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エデンオンライン  作者: あやなん
はじまりのアヴィニヨン
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7話

7話



幼稚園にはいった初めての日のことは今でもよく覚えている

おとうさんもおかあさんもいなくて、不安で怖くて、幼稚園の先生や友達たちが声をかけてくれたけど返事もできずにただうつむいていた

1ヶ月くらいかかってようやく友達と一緒に遊び始めたけど、まったくしゃべったりとかはできなかった

小学校の入学のときはちょっと成長した

入学式の翌日には隣の席の女の子に挨拶を返すことができた!手やひざがフルフル震えていたけどね

結局6年間で幼馴染の2人以外には友達はできなかった、おとうさんの実家との問題が俺のセイで大事になってしまったことで、感情をうまくだしたりできなくなっていたんだ

おとうさんもおかあさんも俺を責めたりはしなかったし優しくしてくれたけど、俺の気持ちはいつも申し訳ない思いでいっぱいだった

中学校はとても楽しかった

部活にはいりました、美術部だけどな!けど3年間でいろんな経験ができたと思う

先輩や後輩と過ごす放課後はたのしかったし、実家との軋轢で精神的にまいっていた俺は絵を描くことで平静を保ててたと思うし、放課後を部活で過ごすことによって家や家族との距離をとることもできた

そして高校入学を期にバイトでも始めようかなーなんて思ってたんだっけ



「お前だまっとけよ!!」

「俺が先に声かけたんだろうがよ!」

「あ、俺ササキっていうんだけど、戦士でもうレベル2なんだよね」


はっ、現実逃避してる場合じゃなかった

目の前で繰り広げられる光景に思わず遠い目をしていた俺は、慌てて現状打開にむけて思考を働かせる

うーん、どうしてこうなった!!

他のおねえさんたちに助けを求めようと思って周りをみるけど、多かれ少なかれみんな囲まれている

つまり、数の少ない女性を仲間に入れようとしているってわけだな

それにしても、俺の周りにいる男の数がちょっと多すぎないか!ほとんど肉壁で逃げ場がないんだよ!


ただでさえ会話ニガテなのに、こんな状況でどうしろっていうんだ

神父さんの身分通行証の手続きが終わって列から離れた途端にこの有り様、こんなに大勢で話しかけられてもなにも耳に入ってこない、下を向いてどうしようどうしようと頭の中でぐるぐる考える

だんだん頭が痛くなってくる、くちびるを強く噛み締める、ああ、これはやばい、この感じは前にもあったなー

そうだ、小学校の運動会で俺のミスで優勝を逃したときにクラス中から吊る仕上げをされたときの感じだ。あのときは幼馴染が助けてくれたっけ

でもここにはあいつらはいない



(どうしようどうしようどうしよう………)



下を向いていたセイだろうか、ジワッと目に涙が浮かぶ

16才にもなって泣くわけにはいかない!ていうか俺は男なんだ、こんなことで泣いたりしない

この集団に向かっていってやるんだ力を出すんだ、昔の俺じゃないぞ、ちゃんといいたいことはいえるんだ

手を握り締め、わめき続ける男たちに向かって大声で怒鳴ろうとするはずだった


声を出すために息を大きく吸ったとこでまず予想外の事態がおきる

呼吸がうまくいかずに咳き込んでしまった、そのはずみで目から涙が零れる

慌てて拭うが時すでに遅く男たちにバッチリ見られた

ダメだこれじゃ情けなさすぎる、ちゃんといわないとダメだ!


