣きしそうになった。
その言葉が嬉しくて、へにゃりと笑ってしまう。
「え、本当?!お金持ちの人の口に合うか心配だったんだけど、良かったぁ」
「今まで食べてきた中で、一番美味しいクッキーよ!ルリカ、作ってくれてありがとう」
ふんわりと微笑んだアリスちゃんは、本物の天使様のようです。
「こちらこそ、ありがとうだよ?!助言をもらえたこと、とっても嬉しかったから・・・」
「大したことは言っていなくてよ?そうだ、私だけ貰うのは不公平だから、私のおやつなのだけど良かったら貰ってくれる?」
そう言って、アリスちゃんはどこからか取り出したポーチの中から、大量のお菓子を私の手の平いっぱいに乗せた。
「え、え、悪いよー!私がお礼したかっただけなのに!」
「ふふふ、気にしないでくださいな。お菓子はまだ沢山ありますし」
アリスちゃんがくれたお菓子は、宝石みたいにキラキラしていた。
小さな可愛らしいお菓子が自分の手の平いっぱいに乗っていて。
顔の筋肉が緩み、自然とニンマリしてしまう。
「ねえ、アリスちゃん。また、手作りのお菓子持ってきてもいい?」
「!!!!まあ、それは嬉しいわ!喜んで!!私も秘蔵のお菓子を持ってくるわね」
二人で笑いあう。
今度はお茶も用意するわね、とアリスちゃんが言った。
今度!
アリスちゃんが次に会う約束をしてくれた!
とっても嬉しくて、私は、はしゃいでしまった。
そして警戒心も薄らいでしまっていた。
私は追われる身なのに・・・
それを忘れ、浮かれていた。
決して、警戒を解いてはいけなかったのに。
アリスちゃんにクッキーを渡してから、数日。
毎日のように、お菓子の交換会をしている。
一緒にお茶とお菓子を楽しんで、穏やかな時間を過ごす。
アリスちゃんが持ってくるお菓子は、どれも可愛くて美味しい。
それに比べて私の作るお菓子は素朴だ。
なのに、アリスちゃんはどれも美味しそうに幸せそうに食べてくれる。
アリスちゃんといると、心がポカポカ暖かくなる。
お友達になりたいなあ・・・
どうやったら、お友達になれるかな・・・
ボンヤリ考えながら、私はアリスちゃんとの今日の待ち合わせ場所に向かっていた。
今日のおやつは、チョコレートキャンディだ。
ちょっとは可愛くみえるよう、包み紙にも凝ってみた。
アリスちゃんの反応が楽しみだな。
そう思いながら道を進んでいると、突然目の前に人が立ちふさがる。
「・・・ルリカ」
「え?」
名前を呼ばれ、その人の顔を見る。
すると、そこにいたのはクラスメイトの男子生徒だった。
名前は・・・憶えていない。
「え・・・と。なに?」
「何って・・・ルリカ酷いじゃないか」
今度は、背後から声を掛けられた。
後ろを振り返ると、数人の男子生徒が立っている。
「え・・・なに・・・なに?」
じわりじわりと包囲されていく。
「ルリカ・・・最近冷たいじゃないか」
「僕たちには目もくれず、あの令嬢とばかり仲良くして・・・」
「僕たち、寂しかったんだよ」
「ねえ、ルリカずっと僕と一緒にいようよ」
「いや、僕と」
「僕と」
「僕とだよ」
押し寄せる好意という名の狂気
恐怖のあまり、悲鳴さえ出ない。
喉がひきつっている。
怖くて怖くて、涙が滲んできた。
その滲む視界で迫ってくる男子生徒を見ていると、ふと違和感を感じた。
どの男子生徒の目も充血している。
そしてその顔はまるで能面のように表情がない。
何かがおかしい。
そう思っても、何がおかしいのかわからない。
「っっっ!!!!!」
私は、気力を振り絞り、その場から逃げ出した。
震える足を叱咤し、全力で走る。
「ああ、ルリカ待って」
「逃げるなんて酷いじゃないか」
「ルリカ、何故逃げるんだい」
「こんなに愛しているのに」
「ルリカ」
「ルリカ」
「ルリカ」
獲物が逃げたら、狩猟者は追いかけてくる。
そうだ。
私は彼らの獲物だ。
怖い・・・
怖い・・・!
