思い出はただ哀しくある
ひどい夢を見るのだ。
ヒト、ニンゲン、それらが愚かな生き物だと考えを改めたのはいつの話であったか。少し昔の話、ヒトと我らーーーヒトの言葉で例えるなら魔物であったりケダモノであったりーーーは肩を並べ、語らい、寝食を共にし、また愛しいもののために共に武器を手に取った。
しかし、ヒトはとても脆いものだと我らは知っている。我らとヒトの”造り”が違うのだと気付いたのは、そう遠くない記憶の中にある。少しでも力加減を間違えるだけで彼らの腕を捥ぎ、彼らの命をも簡単に奪ってしまう。我らは臆病になった。彼らは恐怖するようになった。昨日まで共に笑い合っていたヒトが急にどこかよそよそしくなった。その目には怯えが写っていた。
気付いてからの我らの行動は早かった。ヒトが寝静まる深夜。森の木々も、森の生物も眠りにつくそんな夜。我らを見ているのは星々の光のみ。
音も立てずに、息を殺し、我らは逃げるようにヒトとの関わりを断ち、森の奥へと姿を隠した。きっとこれで良かったのだ。そう、我らもヒトも違う種族なのだと我らは”学んだ”。
ヒトは脆く愚かな生き物だった。我らは逞しく敏い生き物だった。ヒトは文明を重ね、我らは歴史を重ねた。
そしてある時、ヒトの中でも魔物の中でも、とんでもなく”阿保”なものが現れた。それは武器を持ち、或いは生まれ持ったその鋭い牙や爪で無抵抗なものを傷つけた。傷つけられたものの家族、親友、恋人ーーーそれらは例外なく悲しみ、憎しみを抱くようになった。争いが始まったのはそんないざこざが絶えなく続くようになってからだった。
ヒトにも、魔物にも、”私”は失望した。
争いは嫌いだと語らった仲ではなかったのか。共に戦場を駆け抜けただろう。ヒトの事が好きだと言っていただろう。守らなければと、言っていただろう。それなのにーーー
『きっと、お前と共にいる事は叶わぬのだろう。嗚呼、ミネルヴァ。できる事なら来世はお前とずっと一緒にーーー』
優しく笑っていたのに目に光がなくなってスルリと抜け落ちた手がどんどん冷たくなって周りは鉄錆臭くていつまでも周りからは争いの声が止まなくてただ幸せを願っていただけなのにそれを愚かなものたちが壊していくのだ嗚呼、嗚呼、許してなど、やる も のか
……せめて貴方と共に逝けたなら、私のこの報われぬ気持ちも、少しは晴れたのだろうか。
もう何百年もの前の話、貴方の声も、貴方の顔も、もう何も思い出せはしない。貴方は無事に輪廻を回ることができただろうか。私は未だ死ぬことはできぬ。ある意味”呪われた”種族だ。きっとこの先も貴方の元へと参ることはできない。
前の投稿からかなりの時間が経ってしまいました…!すみません…!
ここまでの読了ありがとうございました!