整わない呼吸と、どうにもじんわりと滲み続ける涙をなんとか止めようとするけどうまくいかない

くそう、男だったときはこんな風に泣いたりとかはあんまりなかったのに、女の子の身体になったセイで涙腺弱くなったのかな

ええい、ともかくいうべきことをいわなければ


「あ…あの……ケホッ」


うまくしゃべれないけど、なぜだろうか男どもは黙って聞いてる、チャンスだ


「た…たくさんの……ヒクッ、ひとに…わからな…グスッ」


言葉を発すると呼吸がもっと乱れる

ゆっくりしゃべろうとするんだけどうまくいかない


「こ…こまって……うう……」


むせてしまって言葉が続かない、なんとかいえた気がするけど伝わっただろうか

ていうか困ってるんだからどっかいってくれ、こんな男どもの仲間にはなりたくないぞ


そのときだった、男どもを掻き分けて1人のおねえさんが俺の腕を掴んで肉壁から助けてくれた

誰だろう涙で視界がボヤけててよくみえないけど赤い服着てる

お礼をいわないとと思いながらもしゃくりあげる自分がもどかしいけど、なんとか言葉を紡ぐ


「あ…ありがと…ござ…ま…す」


やっと恐怖の肉壁地獄から脱出できた俺はへたれこみたいキモチをグッこらえて、必死に涙を拭って呼吸を整えようとする

これ以上情けのない姿を晒すわけにはいかない


「しっかりしなさいよ、これからは誰も助けたりはしてくれないんだから」


怒られたような気がするけど、口調が穏やかで優しい声をしてる

思わずきもちが緩んでしまってまた涙がこみ上げる

うう、これじゃ男らしさのかけらもないじゃないか、


「いい加減泣きやみなさいよ、ほら、あっちで女子でかたまってるからいくわよ!」


いつまでもグスグスいってる俺の腕をひっぱってくれる、いい人だ、すごくいい人だ

おねえさんに連れられて女性が集まっている場所に近づいてきた

少し涙もおさまってきて周りがみえてくる


あ、おねえさん金髪だ。耳がとがってる、エルフなんだ

背も俺よりずいぶんと高いな、170くらいはありそう

そんなことを考えながら、おねえさんの足早な移動になんとかついていく


ドンッ ムギュッ


……痛い。いきなり立ち止まったおねえさんの背中に顔面を強打した、は…鼻がつぶれた


ツーンと鼻を突き抜ける痛みをこらえつつ、再び涙ぐんでしまった目を拭う

これは泣いたわけじゃなくて、鼻をぶつけてしまって…などなど独り言のように言い訳を始めた俺にむかっておねえさんが突然振り返る

思わず身体がビクッとなってしまう、なにか怒らせてしまったのだろうか

怪訝な思いでおねえさんをみあげる、目が合ってすぐにおねえさんは横を向いてしまう


(あれ…?このおねえさんって……)


「あのときは、怒鳴ったりして悪かったわ」


アヴィニヨンの広場で、ログアウトのやり方を質問したときのおねえさんだった

あのときは夕日のセイで髪の色もよくわからなかったんだけど、顔は見覚えがある

明るいところでみるおねえさんはことさら美人にみえた。金髪で青い目をしているのに、どこか日本人的なルックスがハーフっぽくてものすごくキレイにみえる

思わず見惚れてしまう、こんなにキレイな人っているんだなー


「なにかいいなさいよ……」


おねえさんが横を向いたまま不機嫌そうにしていたのをじっとみていたんだけど、今度は俺のほうをみて゛なにかいえ゛っていわれてしまった

なにかってなんだろう、自己紹介かな、あのときもいきなり質問しちゃったしな、もう呼吸も整ったしな!助けてもらったお礼をもう1回ちゃんといいたいしね!若干目が涙ぐんでる気がするけど!


「えと、藤堂あやです。高1です。さっきはありがとうございました」


まっすぐおねえさんの目をみて、はっきりとした口調で、卑屈になり過ぎないように少し口元で微笑んで、背筋はシャンと伸ばす

高校入学の新クラスでの自己紹介のときのために練習した成果をみてもらおうか!


「…………………………」


あれ、おねえさんが頭抑えてプルプルしてる、このリアクションはしってる

俺に呆れてるときのヤツだ、でもなんで!?カンペキにできたはずなのに!


