5話
5話
朝日が半分起きていた俺の目に入ってくる、この数日ずっとそうだけどぐっすりとは寝れてはいないのだ
俺のいる場所は女性ばかりで、周囲を男性が囲むように休んでいる
さらにその周りを騎士たちが巡回してくれているんだけど、昨晩もなんどか野獣に襲われたりしたみたいだ
町の近くとはいえ魔獣はあちこちにいるし、俺たちプレイヤーの数が多すぎるため100名ほどの騎士たちでは守りきれないのは当然なんだろう
なんども男性の叫び声で目が覚めた、心の中で謝りながらも比較的安全な場所で休むことのできる女の子の身の上に、そっと安堵してしまう……
まだ頭ほどにはシャキッとしない身体を無理やり起こすとすでに何人かのおねえさんたちが互いに髪を整えあっているのがみえた
と、後ろから俺の頭を引っ張る人がいる
「おはよう、うちらも一緒しよう」
後ろをちょっと振り返り相手の顔をみて、「おはようございます」と髪を引っ張られてるので首が動かせないので、ちょっと笑顔を浮かべつつ挨拶をかえす
初めてみる人だけどおかしなことはないのだ、女性コミュニティでは慣例となりつつある朝の行事なのだ
俺も「おねがいします」と返事を返しつつ前を向きなおして手櫛でのブラッシングをしてもらう
鏡のない現状では身だしなみに気を使う女性としては、必然といえる状況といえる
「ほい、もういいよ、つぎお願いー」
「はい、ありがとうございます」
次は俺の番だ。最初はおっかなびっくりだったけど、3回目ともなれば慣れたものですよ!
おねえさんの髪は淡いうす青で腰までのびている、日本ではありえない髪色だ
よく見ると背中とか腕にウロコみたいなのが生えてる
魚屋のおにいさんと同じ種族なのかな?匂いはさかなっぽくないんだけどなー
なんて、手櫛しながらクンスカしてたらおねえさんに笑われてしまった
どうやらたくさんある種族のうち≪マーリン≫というのだそうだ
水中での全性能150%UPとか水属性スキル持ちとか火に弱いとか、どこまでいまも有効な設定なのかしらねーなんていってた
その後もまわりのおねえさんたちとおしゃべりをしていると、アヴィニヨンから100名近い集団が近づいてきた
どうやら昨日いってた゛身分通行証゛の発行を行うらしい
みんながみている中で、プレイヤーの代表としてアヴィニヨンと交渉をしてくれた人が最初に手続きをしている
きっとおじさんで会社の社長とかしてる人なのかなーなんて噂してたのに、けっこう若くてビックリした、しかもイケメンだ、おねえさんたちがザワついてる
でもすごいな、こんな状況なのに何万人もの人をまとめて、しかも全員を助けてみせた
なんて考えているうちにイケメンの左手が光った
アヴィニヨンの人たちと話してるけど、何度か頷いたあとは他の人にも手続きをするように周囲のプレイヤーたちに指示をだしている
するとイケメンは平野部を歩きだした、1人……?
みんながみつめる中、夜ほど近づいてはこないけどこちらを伺っている魔獣のほうへと歩いていく
5種類くらいいるらしい魔獣の中でも1番怖そうな見た目のオオカミっぽいやつに近づいていく
手には50センチほどの木の棒をもっているだけだ、でもなんかちょっとかっこいいぞ、さすがイケメン!
みんなが固唾をのんで見守る中イケメンは魔獣と戦いをはじめた
どれくらいの時間が経っただろう、デカオオカミの頭を叩きつけた瞬間、ガラスが粉々に砕けるかのように魔獣の身体が霧散した
グッと木の棒をもった右手を高々と突き上げて、無事と勝利を見守るみんなに示す、なにこの人イケメンすぎるんですけど!!
一斉にプレイヤーたちから歓声と拍手がおきる
この平野にきてから命の危険にさらされ続けてきた恐怖、安穏と平和に過ごしてきた日本人の俺たちの不安、理不尽な異世界への放置で募ってきた怒りや後悔が、ある一つの言葉に初めて和らいでいく
『希望』
戦える、我々は捕食される側ではなく、虐げられる側ではなく、強者になり得る
その可能性がいま示された
人見知りだし、後ろ向きで、地味の見本のような性格の俺ですら興奮を覚えた
なだらかに広がる平原を幾人かの冒険者となったプレイヤーたちが蠢きあっている
ずいぶんと遠くまでいっている人もいるけど、だいじょうぶなのかな
手続きの順番待ちをしながら、続々と平野で魔獣との戦闘をおこなう人たちを眺める
その間にも情報を触れ回ってくる人がひっきりなしに走り回っている
いくつか覚えておかないといけないことがあった、メモとりたいな、ちゃんと覚えていられるか心配だ……
なんども頭の中で繰り返しながら暗記するしかないよね、待ち時間もだいぶあるみたいだしちょうどいいかも
情報を整理しつつ暗記のために繰り返しなんども口の中でつぶやく
『身分通行証は職業カードと同一の効果をもつ、カードの中には名前・性別・ジョブ・レベル・スキル・マナ保有量・保有財産 の記載欄がある、パーティーを組むことはできず戦闘に参加することでマナの吸収を行うことができる、アイテムドロップはほぼ存在せず一部の魔獣によっては部位の剥ぎ取りもできることはある』
職業カードがよくわかんないけど、あとで誰かにきいてみようっと
あとなんだっけ、ああそうだ
『マナとはあらゆるものの源で世界そのもので、悪しき存在である魔獣からマナを奪い返す行為は賞賛される、魔獣はマナによって存在するため倒せば影も残らないらしくて、存在の大きな魔獣ほど倒したときに得られるマナが多くなる、マナは身分通行証に保有され町の神殿で硬貨と変えることができる』
ほかにもいろいろいってたけどよくわかんなかった…、PVPKできるってなんだろ?
うーん、あと思い出せることといえばエデンオンラインの設定がだいぶ残ってるってことかな、種族とか職業やスキルも似通ってる点が多いみたいだ
でも元々知らない俺には関係ないかなー
そうして考え事をしているうちに俺の番がやってきた、ちょっと緊張するな
なにごともなく終わりますように!