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5.ヒロインの過去【ヒロイン視点】

ヒロインの過去話となります。

長いです!


私の名前は、井上(いのうえ) 瑠璃花(るりか)

異世界へ召喚された女子中学生です。

先日14歳の誕生日を迎えたばかりです。


異世界なんて漫画やアニメだけの世界だと思ってた。

今でも信じられないでいる。

私が・・・異世界にいるだなんて・・・


いつもの学校からの帰り道。

部活も終わり、友だちと早々に別れた私は、コンビニに寄り道して新作のお菓子を買い浮かれながら歩いていた。

もうすぐ家だな~と思いながら、コンビニの袋を揺らしゆっくり歩いていると・・・

突然光に包まれた。

本当に突然で・・・

眩しくて、私は思わず目をギュっと瞑る。

最初は雷でも落ちたのかと思った。

でもさっきまで雲一つない夕空だったのに・・・

何・何・何?!!


私は・・・パニックをおこしていた。

そして訳もわからないまま・・・

私はこの世界へ召喚されたのである。




光が弱まったので、おそるおそる目を開ける。

すると私は・・・知らない部屋の中央に立っていた。


「え・・・え??え???」


外にいた筈なのに急に室内に移動していることにも驚いたけれど・・・

それよりも私の周りを取り囲む人の視線が怖かった。

私を珍しげに見る瞳・瞳・瞳

まるで珍獣を見ているような瞳だ。

私は動物園の檻に入れられている動物になったかのように感じた。


ここは・・・どこなんだろう?

見たことのない外国人に囲まれ、私は半べそをかいていた。

そこに突然偉そうな人が現れ、声を掛けられる。


「よくぞ参られた、清らかなる乙女よ!ようこそ、我が王国へ!」


まだ年若く思われる煌びやかな衣装を纏う、カッコいいお兄さん。

だけど、なんだろう・・・

視線が・・・気持ち悪い・・・?


「そんなに脅えずとも大丈夫です。

 私の名は、テネブ・ラエ・フランマ。

 貴方が今いる、このフランマ王国の第三王子です。」


恭しく手を差し出されては、拒めない・・・


「私は・・・瑠璃花です。」


聴きたいことは沢山ある。

今はこの人に着いていくしかないみたいだと、その手を掴む。

だけど・・・手を添えた瞬間、背筋に寒気が走った。

なんなんだろう、これ・・・

何故初めて会った男の人に、こんなにまで拒否反応を示すのか・・・

わからないけど、怖い

ただひたすら怖かった。



フランマ王国へ召喚され、数日たった。

異世界なのに、お互いすぐ会話が出来たのも魔法の一部らしい。

そして一度召喚されると、もう帰れないと言われたが信じたくない。

帰れないと言われたけれど、日本へ帰ることは諦めていない。

ただそれを口に出せない。

この国の人を信用できないのだ。

みな、表面上は優しくしてくれる。

素敵なドレスを贈られ、豪華な食事を与えられ、ふわふわの天蓋付きベッドと可愛く広いお部屋でのお姫様のような暮らし。

けれど全く胸に響かない。

何故だろうと考える。

すると、彼らの瞳が気になることに気が付いた。

会う人会う人、珍しい動物に向けるような、そんな瞳をしている。

人に向けるような眼差しではない。

そう考えると・・・

私は人間として見られていないのだろうかと思う。

何故・・・?

その疑問が日に日に膨らんでいく。


何故私はこの世界へ召喚されたの?

何故私じゃないといけなかったの?

何故そんな目でみるの?

何故?!

何故?!

何故?!!