そして否が応でも思い出す。
2年前、フランマ王国から逃げ出した時の事を。
あの時も、ひたすら走った。
走って走って、運よくイリアさんに救われたけれど、もしあの時イリアさんと出会わなかったら?
フランマ王国の兵士に捕まっていた・・・?
野獣の牙に引き裂かれ、殺されていた・・・?
もしもの話かもしれないけれど、いつでも私の側には、死の影があった。
だから、止まらない。
歩むのを止めない。
止まってしまったら、私はーーーーー・・・・・
必死に・・・
必死に走る。
けれど、狩猟者の方が俊敏だった。
私は背後から強く腕を掴まれる。
「きゃあ!」
「捕まえたよ、ルリカ」
「ヒッ・・・」
「さあ、行こうか」
腕を掴まれ、ズルズルとひと気のない部屋へ連れていかれる。
そして今度こそ逃げられないよう、ぐるりと周りを囲まれた。
震えて声も出せずにいると、私を囲んでいる中の一人が優しく声をかけてくる。
「ルリカ、脅えないで。ただ僕たちは君が大切なだけなんだ」
優しい声を出しながら、その目は怪しく光っている。
信用できない。
この人達を信用できるわけがない。
「わ、私を・・・どうするつもり・・・」
「ああ、愛しいルリカ。愛しくて愛しくて、僕だけのものにしたいんだ」
「けれど、君を求めている人間は、山のようにいる」
「何故僕だけのものになってくれないんだい?」
「僕だけのものになってよ」
「僕だけのルリカになろう?」
「それが無理なら・・・」
「無理だと言うのなら・・・」
「・・・みんなで分けようと思うんだ」
雰囲気がおかしい。
みんなニタニタ笑っているけれど、目が笑っていない。
「なにを・・・言っているの・・・?」
「ルリカを分ける話だよ」
そうして、一人がナイフを取り出す。
「僕は右腕を貰おう」
「僕は左腕を」
「僕は右足を」
「僕は左足を」
「僕は右目を」
「僕は左目を」
「僕は髪を」
「僕は胴体を」
「そして僕はルリアの頭を貰おう」
おかしい
絶対におかしいよ
いくらイリアさんの魔法の効果があるといっても、これは常軌を逸している。
みんな、最初はこうじゃなかった。
いつから?
いつから変わってしまったんだろう。
それぞれナイフをもった男子生徒が近づいてくる。
私はここで・・・
こんな所で殺されてしまうのだろうか?
身勝手に召喚され、家族と引き離され、イリアさんとも離され。
アリスちゃんとも・・・まだ友達になっていないのに。
「たすけて・・・」
か細い声で助けを求める。
誰か!!!!
誰か!!!!
誰か助けて!!!!!
ギュッと目を瞑る。
助けを求める事しか出来ない、力のない自分が嫌いだ。
なんでいつもこうなるんだろう。
2年前だって助けられてばかりいた。
あの時はイリアさんが助けてくれた。
でもここにイリアさんはいない。
私は物語の主人公じゃない。
都合よく助けてくれる人なんていないのはわかってる。
だけど!!!!!
死にたくない!!!!!
『ガチャリ』
緊迫した空気のなか、扉が開かれた。
そこに佇む人影。
光の逆光から、その人の表情は見えない。
ただ、室内を見まわし、首を傾げている。
そして、心底不思議そうに語りかけてきた。
「皆さん・・・寄ってたかって、か弱い婦女子を相手に何をしていますの?」
そこに
そこにいたのはーーー・・・
「アリス・・・ちゃん?」
ここ数日で、すっかり見慣れてしまった少女が、怪訝な表情を浮かべそこに立っていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
取り巻き'S気持ち悪いですね!(苦笑)
自分で書いていて、おいおいおい?と思っていました。
次はサッパリさせるつもりですので、また読んで頂けると嬉しいです。
次の更新は、来週を予定しております。
宜しくお願い致します!