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エデンオンライン  作者: あやなん
ライとの出会い
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8話

8話



「いやああああああああああああああああああああああああああああ」


大森林の入り口のある西側に俺の大絶叫がこだまする、自分の叫び声で耳がキーンってなる


(だからいったんだ、イヤな予感がするからやめようって!なんどもなんどもやめようっていったんだ!)


いまにも力が抜けて座り込みそうになる足をなんとか前に動かしながら、声を出せば悲鳴しかあげれないノドからなんとか言葉を紡ぎだす


「奈々さん帰ろう、むりだよ絶対むりだよ!かえろ………ってきたああああああああああ!ぎゃあああああああ」

「ばかねあと少しじゃない、いくわよ!」

「いやだああああああああああ!!」


無常にも俺の嘆願は届きませんでした

ていうか奈々さんはなんで平気なわけ?男の俺がこんななのに゛アレ゛をいまも剣で殴り飛ばしてる

うわ足が飛んだ!緑の液体が出て……うぷっ


「いい加減……くたばりなさい…よっ!!!」


奈々さんの斬撃がトドメとばかりに魔獣を砕く

俺の言葉がおかしいんじゃないよ?斬るんじゃなくて、砕くの

奈々さん曰く『威力とは力×速度×質量だと思うの!』とかいって2メートル近い剣を振り回してます

さすが戦士はちがうなーなんて思ってたら男の戦士の人が呆然と「まぢか……」なんてつぶやいてたから、この人はちょっとおかしいのかもしれない

戦う奈々さんをおいてこっそりと大木の後ろに隠れながらそんなことを考えていたら、どうやら戦いが終わったらしい

アレの姿が霧散するのを視界のはじっこで確認してから「ふいーー」と汗を拭いつつ合流する


ゴチッ!「痛い!!」


奈々さんに殴られた、ものすっごい痛い…目がチカチカする

右手で大剣を地面につきさし左手で握りこぶしをつくりながら怖い顔をしてる、汗かいておでこに髪がくっついてるし髪もボサボサになってるのに、やっぱり美人さんは美人さんだ

痛みにちょっと涙ぐみながら両手で頭をさすっていたらお叱りの言葉が降ってきた


「あんたなに隠れてんのよ!手伝いなさいよまったく!」

「だって……アレキライ……」

「戦わなきゃやられちゃうのよ?だいたい゛クモ゛なんて別に…」

「あーー!!あーー!!あーー!!」


俺は耳をふさぎ大声をだし防衛体制をとる!その単語も聞きたくない!

聞いただけで鳥肌が、ううー


「……そんなにイヤなわけ」

「あーあーあーあーあー」

「ああもういいわよ、はやく集めてかえるわよ」


剣を背中の帯にくくりつけ、俺をジト目でみつつため息をつきながら手をひらひらさせ平原へと戻っていくのを追いかける、と


あれ?おかしいな、あれ?あれれれ??


「奈々さんまって、袋が…ないかも……えへ」


こちらを振り返りもせずにその場で立ち止まるというか固まってる…?