そしてある日・・・

部屋を抜け出していた私は、テネブ王子が廊下で私の知らない人と会話している現場に出会う。

罪悪感はあったけれど、引き返すのもなんだし、立ち聞きする形となった。

けれど彼らの会話は、とても恐ろしいものだった。



「良い子を召喚できて、良かったじゃないか、デネブ。」

「ありがとうございます、兄上。」

「器量もなかなか良いし、父上も新しい愛妾に喜ばれるだろう。」

「ええ、本当に良いモノを召喚できました。」

「それで父上にはいつ献上するんだ?」

「そうですね、この間迎えた299人目の愛妾は、昨日父上がうっかり殺してしまったと聞いていますし・・・

 早々に準備をして父上に献上する予定です。」

「ああ、そうした方がいいな。父上は今、機嫌が悪い。隣国の奴らのせいで、こちらにまで火の粉が飛んできては堪らない。」

「確かに。隣のルークス王国の奴らは生意気な奴ばかりで・・・大人しく土地と女を引き渡せばよいものを」

「あんな国早々に乗っ取ってしまえばいいと思うんだがな・・・」

「父上にも考えがおありなのでしょう。我らは王に従うのみ。300人目の愛妾が父のうっ憤晴らしになってくれることを祈りましょう。」

「それもそうだな。」


ハハハ!と明るく笑いあう声がするが、私は震えが止まらなかった。

なに・・・

なにを言っているの・・・?

愛妾・・・?

私が・・・愛妾・・・ってなに?

愛妾って・・・愛人ってことだよね・・・

しかも殺したって・・・

何故そんなに楽しそうに話せるの??!

これ以上会話を聞きたくなくて、私はソッとその場を離れた。

靴音をさせないよう、すぐ脱いで裸足になり、震える足を前進させる。

今にも膝から崩れ落ちそうだ。

怖い!怖いよ!

パパ!ママ!助けて!


部屋に戻り、ベッドに潜りこむと、声を押し殺して泣いた。

泣いて泣いて・・・

このままでは、私の処女も命も奪われるかもしれない事態に、この国を脱出する決意を固めた。

誰が、じじいの愛人になんてなるもんですか!

王様には会ったことはないけれど、パパより年上でしょ?

そんな人の愛人なんて有り得ない!

私は!!絶対に元の世界に帰るんだから!!


私は脱出の機会を虎視眈々と狙った。

まず外に行く機会を伺う。

異世界の街を観光したいとねだり、城下町へ連れて行ってもらえるよう頼みこんだ。

その計画は想像以上にうまくいった。

私はこっそりガッツポーズをとる。

城下町で何がなんでも、王子達をまく!

そしてこの国を脱出するんだ!

王子が言っていた、隣国のルーカス王国とやらに行ってみようと思っている。

フランマ王国とは険悪な関係みたいだし、助けてくれる人がいるかもしれない。

私は絶対に愛人になんてならないんだから!



それから数日

決行の日となった。

私には王子と複数の護衛がお供につけられた。

まず彼らを引っ掻き回す!

女の子の買い物を舐めないでもらいたい!

自分で買い物をしてみたいと、少々のお金をもらい、自分で買い物をしてみる。

勿論逃げ出す時に必要なものを、気づかれないように買っていく。

食べ物も、あれが美味しそう!これが美味しそう!と買い食いをしながら、次から次えと購入!

これは逃げたあとに、食べるのだ。

先程買ったばかりの魔法の鞄に収める。

小さな可愛らしい鞄なのに、どれだけ荷物を詰めても重くならないし、沢山の荷物が入るみたい。

凄く便利だ!

そして王子達をクタクタになるまで振り回したあと、休憩の為にお店に入ることにした。

逃げるならここだ!と思った。

チャンスがきた。

王子が飲み物やデザートを注文している間、トイレに行くといい席を立つ。

今日尽き従ってきたのは男性ばかりなので、見張りがついたとしてもトイレの前までだ。

油断しきっている王子達

今しかない!

私はトイレに入ると、室内を見渡す。

やった!小さいけれど、窓がある!

新体操部だった私は比較的身体が柔らかい。

何とか通れそうだ。

小さな小窓を開けて外を確認。

よし、行ける!

私は窓枠に足をかけて、スルリと外へ抜け出した。

外に出るとそこは小さな路地で、どうやらお店の裏側みたい。

先程買ったフード付きの上着を素早く着込み、フードを目深まで被る。

黒髪の人が少ないこの国では、私の黒髪は目立つのだ。

人ごみに紛れるべく、私は一歩を踏み出した。


まず直に追手がかかるだろうと思い、私は夜を徹して走る。

この世界は、多分地球に比べ、重力が軽い。

身体が軽く、どんなに走ってもそんなに疲れなかった。

追手に捕まるのが一番のデッドエンド。

そのまま王様の愛人になって殺されるかもしれない最悪の結末だ。

追手の他に御布令も出るだろう。

御布令が出回る前にこの国を出る!

