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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白蛇

作者: まひろ

 ボクの名前はラミュロス、今年16で成人したばかりの男子です。

 キルシア王国とブリタリカ王国の国境を覆っているミアー森の中にある村に住んでいます。

 ボク達の住んでいる村はミアーの森でもキルシア王国側で最果ての辺境の村と言われています。

 そんな村でボクは狩人として生活しています。

 最近だと隣国のブリタリカ王国ときな臭い噂がありますが……この森は何故か両国から不可侵の協定がなされているので戦争になっても巻き込まれないよね?

 まぁ徴兵とかの話も来てないし獲物が取れなければその日の生活も大変なボクには関係ないはず……


 考えてもしょうがないのでそんな話は置いておいて……今日は珍しい物を見つけた。

 白い蛇だ、ボクの村では白い蛇は縁起の善い物だとされている。

 ただこの白い蛇傷だらけだ……何かに襲われたようだ。

 ボクが自分をを見ていることに気が付いたのか白い蛇はこちらを見て威嚇してくる。

 う~ん……どうしようか悩みボクは白い蛇を手当てする事にした。

 ボクは白い蛇に近づいた。

 白い蛇はボクの行動と同時にボクに飛び掛ってきて腕をかんできた。


「……痛い」


 でも痛いと思っただけだった。

 この蛇は毒も無ければ既に肉を食いちぎる力も無い様だ。

 まぁいいや、このまま治療しちゃおう……と言っても人間の傷薬って蛇にも利くのかな……何もやらないよりマシだよね?

 ボクは傷薬を蛇の患部に塗っていった、塗った時若干噛み付きが強くなった。 そしてビチビチしている……染みるのだろうか?

 最後は自分の持っていた布を巻いた。 片腕で巻いたのでちょっとやりにくかった。

 とりあえず出来る治療は終わった……しかし蛇はボクの腕に離すものかという感じで噛み付いたままブラーンとしていた。

 さすがに痺れてきた……どうしようか?


「もう治療は終わったからいい加減離してくれないかな?」


 言葉が分かるわけ無いと思ったがとりあえず蛇に話しかけてみた。

 しかし意に反して白い蛇はこちらの言葉を理解しているかのように瞳を向けた後すぐに牙を離したのだ。

 蛇が離してくれたので噛まれた腕に傷薬を塗っていると白い蛇が近づいてきてその傷を舐めた。

 白い蛇は目を見開いたような状態で固まりその後ウネウネしだした……どうやら苦かったようだ。

 なんだか感情表現豊かな白い蛇だ……何にしろ治療と言う目的も果たしたのでこの場に留まる必要はもう無くなった。 今日は獲物を既に仕留めているので後は村に戻るだけ、俺は腰を上げて村に戻ることにした。


「それじゃあな、もう勝てない相手に見つかるんじゃないぞ」


 白い蛇にそう言って村に向かって歩きだしたのですが……何かが足から這い登ってきました。

 横を見ると……


「しゃー」

「…………何のつもりだ?」

「しゃー」

「もしかして付いてくるのか?」

「しゃー(首を縦に振っている)」

「…………何だこれ?まぁいいか」

「しゃー♪」


 さっきの蛇がいつの間にか肩にまで登っておりついて来るようだ……何と言うか頭がいいと言うか、蛇らしくないと言うか、なんとも言えないが……この状況に突っ込んだら負けな気がする。

 蛇の事は気にせずに村に戻ることにした、肩から下ろしてもまた上ってくるような気もするし、登ってこなかったとしてもついてくると思うから……

 そして歩く事一時間ほど、もうすぐ住んでる村という所で空に立ち上る黒煙を発見した。

 黒煙が上がっている方角は村の方角だった。


 ボクは走った、村に向かって兎に角走った。

 途中で木の枝などが体を傷つけていくがかまわず走った。 白い蛇はいつの間にか振り落とされないように腕に巻きついていた。

 走る事十数分、村に辿り着いたボクが見たものは……


 燃える家々―


 犯される女性達―


 斬り殺されている男達―


 笑い続ける見知らぬ鎧を着た大勢の人間―

 

 ボクの住んでいた村はこの世の地獄と化していた。


「あああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあ!!」


 気がつけばボクは弓に矢を番え敵に向けて放っていた。


◆◇◆


 …


 ……


 ………


 …………


 一体どうなったのだろうか……意識が朦朧とする……視界が歪む……それでも見ようとする……そうしている内に段々見えるようになってきた。

 そして見た物はボク自身だった。

 その姿は両腕を切り飛ばされており、眼球を抉られ、耳をそぎ落とされて、胸から下は見るも無残に切り刻まれており……既に事切れている姿だった。

 その隣には……助けた白い蛇が胴を切られ、頭が潰されていた。


 ああ……ボクは……ボク達は殺されたのか……そう、理解した


『くちおしや……くちおしや……』


 そんな時何処からか声が聞こえる……これはボクの思っている感情なのだろうか……しかしこの言葉の発する感情は分かってもボクはこの声の言葉を知らない、どこか異国の言葉のような気がした。


『恩を返すこと叶わず、敵を討つことも叶わず、この身朽ち果てることがくちおしや……』


 そこには知らない女性がいた。

 君は……だれ?


