6話
6話
「あなたの名前をおっしゃってください」
神父さんみたいな感じのおじさんが俺の左手をもったまま聞いてきた
身分通行証の手続きなんだけど名前ってどうしよう、妹の名前だしたほうがいいのか俺の名前をだしたほうがいいのか思わず考え込んでしまう
むう……、ここはやっぱり妹になりきる方向が正しい気がする!
「藤堂あやです、あや が名、とうどう が姓です」
「けっこう、性別は女性ですね。ではジョブを選んでください」
ジョブ?ジョブってなんだろう?
目を丸くしてると神父さんが説明をしてくれる
「ジョブとは、そのもののもつ存在の力です。この世界でのあり様を指し示すもの。マナを正しく用いるための許可証なのですよ」
ゆっくりと、丁寧に、やさしく教えてくれてありがとう神父さん、でもぜんぜんわかんないです、ごめんなさい
冷や汗をかきつつ引きつった笑いを浮かべる俺に、そっとため息をもらしつつ、神父さんが頭の悪い子供に噛み砕いて説き聞かせるかのように口を開く
「いいですか、ジョブにははじまりの3つがあります。これらは戦士 軽業師 術士と、俗に呼ばれているようです。戦士は力強く頑強な身体を持ち魔獣を打ち倒します。軽業師は俊敏で器用で特殊な技を身につけます。術士は隷属する神殿によって色々ですが、マナの力で他の存在に働きかけ様々な現象を引き起こします」
神父さんの「ここまでは分かりましたか?」の言葉になんとかうなずくけど、そろそろ脳内メモリが爆発しそうなんですけど!こういうのニガテなんですけど!
俺のそんな限界ギリギリ感は神父さんには伝わるわけもなく、さらに説明は続いた
「世界にはマナが溢れています。許可証を左手に有するということは、世界に存在することを許されたということでもあるのですよ。≪戦士のジョブをもつ≫ということは、強き力を有することと同じなのです。」
神父さんはここで俺の顔をみつつ言葉を区切った、そして、こう告げてきた
「直接戦うなら戦士を、間接的に戦うなら軽業師を、術をもって攻撃・支援を行うなら術士を選ぶとよいでしょう」
うん、最初からそれをいってほしかった!なんてわかりやすいんだ!
数学の先生と一緒だよね、前置き長いわりにはいいたいことは一言で済んだりするんだ
そういえば神父さんと数学の担任ちょっと似てる気がする、プッ
そんなこと考えていたら神父さんがまとめに入ってきた、面倒なお客はさっさと片付けてしまえ感がありありとみえるようです
「さて、戦士 軽業師 術士 どれを選びますか」
「えと、変更って簡単にできますか?」
「簡単にはできません。存在そのものを作り変えるようなものですから、膨大な量のマナと時間を要します。またあなたの身体にもなんらかの影響がでないともいえません」
なるほど、よくわからないけどここで決めたことがこの先ずっとついてまわるらしい
うーん、うーんと悩んでいたら後ろのおねえさんに怒られてしまった
うう、どうしよう、こういうのほんとニガテなんだよなー
よし、ひとまず頭の中を整理だ
戦士はありえない、痛いのも怖いのもヤダ
じゃあ軽業師ってどうだろう、想像の感じだとピエロっぽいんだけど
ちょっと楽しそうとか思うけど絶対むいてないよね
そうなると術士なんだけど魔法つかえたりするのかな、炎だして自分がやけどしたりしないのかな
神父さんの咳払いと後ろに並ぶおねえさんの舌打ちが聞こえる
頭がこんがらがってきた、ファミレスのメニューで延々1人だけ決まらずに妹に舌打ちされたことを思い出しつつ、どうしようどうしようと慌てふためいていたら、神父さんがアドバイスしてくれた
「ヒューマンの女性は術士を選ぶのが一般的ですよ、基本素養で力では男には適いませんし、ヒューマンの素養でもある成長配分は術士としては有用ですし。それにマナの体内保有量においては男性より女性は優れているのです」
「じゃあ術士で!」
優柔不断な人にはわかってもらえると思う、こんな状況で背中押されたら逆らうことなんてできないんです!
術士を選んだことへの不安はない、あるのはただ悩むことから開放された充足感だけだ
「よろしいですね?」
「はい!」
神父さんがなにやらゴニョゴニョいっている
すると俺の左手が光に包まれた
左手に不可思議な文様が刻まれている、ちょっとかっこいいぞ
「おお……」
「よろしいですか、あなたはいま術士としてこの世界に存在しました。術士とは6つの神殿のいずれかに隷属することで他の存在に働きかけることができるのです。このアヴィニヨンにはその神殿はありません。今のあなたが行使できるものはあなた自身、自分自身の存在する力によるマナしか行使できません。多くの同胞があなたにはいます。無理をせず、ともに手をとり合い魔獣と相対するといいでしょう」
つまりしばらくの間はあんまり強くないからみんなと一緒にいなさいってことだよね、たぶん
言われなくても1人で行動とかするわけがない、誰かついていけそうな人をみつけないとね
「これがあなたの身分通行証です。エデンの祝福が光り輝かんことを」
なにやらおでこに手をあてながら手のひらを俺に向けながら、神父さんからお言葉をいただいてしまった。この世界の宗教的なものなのかな?
って、もう神父さんはもう次の人の手続きに入っている、切り替え早いな!
こちらをみていない神父さんにお礼をいいつつ、そっと別の場所に移動する
順番待ちの列から少し離れた場所で俺は自分の左手をみる
すると頭の中にカードが浮かび上がるのが分かる、なんかおもしろい
カードには名前や術士とか書かれているけど、空白の部分が多い
名前は『アヤ・トウドウ』になってる、自分でそう名乗ったんだから当たり前だけどさ
なんて、のんびりしていたら大変なことになった、なんでこうなった
もう1回いう
なんでこうなった!!