御布令が出回ったら、私は未動きできなくなるだろう。

とりあえず、走る。

一歩でも遠くへ!


城下町に行く前に、この国の歴史を教わり、なんとなく周りの国の事も学んだ。

お日様が昇る方角が、ルーカス王国!

わかりやすい!

けれど、ルーカス王国に入る前に広大な森が広がっているらしい。

私は何としてでも、その森を越えなければならない。

恐ろしい獣がいるとか、魔女が住み着いているとの噂を聞いて、不安しか感じないけれど!

ここで進むのをやめるわけにはいかない。

何がなんでも生きてやるーーーーー!!!!


と意気込んでいたのは、昨日のことだった。

私は無事フランマ王国とルーカス王国の間にある森に辿り着けた。

けど・・・・・・


「道に・・・迷った・・・」


疲れ果て、木の根元に座り込む。

道というか・・・

道がない・・・

途中から道がなくなり、私は、けもの道と呼ばれる道をそれでも突き進んでいる。

けれど、行けども行けども何もない。

右を向いても左を向いても、鬱蒼とした木や草が生い茂っている。

慣れない道を歩いているせいか、足も痛いし、寒いし、なにより・・・

一人ぼっちで心細い・・・


「うううーーーー・・・」


じわりと涙が滲む。

泣いてもどうにもならない事はわかっている。

でも涙が出てくるのだ。

そしてお腹も空くのだ。

私はベソベソ泣きながら、鞄から城下町で購入したお菓子を出した。

パクリと一口かじりつく。

甘くて美味しい。

身体に染み渡る甘味に、少しホッコリしていると、身近から低い唸り声が聞こえた。


「え・・・?」

「ぐるるるる・・・」


犬っぽい低い唸り声・・・

まさか・・・

今この瞬間、獣に虎視眈々と狙われているなんて事ー・・・

ないよね・・・?

ないない、きっとない!

あはは!


「ぐるるるる・・・」


現実逃避をしたいが、唸り声は思っていたより近くから聞こえる。

そっと・・・そっと唸り声が聞こえる方向を見る。

うわあー・・・ギラギラ光る二つの目が見える!

私はビョン!と跳ね起きると、勢いよく木を登りだした。

絶対に走っても追いつかれると思ったからだ。

日本にいた頃は木に登ったことがなかった。

けれど、この世界では身体が軽く、ピョンと軽く飛び跳ねるだけで人の身長上まで簡単に飛ぶことができる。

木登りも初めてだけれど、簡単にスルスル上の方まで登れた。

夢中になって木を登っていると、木の根元に大きな犬・・・?狼?っぽい動物がこちらを見上げて唸り声をあげているのが見えた。

ぞわっと背筋に冷や汗が流れる。

危機一髪だった。

獣に襲われて、怪我をするのも、食べられるのも御免である。

私は獣が諦めて、この場を去るまで木の上にいる事にした。

だけど・・・何時間たっても獣は木の下をウロウロして諦める気配を見せない。


「私なんて美味しくないよ・・・もういい加減どこかに行ってよお・・・」

「ぐるるるるるる・・・」


このまま木の上で夜を過ごさなければいけないのか・・・

でも他にも恐ろしい獣がいるかもしれないから、寝る時は木の上の方がいいのかな・・・

そう考えていると、下からガリっガリっと引掻くような音が聞こえてきた。


「え・・・?なんの音・・・」


そして・・・下を見て後悔した。

獣が・・・ゆっくりと木を登ってきているではないか。


「ひっっ!!!!」


命の危機を感じ、身体がブルブルと震えだす。

あまりの恐怖に腰が抜けたのか、その場を動けなかった。


「やだ・・・やだ、やめて、こっち来ないで・・・」


ゆっくり近づいてくる獣。

赤く光る瞳と、口から見える鋭い牙がやたらよく見えた。

やだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!

死にたくない!!!!

死にたくない!!!!