『妾は貴方様に手当てをされた白蛇にございます』


 君があの白い蛇か……ごめんね、巻き込んで死なせてしまった。


『違います……いえ、貴方の敵討ちと思ったのも事実ですが、妾はあの者達を知っているのです』


 それは……どういう事?


『あの者たちはブリタリカ王国の者……此度の件はブリタリカ王国の国王へーラーの陰謀でございます。 あの者が妾を排除するために動いたのです』


 君を……排除?


『妾の名はミアー、妾はこの森の管理者……と言えばいいのでしょうか? へーラーは妾を排除しミアーの森を無くしたかったのです。 そして妾はへーラーの罠にはまりボロボロになっていたところを貴方様に見つけられたということです』


 そう……だったんだ……


『力の大半を失っていた私は人間にすら抵抗できずに殺されてしまいました……ゼス様より受け渡されたこの森を守れなかったばかりか、妾を助けてくれた貴方様すら守れず、敵すら討てず殺されてしまったこの身がなんと情けない事か……』


 ……どうにも……ならないの?


『妾ではもうどうする事も出来ませぬ……だからこそ、この場に貴方様を御呼び致しました』


 どう言う事?


『妾の残っている力と、妾の魂を力へと変換し貴方様に渡すことが出来れば、妾の力を継承し貴方様に新たな命与えられる事ができるでしょう……ただ力を受け取れば貴方様そのものが変質し恐らく人間では無くなってしまいます。 だから決めて欲しいのです、人としてこのまま死ぬか、人でないものとして生きるのか』


 ……君はどうなってしまうの? どうしたいの?


『妾は……どの選択をしても消える運命にあります。 でも……そうですね、妾としては引き継いでくれる者がおればそれが何よりと思っております』


 ……君の力を引き継がせてもらえますか?