これはまずい絶対にまずいさっき怒られたばっかりなのにまた怒られてしまう

頭にゲンコツじゃすまないかもしれない、冷や汗をかきつつ辺りを見回すけどやっぱり見当たらない

半日かけて集めたのが無駄になるし今日の収入がなくなってしまう、袋だってタダじゃないんだから収支はマイナスになっちゃう


「ごめんなさい、森の中かも、ちょっとみてくる…」


なにも言葉を返してくれない奈々さんの怒りは相当なものなんだ、足を引っ張ってばかりなんだから当然だよね

少しでもがんばる姿勢をみせないと呆れられてしまう、嫌われてしまう

日本ではなんどもなんども繰り返し味わってきたことだけど家族や幼馴染がいた、決して1人になることはなかった

でもここでは親しい人は奈々さんだけだ

まだ一緒にいるようになって1月ほどだけど寝食を共にしてるし収入を2人で足してやりくりしてることもあって仲良くなるのはあっという間だった

この人に見捨てられたらこの世界で1人になってしまう

それはいままで味わったことも想像したこともないほどの恐怖感だ、絶対にそんなのイヤだ

しっかりしないとと、もっとがんばらないとといつも思うのに結果に結びつかない

兎にも角にもいまは袋をみつけるのが大事だ、きっとアレと遭遇したあたりにあるはず


きびすを返して平原とは逆方向に歩きだした


(どうかなにもでてきませんように)


と心の中で祈りつつ視界の悪い森の中で茂みを抜けようとしたとき


「ほんっとドジね、ていうか魔獣でてきたらどうすんのよ、さっさとみつけて採集にもどるわよー」


頭をポンポンと軽くはたかれて俺は固まってしまう

呆然と先に歩を進める奈々さんをみつめる、ちょっと視界がボヤけてる、うう


「はやくいくわよーそれとも1人でそこでまってる?」


そういう奈々さんの顔は少し笑っているようにみえた、この顔も知ってる

いつも少し先で待っててくれる幼馴染たちの笑い方だ


『はやくこいよーおいてっちゃうぞー』


いつもそういって俺がくるのを待っててくれる、そんなもう会うことのできない幼馴染とのやり取りを思いだしながら、目の前にいる人がそばにいてくれることの幸せを改めて感じた

俺は声をだすとこらえてるものがでてきてしまうのがわかるから、首をブンブンと振って答える


「……はやくしないとアレがでるわよ」


その一言は絶大だった

瞬間移動したかのようなスピードで奈々さんのもとへいき、身体にしがみつきながら周囲を見渡す


「ふだんトロいクセに、こんな速く動けたりもするのね…」


そういいながらため息をもらしつつ森の中へと進んでいく奈々さんの服を握りしめながら後をついていく

探し物はすぐにみつけることができた

袋はやはりアレと遭遇した辺りに落ちていた、中身も無事で一安心

その後は平原での採集を終えアヴィニヨンへと戻ってきた




部屋を間貸りしている薬屋のオーナーさんに「ただいまー」と声をかけてから2人で暮らす2階の部屋に向かう、当初のテント暮らしから比べて格段に住みやすい

2階には4つの部屋があり、オーナー夫妻で2つ、倉庫として1つ使っていて、余っていた1つを俺たちに間借りさせてくれているのだ

町の中に冒険者を住まわせるのには色々と問題があるらしいのだが、奈々さんと俺が年若い女の子で素行も良さそうという理由で許可がでたとかなんとか

薬屋の夫妻の薬草採集の依頼をずっと続けていたおかげで仲良くなれていたことなどで、こうしていい暮らしができるようになったのだ


「あやーマナはどのくらい?」


部屋にもどりおおまかに装備品を棚に立てかけて、1つしかないベッドに寝転んだ奈々さんが聞いてくる

髪も服もそのままだし手も洗ってないとおもうんだけど…

この人は最初はしっかりしてるとおもったのに、慣れてくるとけっこういい加減というか女性としての慎ましやかさに欠けるというか

いつまで経っても返事のこない俺に急かすかのように寝転んで目をつぶったまま声が飛んでくる


「あやーーーどうなのよーーー」


おっといけない、聞かれてたんだ、えーと通行証をみて…と

マナ保有量をみると


≪白4つ≫


と表記されている。この世界でのマナ保有量は 黒>赤>紫>青>緑>黄色>白 となっていて、過去に1度だけ黒表記が確認されたことがあるらしい

だいたい白1つでもらえる硬貨は1銀貨だ

薬屋の1ヶ月の売り上げが3銀貨ほどで収支だと1銀貨くらいらしいから、1ヶ月で4銀貨貯めたのはけっこうすごいんだよね

というのも薬草採集を定期的にこなす代わりに宿代はタダだし、奈々さんがはちゃめちゃに強いものだから順調にマナが集まってるのだ


「えと、白4つだよ」

「わたしが6つだから、んーなかなかに順調といえるわね」

「うん、奈々さんの欲しいっていってた鎧?って銀貨21だったっけ」

「そうだけど、レベルがあがってからそんなに必要も感じなくなってるのよね…、もうすぐ1次転職が受けれるわけだし、しばらくは様子みてもいいかなー」


奈々さんはすでにレベルが8になってる、俺なんかまだ5なのに、なんでだ!