「誰か・・・誰か助けてえええええ!!!!!」


精一杯大きな声で助けを呼ぶ。

もちろんこんな深い森のなか。

助けにくる人がいる筈なんてない。

希望がないことだって、わかってた。

私・・・こんな訳のわからない所で死んじゃうんだ・・・

そう絶望しかけた時・・・

その人は来てくれたのだ。


「その場を動かないで!!」


下から聞こえる人の声。

そして数秒後、木にドンっ!と衝撃が走った。

私はギュっと木にしがみ付いていたから、落下は回避できた。

けれど、木を登っていた獣にその衝撃は当たっていたらしい。


「ぎゃうううん!!!!」


獣は落下し、体勢を整える間もなく地面に叩き付けられていた。

そのまま死んでしまったのか、気を失っているのか、ピクリともしない。

助かった・・・の・・・?

身体の震えがまだ収まらない。

ぎゅうううと木に抱き着いたままの私に下から声がかかった。


「安心して。もう大丈夫よ。降りられるかしら?」


その声にプルプルと首を横に振る。

1人では降りられそうにない。


「わかったわ。ちょっと待っていて。」


そして数秒後

長いはちみつ色の髪の、とても綺麗な人が箒に乗って目の前に浮かんでいた。


「さあ、手を出して。」


ポーっと見とれて、言われるままに手を出すと、その人は私の手を掴む。

すると身体がふわりと浮きあがり、導かれるまま、その人の後ろに乗っていた。


「高いところ、怖くない?怖かったら、しがみ付いていてね。」

「あ、ありがとうございます!」


その人の言葉に甘え、黒いローブを纏うその人の身体に腕を回す。

その時に、あれ?っと思ったけれど、箒がスルスルと空中を進みだしたので、そちらに意識が持っていかれた。


「とりあえず、私の家に行くわね。もうすぐ日も暮れるし、今日は泊まっていきなさい。」

「あ・・・重ね重ねありがとうございます・・・」


優しい言葉と、暖かい手。

この世界に来て、私は初めて安心することが出来た。

本能的に感じていたのかもしれない。

この人は私の味方だと。


その後、森の中にある小さな可愛らしい家に到着した。

森の中にぽっかり空いたスペースがあり、家の辺りは花に囲まれている。

箒から降りた私は、ポーっと家を眺める。


「かわいい・・・」



ポツリと呟くと、ふふっとその人は柔らかく笑った。


「ありがとう。さあ、入って入って。」


家のドアを開き、中に案内されると、家の中もとっても可愛かった。

すっきり片付いているけれど、小物が家具が一つ一つ可愛い。

うわあ!うわあ!と1人興奮していると、その人がカップを持ってきてくれた。


「紅茶でいいかしら?良かったら、そっちの椅子を使ってちょうだい。」

「ふえ?はい!」


おかしな所を見られてしまった・・・

赤面しながら、案内された椅子に座り、カップを両手で握り締める。

暖かい・・・

強張っていた身体が弛緩していくのがわかる。

カップの中身を一口くちにすると、優しい味に思わず涙がこぼれた。