『ああ、感謝いたします。 これからの貴方様に光あらんことを』


◆◇◆


「奪うもん奪ったら全てに火をつけろ! もたもたすんなよ!!」


 国からの命令で俺達はこの村を……いや森を焼き払っていた。

 森の中にあった村の住人全てを犯し、壊し、皆殺しにした俺達は最後の仕上げに入っていた。

 そんな時である……突如大雨が局地的といえるほどにこの村に……森に降り注いだ。

 村はおろか森にも火をつけて最早燃えるのを待つだけだったものがあっという間に鎮火された。

 余りの不自然な出来事にその場にいた俺達は立ち尽くしていた。

 それもそのはずだ、森を、村を燃やしていた火は全て消える程の雨の中……それだけは燃えていたのだから……

 燃えている物の正体は、最後に抵抗してきたガキと白い蛇の亡骸だった。

 燃える炎の色は白、その炎は天を突くほど燃え上がりそして暴風を呼び起こし消えた。

 そしてその炎の後には……異形の化け物がいた。

 その異形の色は白、先程の炎と同じ白色、そして長く綺麗な髪を携えており、豊かな乳房も携えている。

 容姿は彫刻かと思われるほど整っており怖い位の美しさがある……人間の部分だけを見ればだが……

 その下半身は蛇、そして両の腕には鱗と、指には鋭い爪がある。

 そこにいるのは……化け物だった。


『くちおしや……』


 その化け物は聞いたことの無い言葉をしゃべった。

 俺達は最大限警戒しその化け物を取り囲んだ、相手は未知の生物何が起こるか分からない。

 そして決して油断はしていなかった……しかし気がつけば仲間が吹き飛んでいた。


◆◇◆


 ミアーの力を受け取ったと思ったら体が燃えるように熱くなった、そして激痛。

 余りの痛みにひたすら泣き叫んでいた気がする。

 痛みが治まり先程のようなあやふやな感覚ではなくちゃんと自分がはっきりする感覚がある。

 そしてミアーの記憶や思い、持っている力のことなどなどが頭に流れ込んできてボクと混ざっていく。

 全てが終わった。

 ボクはボクでは無くなっていた。

 妾は妾ではなくなっていた。

 ボクは、妾は、『私』となった。

 目を開ける……そこには村を、森を襲った敵がいた。

 敵は私を取り囲むように行動する。

 ……無駄な事を、しかしこんな奴らに私は全てを蹂躙されたのか。


『くちおしや……』


 尾を一振りした、敵の大半はそれで吹き飛んで行きそして地面を転げまわる。

 敵は驚愕した顔をしている。


「な……何が起こった?」


 どうやら先程の動きがこの人間達は全く見えていなかったようだ。


「貴様一体何をしたぁ!!」


 そう言いながら敵が私に切りかかってきた。

 ……遅い、遅すぎる。

 こんな物を避けるのは簡単だ……しかしあえて私はそれを受けた、知識でこんな物では傷は付かないと分かっていても確かめて見ようと思ったのだ。

 結果は―


 ― ガギン!! ―


 私に振るわれた剣は私に当たると半ばから折れ、折れた剣先は剣を振るった敵に跳ね返りそのまま敵の頭を切り裂いた。

 敵の一人はそのまま絶命した。


「ば……化け物だ!!逃げろぉぉぉ!!」


 敵はそう叫ぶと蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。

 しかし私は逃がすつもりは無い……この場にいる敵は全て殺すと決めている。

 私は逃げていく敵を睨みつける。 するとどうだろうか……敵だった物は全てその動きを止めた。

 今の私の力の一つ『蛇目の魔眼』私が対象とした物の動きを止める……ただそれだけだ。

 そして私は動きを止めた敵にゆっくりと近づいていく……そして耳元でささやく……


『私は……ブリタリカ人(お前達)を絶対に許しはしない』


 私の声を聞いたその敵は恐怖で発狂寸前になっている……では止めを刺そうか

 私は髪に力を込めた、その瞬間私の髪が舞い上がり一つに纏って行きそして……毛先が蛇の頭へと変化した。


『いい声で鳴いてくれるとうれしいな……』


 そしてその蛇は男の首筋に噛み付いた……すると男の体が見る見る変化していった。

 体中に皺が出来干からびていっているのだ。


「ああ……あああぁぁぁあぁぁぁあぁぁああ」


 男は叫んだ……それはこの男の断末魔の様だった。

 蛇がその男を放すとそいつは崩れ落ちた、まだ男は死んでおらずかろうじで生きている様だったが……その姿は悲惨。

 骨と皮だけとなり、毛は全て抜け落ちており眼球は飛びてるような状態……高齢の老人を更に干からびさせたような状態であった。


「ぁ……ぁぁ……」


 男は既に声はまともに出る状態ではなかった。


「ぁ……す……ヶて」


『だーめ』


 そしてその男の最後は……蛇に丸呑みにされてその命を終わらせた。

 私は今やったことを全ての敵に見せていた。


『さあ、次は誰かな?』


 恐怖と言う名の宴が始まった。

 奏でる音色は絶望の断末魔也。

 その宴はそこにいる人間全ての生命が潰えるまで終わらない。


◆◇◆


 その後の話をしよう。

 ミアーの森より突如現れた化け物は、化け物の軍団を率いてブリタリカ王国を襲撃。

 その力は圧倒的で瞬く間に攻め滅ぼしてしまった。

 しかしその後その化けも物力に危機感を覚えた周辺諸国、セピア帝国、コーポ、マドア共和国、キルシア王国は連合軍を編成、ブリタリカ王国を滅ぼした化け物を討伐することとなる。

 結果だけを見れば化け物は討伐された。

 しかし連合軍に与えられた被害は甚大なものでその軍事力の70%を化け物の軍に削ぎ落とされたと言う。

 そして化け物の最後は蛇の体を切り落とされ、炎に包まれて消えていったと言う。

 消えていくとき、その化け物は一つ呪詛を残していた。

『何時か必ず戻ってく』と……


 車椅子に座る老婆と少女がいる。

 その老婆はどうやら足を無くしている様だ、そしてその老婆の御伽噺を少女は聞いていたようだ。

 そしてその老婆の御伽噺も終わり、少女は口を開く。


「ねぇおばあ様、そのお話の化け物は本当に死んじゃったの?」


「そうさねぇ……そういうお話になってるねぇ」


「ふ~ん……そうなんだ……」


 話は終わったのか少女は老婆の座る車椅子を押して自分達の住んでいる家に向かった。

 家に向かう途中少女は老婆に語りかけた。


「おばあ様……刻が来たら、私の好きにしていいんだよね?」


「その刻が来たら、ラミアーの好きにすればいいよ」


「うふふ……楽しみだなぁ……」


 少女の蛇目が妖しく輝いていた。

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