「えーと、えーと」

「マジボケなわけね、わかったわよ、もういいわよ」


怒らせてしまったのかと慌てて謝りながら、足早に歩き出したおねえさんの前に立って顔色をうかがう

おねえさんは少し困ったような顔をしながら、また横を向いてしまう

どうしよう、せっかく助けてくれたのに、またなにかやってしまったのだろうか

自分のこういうところがほんとにキライだ。いつも気がつかないうちに事態がややこしくなってる

いつもなら幼馴染がうまくフォローしてくれて、よくわからないうちに収まったりするんだけど

いまは俺が自分でやるしかない、もう一度謝ろうと口を開きかけたそのとき


「怒ってないし、あんたが謝る必要もないって。ちょっと……人と話すの苦手なのよ、勘違いさせるような態度とって悪かったわ」


おねえさんはそういうと、俺の背中を軽く押してくれた


「エステルよ、エステル・奈々・バゼーヌ。パパがフランス人なの。ママは日本人でハーフってやつね」


そういうとおねえさん、エステルさんは女性たちのあつまる方へ向かっていく

立ち止まっている俺をみて、目で語りかけてくる


『はやくきなさいよー』


俺は地面を蹴って駆け出す

なんでもうまくこなしたりはできないし、取り柄があるどころか欠点とニガテなものばかりの俺だけど

自分にできることをがんばろう、いままでそうやって地道に少しずつ頑張ってきたんだ

エステルさんの隣に並んで歩き出す

この先になにが待っているのかなんてわからないけど、下を向いて1人でいてもいいことなんてなにもなかった

わかんないことだらけだけど、色んな人と助け合いながらがんばっていけばきっとなんとかなる、気がする!

この日俺は冒険者としてこのエデン大陸に降り立った。たくさんの不安と、ほんの少しの希望を胸に………





帝都の、とある会議室ではアヴィニヨンから届けられた報告書が読まれていた


「10万人近い冒険者ときたもんだ」

「量より、質であると進言いたします」

「まあ、そうだけどな。でもこの数はちょっと問題だろう」

「食料のみかと。問題ではありません」

「だから問題なんだろう?アヴィニヨンは3万ちょっと小都市だぞ、10万もの正体不明者が暴れたらどうする」

「通行証は冒険者用のものです。禁止区域として隔離は可能です。食料が得られなければおのずとその数を減らしましょう」

「元来の冒険者への対応はどうする、一緒に見殺しにするか?」

「力あるもの・功績あるものはホームを所持しており、通行証での隔離は可能です。よい機会かと」

「……お前はほんとこわいやつだ」

「問題が起きなければ、みな平穏に暮らせるのです。生きるも死ぬも冒険者たち自身に選択肢は委ねられています」

「わかった、その対応でいい、指示書をだしておけ」

「委細承知いたしました」


幼いころから共にあるのだ、怜悧なだけではないことは重々承知しているし、父亡き今、最も信頼に足る存在であることには間違いない

間違いではないのだが、問題解決への施策がつねに合理的にすぎるところがある

彼をよく理解する自分であれば問題などない、だがそうでなければ血の通わない魔族を相手取るかのような印象を与えかねないのだ

幼馴染であり、腹心の部下であり、乳兄弟であり、全幅の信頼を寄せる友であるのだ

(もう少し、なんとかならんもんか)

いままで幾度となく思い巡らせてきた思案を繰り返すが、よい答えを得られた試しはない……


ため息をもらしつつ、窓際へと歩を進めると城下の町並みがよく見える

この平和を守るためならば、犠牲を出すことに躊躇いはない、ないのだが……


「彼らもまた、このエデンに存在を許されたものたちなのだ。異世界から来たというが、もし罪人や悪人であればエデンの身分通行証など手にできるはずもない。このエデンにとって、よき住人となってくれればよいのだが……」


窓の外に広がる景色は緩やかに流れる。この世界の平穏を現すかのように

男は遥か彼方にある始まりの町アヴィニヨンへと思いを馳せる

かの地に現れたという冒険者たちに、届くはずもない言葉を投げかける


「異世界からの来訪者たちよ、諸君らにエデンの祝福が光り輝かんことを」





始まりの町アヴィニヨンに現れた10万人近い冒険者たちは、この日を皮切りにエデン大陸を駆け巡る

それぞれの物語が、いまはじまる

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