「・・・よっぽど怖かったのね・・・家の周りには結界が張ってあるから、ここは安全よ。」

「はい・・・はい・・・」


ポロポロ大粒の涙をこぼしながら、暖かい紅茶をゆっくりと飲む。

その人は私を優しく見守ってくれていた。

紅茶を飲み干すと、身体がぽかぽかになり、強烈な眠気が襲ってきた。

昨日は走り通しで眠れていない。

安心したからか、一気に眠気が押し寄せているようだ。

うつらうつらとしていたが、気が付くと意識を手放していた。




意識の覚醒は、美味しそうな匂いと共に訪れた。


「ふあっ?!!?!」


気が付くと、ふかふかのベッドの上で寝ていた。

まだ寝ぼけている頭で、匂いに釣られるようにフラフラと寝室を出た。

寝室の外は昨日案内された部屋で、家人が食事の支度をしていた。


「あら、おはよう。よく眠れたみたいね。」

「あっ!おはようございます!あの、ベッドありがとうございました!」


声を掛けられ、ようやく頭がハッキリと覚醒する。

勢いよく頭を下げ、お礼を述べると、その人はまた柔らかく微笑んでくれた。


「朝ごはんを作ったの。一緒に食べましょう。」

「で、でも・・・そこまでお世話になるわけには・・・」

「遠慮しないで!準備してしまったもの、一緒に食べてくれると嬉しいわ。」


テーブルの上には、美味しそうなベーコンと目玉焼きと新鮮な緑の野菜がお皿に盛られ、焼きたてのパンのいい匂いが漂ってきている。

色鮮やかなオレンジ色の飲み物も美味しそうだ。

ごくりと唾を呑みこむと、お腹もグーと空腹を訴える。


「う・・・」


赤面してお腹を押さえる。


「ほら、お腹がすいたぞーって、あなたの身体も言ってるわ。」

「はい・・・い、いただきます。」


そして二人で、ゆっくり朝食をとった。

ご飯もとても優しい味がした。


「とっても美味しいです!」

「ありがとう、お口にあってよかったわ。」


綺麗に全部食べきると、その人は食後の紅茶を出してくれた。

そしてお互い席につき、向き合う。


「少しは落ち着いたかしら?」

「はい、何から何まで、ありがとうございました。」


ぺこりと頭を下げると、その人は慌てて手をふった。


「いいのよ、頭を上げて!私も久しぶりに一緒にご飯を食べてくれる人がいて、嬉しかったわ。」

「あの・・・この森で、一人暮らしをしているんですか?」

「ええ、そうよ。ええっと・・・そういえば、自己紹介もまだだったわね。」

「あっ!」

「ふふ。私の名前は、イリア・ラテ・ノヴァ。この森に住む魔法使いよ。」


優しい笑顔に、私は嘘をつきたくないと思った。

この人に嫌われたくない。

けれど、異世界から来たと言ったら拒絶されるだろうか?

不安に思い胸をドキドキさせながら、自分の事を話す。


「私は・・・井上 瑠璃花です。異世界から召喚されて、この世界に来ました。」

「異世界から召喚?!!まあ・・・どうりで変わったオーラをしていると・・・」


オーラが見えるのですか?!

そして私は変わったオーラなのですか?!