「あんたは魔法撃てるチャンスがあっても逃げ回ってるからよ」


口にはだしてなかったハズなのになんでバレた!まさか思考を読むスキルでも覚えたのかな


「顔にすぐでるからわかりやすいのよ考え読んだりできるわけないでしょー。あ、薬草を下に届けておいてね、ちょっと休むわ」


こわい!奈々さんこわい!おかあさん並みに読んでくる!

部屋の隅っこであーうーあーと唸っていたらまくらが飛んできた、俺のまくらだヒドイ

ジイッと寝転ぶ犯人をみると手のひらで『はよいけ』といっている

この人絶対日本で住んでたころはグウタラだったとおもう、マチガイナイ

棚においてある袋とまくらを取り替えて依頼の薬草を届けにいく

2階から階段を降りた先には店内に続く扉があり、カウンターの内側にでれるようになっている

おじさんとおばさんと、今日はどっちがいるのかなーとか考えながら木の扉をノックする


ガチャッ


木の扉が開き中から50代くらいのおばさんが顔をだす、俺が袋をもっているのをみるとニッコリと微笑を浮かべながら受け取ってくれる


「いつもありがとうね」


ここでお世話になってまだ10日ほどで、まだちょっと話すのがうまくいかない俺は首を振って『そんなことないです』と伝えつつ、がんばって笑ってみる

むう、ちょっと顔が引きつってる気がする

本当にここに住まわせてもらえて助かってるしおばさんとおじさんにはものすごく感謝してるんだけど、ちゃんとキモチを伝えれてないとおもう

なのに2人の前にでるとうまく言葉にすることができないでいる

ちゃんとしなきゃって思うだけじゃダメなんだよな…

そんなことをウジウジ考えていると後ろの外扉が開いて、おじさんが帰ってきた


「ただいま。お、帰ったのかい、いつもすまないな」


俺をみるとおばさんと同じように優しく声をかけてくれる

最初はひげもじゃで身体はでっかいし声は太いしでビクビクしていたけど、すごく優しい人だってわかってからは怖くなくなった

軽くおじぎをして、精一杯の笑顔で答える


おじさんは腰に提げていたモノ袋からなにかを取りだすと、俺に向かって歩いてくる


(なんだろう?)


と、おじさんを見上げれば『口を開きな』といわんばかりに口を開く仕草をしている


???


わけもわからず口をあけると、なにかが入ってくる


「むぐっ………?」


おばさんを見やるとニコニコと笑っているし、おじさんを見やると笑顔を浮かべつつ俺の様子を窺っている

これは、なんだろう?舌でソレを触ろうとしたとき理解した


飴だ!甘い!


この世界にきてからおやつなんて食べてなかったし、甘味なんて望むべくもなかった

日本にいたころは大した贅沢とも思わなかったけど、いまは心のそこから渇望していたものが突然やってきた!

背筋が震えるほどおいしくて、目を閉じて口の中をコロコロと飴を転がすと甘さがさらに広がる

甘い味を飲み込むと鼻からなんともいえない、いい匂いが突き抜けていく

おいしいおいしいおいしい、ずっと舐めていたい、幸せだーーーー


至福のときを過ごしていた俺だったが、徐々に飴の大きさが心許なくなってくるにしたがって現実に戻ってくる


(もうちっちゃくなっちゃった、おいしかったなーー)


と、ふと気づく、なにやら頭に違和感を感じる、なんだろうと目を開けてみれば


はい、おじさんとおばさんに頭を撫でられていました

ものすごいいい笑顔でおじさんは右側にたって左手で、これまたすごくいい笑顔でおばさんは左側にたって右手で

い・・いつからこんな状態に

恥ずかしさと混乱と飴のおいしさで訳が分からなくなって、目がくるくる回る

おばさんが肘でおじさんをつついてる、おじさんが飴の入ってた袋を俺に渡してくれる


「もっていきな、2人で食べるといい」

「もうこの年になると食べなくなるから、あたしたちはきにしなくていいよ」


2人は笑ってる

飴はすごくおいしかったしもらえて嬉しい

でも、そうじゃなくて、2人の優しさで胸がいっぱいだった

なにかいわなきゃ、キモチをつたえなきゃ、ありがとうって、いつもありがとうって

なのに下を向いてしまう、顔をみていわなきゃダメなのに、でもいまは声をだすことでギリギリだ

ここでいわなきゃこの先もずっといえない、いうんだ!


「あ…あり……がと……ま…す」


もらった袋を両手で握りしめながら、ノドに突っかかる言葉をなんとか振り絞った

伝わっただろうか?伝えられただろうか?おじさんとおばさんの優しさに、こんな言葉だけでキモチを全部あらわせられないけど、少しでも伝わってほしい


おずおずと、2人を見上げようと、顔をあげる


むぎゅっ!


一瞬なにが起きたのかわからなかった

視界がふさがり呼吸が止まって息がしにくい、しかもなんか足が中に浮いてる!

とおもったら、おばさんに抱きしめられてました、おばさん力つよい


「おい、絞め殺す気か、はなしてやれ」


おじさんの声が聞こえる

ありがとーはやくたすけてーー


「なんだい、ジャマしないおくれよ」


そういいつつもおばさんからやっと解放されて、大きく息を吸い込む、ぜーはーぜーはー


ふぎゅっ!


またもやなにが起きたのかわからなかった

視界がふさがり呼吸が止まって息がしにくい、しかもなんか足が中に浮いてる!さらに今回は痛い!!なんかゴツゴツしてる!!

とおもったら、おじさんに抱きしめられてました、おばさんより遥かに力つよい……


「ちょっとあんたまでなにやってんだい!」


おばさんの声が聞こえる

おねがい…たすけ……て………


「お前だけずるいだろ、俺にだって権利はあるハズだ」


そういいつつもおじさんからやっと解放されて、大きく息を吸い込む、ぜーはーぜーはーぜーはーぜーはーぜーはー………

思わず床にへたりこんでしまう


「ほらみなよ、あんたのばか力で抱きしめるから!」


いえ、おばさんとのダブルパンチの威力です、ひー

そこからおじさんとおばさんの夫婦ケンカなんだか、俺を心配してくれてるんだかよくわからない言い合いがはじまった

2人からの気遣いが申し訳なく、なんとか立ち上がって部屋へともどった

ドアをしめ、「はあああああああ」と、大きく息をはきつつ床に座り込む

疲れた、ものすっごい疲れた


そんな俺の苦労も知らずにベッドで寝こけていた奈々さんが顔だけこちらに向け、半分寝てそうな目をしながら聞いてきた


「……どうしたの?」


疲れ果ててモノをいう元気もない俺は、そっと飴袋を差し出しながら一言だけをなんとか吐き出した


「飴ちゃんです………」


最後の力を振り絞りフラフラ歩きだし、そのままベッドになだれ込んで体力回復と精神力回復にいそしんだのは当然の結果といえる


(ご飯食べてないし、身体も拭わなきゃ、足も洗ってないや、けど……つか…れ…た)


俺の異世界1ヶ月目は、こうして幕をおろした。明日こそは平和でありますように!

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