どちらも驚くことだが、イリアさんの目には嫌悪感は浮かんでいない。

そのことにホッとする。

そして、今までのことを話す事にした。

フランマ王国の王子に召喚された事。

王様に愛妾として献上されるところだった事。

それが嫌で逃げ出した事。

ルーカス王国に逃げれば、何とかなるのではないかと考え、この森を通り抜けようとしていた事。


「そう・・・大変だったのね・・・」

「運よく逃げ出せて・・・イリアさんにも助けて頂けて・・・本当に幸運でした。ありがとうございます。」

「気にしないで。けれど・・・随分危ない橋を渡っているわね。」

「あはは・・・やっぱりそうですよね・・・」


今までは本当に運が良かったのだ。

こんな状態で、ルーカス王国までたどり着けるのか・・・

ため息が出る。


「ねえ、貴方がもし良かったらだけど、しばらくここにいない?」

「え・・・?」

「面目を丸潰れのフランマ王国から、追手がかかると思うわ。ルーカス王国へ向かっても今は危険だと思うの。」

「でも・・・イリアさんにご迷惑がかかるんじゃ・・・」

「大丈夫よ。この森には魔物もいるし簡単に手を出せないと思うの。」

「ま、魔物?!!」

「昨日貴方を襲った獣がそうよ。家には結界が張ってあるから簡単には入ってこれないわ、安心してね。」

「でも・・・昨日あったばかりなのに・・・迷惑しかかけていないし・・・」


こんな優しい人を巻き込んでしまってよいのだろうか・・・

涙目でイリアさんを見上げる。


「迷惑だなんて思っていないわ。むしろずっと1人だったから一緒にご飯を食べてくれる人がいて幸せよ。」

「・・・本当に・・・いいんですか?」

「もちろん!」

「ありがとう・・・ございます・・・」


嬉しくて涙が出た。

なんだかこの世界に来てから涙腺が緩みっぱなしだ。


「ただね・・・」


イリアさんが泣いている私の頭を撫でながら、爆弾発言をする。


「私、男なんだけど・・・男との二人暮らしでもいーい?」

「ふぁ?!!」


私は固まった。

確かに・・・昨日箒の後ろに乗った時に、固い身体だなと思った。

でも、綺麗な長い蜂蜜色の髪と、優しげな美しい顔と、スラリとした身体で女性だとばかり・・・

声もハスキーな女性だなと思っていたし・・・

なにより昨日抱き着いた際、とても良い香りがした。


お・・・おとこ・・・

茫然としている私に、イリアさんは悲しげに微笑むと、私に優しく声をかけてくれる。


「やっぱり嫌よね・・・こんな訳のわからない、女言葉を話す男の所で一緒に暮らすなんて・・・」

「え、や、嫌じゃありません!!それにその言葉使いも、とっても似合ってます!」

「本当?」


儚げなその姿にクラクラしながら、これで男って言われても!と心の中で思う。


「はい!本当です!こちらこそ、御迷惑でなければ私をこの家においてください!よろしくお願いします!」


また深々と頭を下げる。

イリアさんは嬉しそうに微笑んでいた。


「嬉しいわ、ルリカ・・・と、ルリカって呼んでいい?」


私はコクコク頷く。


「ふふ、これからよろしくね。」


こうして、私と魔法使いの暮らしが始まった。






あれから2年

楽しくてあっという間の2年間だった。

私はもうこのままイリアさんとずっと暮らしてもいいと考えるようになっていた。

私たちはもう家族だ。


けれど、ある日イリアさんが、ルーカス王国の学園に通う手筈を整えてきた。

一緒にいたかった私は、泣いて抵抗した。

けれど、イリアさんに説得される。

フランマ王国の手の物がこの森まで迫っている事。

むこうの国の魔法使いに協力な力を持つ人物がいて、このままではこの場所も見つかってしまうという事。

見つかってしまう前に二人でルーカス王国に避難しようという話になり、私はイリアさんの胸で泣きながら、ぐずり続ける。

イリアさんの言っていることはわかる。

でも離れたくない。


「可愛いルリカ。とりあえず、ルーカス王国の学園に避難してちょうだい。私は貴方が卒業するまでに地盤を固めておくわ。貴方が卒業したら、また二人で暮らしましょう?今後は家族増やして・・・ね?」


その言葉に私は真っ赤になった。

それって・・・それって・・・

プロポー・・・


「・・・わかった・・・」


小さくうなづき、イリアさんの瞳を見つめる。

イリアさんとはこの2年で、沢山の触れ合いを持ってきた。

優しく頭や頬や身体に触れてくれる。

私の身体が幼いせいで身体の繋がりは、まだもっていないけれど・・・


イリアさんは私の中で世界で一番大好きな人になった。

ま、まさかこんな事になるなんて!!

一緒に暮らしていくうちに、お互いがとても大切な存在になっていったのだ。


彼は私に優しく口づけをしてくれる。


「ルリカ、愛してるわ。必ず迎えに行くから、待っていて。」

「うん・・・私も大好きだよ、ずっとずっと待ってる・・・」




こうして私はルーカス王国の学園に通うこととなった。

学園に入学する際、イリアさんに相手が好む容姿に見える魔法をかけられる。

何かピンチに陥っても、誰かしら手助けしてくれるように・・・と。


だけど・・・

だけど、イリアさん!!!!

魔法が効きすぎてるみたいなんですけどおおおおおおおおお?!!


まず入学した学園のクラスの男子生徒ほとんどに好かれた。

私の周りにいるのは、ごつい男・男・男!!!!

フランマ王国の愛妾騒動で男性不信気味に陥っていた私には、とてもキツかった。

あ、イリアさんは別ですよ?

どんなにイチャイチャしても大丈夫だったから!


私の回りにいるのが男子生徒ばかりだった為か、学園に入学してから二か月たっても、女の子とは会話すら出来なかった。

もちろん女友達など出来るはずもない・・・

むさ苦しい男子達がディフェンスしているから。

何故こんなに好かれるのか!

効きすぎる魔法のせいか!

だって私何にもしてないもん!

トイレや更衣室にも着いてこようとした時は、本気でご遠慮頂いた。

何を考えてるのよおお!!


そして学園に入学して三か月がたった。

まだ私には女友達はいない。

女の子の友達が欲しいよう!!

ごついのヤダよう!

そうして気が付いた。

私・・・この世界に来てから女性との触れ合いが皆無なことに・・・

え、嘘・・・

私・・・もう何年も女の人と会話してない?!!

男の人としか会話してない?!!

そう思ったら、急にママや友人たちが恋しくなってきた。


そして・・・私は男の人に取り囲まれている現状にキレた。

お昼休憩になり、クラスの男子を振り切りトイレに駆け込む。

定番になりつつあるけど、私はそのままトイレの窓から外に出た。

四階だったけれど窓のすぐ横に大きな木があったので、そこに飛び打つる。

・・・が!

木に登るのは得意だけれど、私は降りるのが苦手なのだ。

なかなか・・・降りられない。

しばらく逡巡していたが、降りないことにはどうしようもできないと、やっと降りる決意をする。

木の上からゆっくりゆっくり降りていく。

けれど、降りるのが苦手すぎる私は案の定足を踏み外し、空へ投げ出された。

浮遊感に、ゾッとする。

四階相当の高さから落ちたら、下手したら死んじゃう!!

何故足を踏み外してしまったのか!

自分のバカさ加減に後悔しても遅い。

私はギュっと目を瞑り、衝撃を待った。

しかし私は固い地面に激突しなかった。

柔らかなものにぶつかったと思ったら、抱きとめられて・・・いる・・・?

目の前が真っ暗だ。

ふにふにとした柔らかな感触が顔全体を覆っている。

両手を顔の両端に持ってくると、弾力のある柔らかな感触が手のひらを包んだ。


(ん・・・?ん・・・?)


モニモニと柔らかなものを揉む。

柔らかい・・・

大きい・・・

なんて手触り・・・

触ったことのある感覚だけれど・・・

これは・・・

これは・・・


まさしく、おっぱ・・・!!!!!



どうやら私が落ちた時に女の子を下敷きにしてしまったらしい。

柔らかな胸の持ち主から声がかかる。


「あの・・・そろそろ退いて頂けないかしら・・・?」


鈴を転がすような、可愛い声。

私は慌ててその人の上から退いて、頭を下げた。


「え・・・あ!!ご、ごめんなさい!!あの・・・どこか怪我してないですか?!

「私は大丈夫ですよ。貴方はお怪我していない?」


優しく声をかけられ、顔を上げると、目の前には見たことのないような美少女がいた。

思わずポカンと口を開けてしまう。

なんですか、なんですか、なんて美少女ですか?!!

まず目につくのが、ピンクがかったキラキラの金色の髪

ふわふわした長い髪は艶やかで、その小さなお顔にハラリと髪がかかっている様はとても儚げです。

外国の海のような、透き通った水色の瞳がキラキラ陽の光を反射して、なんて綺麗なんだろう!!!!

真っ白な透き通る肌に、小さなさくらんぼ色をした唇から零れる声までなんて可愛いんだろう!

しかも細い身体に不似合な、豊満な胸!

先程、私が揉んでしまった、お胸様です。

はわあああああ、どこからどうみても、可憐な美少女だあ!

そして・・・女の子!!

女の子だああああ!!

久しぶりの女の子との会話。

しかも私のことを心配してくれている優しい声。

私はいつの間にか瞳を潤ませ泣き出していた。


「うええええん!柔らかい!女の子だあああああ!癒しだあああああ!」


そう癒しだ!

イリアさんとは違う優しい声音。

回りはゴツイ男性だらけで、召喚されてから会話をした相手は男性ばかり。

私は女の子との会話に飢えていたのだ。

お友達が欲しい!

心からそう願う。


「うええええん!私と・・・私とお友達になって下さいいいいい。」


ぐしゅぐしゅ泣いているとハンカチを差し出される。

え、こんな綺麗なハンカチ使っちゃっていいの?

そしてお友達になってくれるのかと期待を込め彼女を見上げる。

そしてその返事は・・・


「イヤよ、私死にたくないもの。」


そう返された。

え・・・?

えええええええ・・・?!!

なんでえええええ?!!




短編投稿は、ここまででした。

引き続き、新作6話を投稿致します。

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