3話
3話
俺はまだ広場で座りこんでいた
1人、また1人とサービス開始を心待ちにしていたプレイヤーなのだろう、リアリティーに溢れすぎた感覚に驚きの声をあげながら最初のログイン場所である広場に続々と人があらわれる
どこか夢をみているようなきもちだった
周囲で騒ぐ人たちの声もどこか遠くにきこえるし、目でみているはずの景色もまるで映画館にいるかのように現実味を帯びない
手もなんだかうまくにぎったりできないし力もうまくいれることができない。からだがふわふわして落ちつかない
ほぼ全ての人が、徐々に異常事態に気づくにつれ顔色がかわっていく様を、ただただみつめていた
ある人は恐怖を顔に張りつけ、ある人は泣き崩れ、ある人はなんだか笑ってる…ちょっと怖いな
おそらくは、プレイヤーではない人=この世界?に元々いた人たちってことなのかな
数人のプレイヤーたちがあちこちで住人を捕まえては質問を繰り返している
だいたい質問の内容は想像がつくけど
その時だった、プレイヤーで溢れかえった広場に恐竜のようないきものにまたがった、まるで騎士のような人たちが現れた
「こ…これはいったい何事だ」
「魔族ではないようだが、いったいどこからこんなに……」
「しかしこの人数はただごとではないぞ!」
口々にプレイヤーの溢れる広場をゆびさしながら言い合っている
突如現れた異様な騎士たちにプレイヤーたちの視線が集まるなか、1人のプレイヤーが口を開く
「おい!イベントかなんかなんだろ!?凝ったオープニングだよな、そうなんだろ?な?」
おとうさんくらいの年の男の人だった
その声が、表情が、夢見心地だった俺を現実に引き戻す
声は震え裏返り、ほほは引きつり、口元はわなわなと小刻みに動いている
俺はじっと騎士風の男たちの返事に耳を傾けた、広場にいた多くの人たちも同様に
シン……と静まり返った広場で1人の騎士が困惑の表情をうかべながら、答えた
「…なにを言っているのかはわからんが、きみたちはどこの所属のものだ、身分通行証かホーム通行証をみせなさい」
騎士の声によどみはない、威圧的ではないが固い意志を思わせる声だった
その場にいた全員にさらなるリアリティーを与えるには、十分すぎるほどに
しばらくの静寂のあと、プレイヤーの1人が口を開く
「……ざけんなよ…、どういうことだよ!!!!」
ついで声があがる
「VRMMOだろ!!運営はどこいったんだ!!」
押し留めていたものが堰を切ったように溢れだす、すでに広場には数え切れないほどのプレイヤーがひしめき合う
後々しったことだけど、広場では収まりきらず町中にも町を囲む城壁の外にもプレイヤーは溢れていたらしい
運営会社の事前発表のあったゲーム購入者数が15万人いたらしいから、サービス開始当日と考えれば、相当数のプレイヤーがログインしていただろう
町がどれだけの大きさかわからないけど、いきなり自分たちのすぐそばに沸けば住人が驚くのもむりはないよね
でも、このときの俺たちにはそんなことを思いつく心の余裕なんてなかったんだ
そこからのことは断片的な記憶しか残っていない、俺自身も混乱してたしなにもかもが滅茶苦茶だったんだ
結果だけをいってしまえば、こういうことだ
緊張と混乱と恐怖にプレイヤーたちの神経はもたなかった
溢れそうになるギリギリのところでなんとか踏みとどまっていたのは『そのうち運営がアナウンスでもしてくるんじゃないか』『これも演出の1つなんじゃないか』といった藁をも掴む淡い期待だったのだ
騎士たちの言葉は決してひどくなかった、けど、俺たちはそれに耐えることはもうできなかったんだ……
当初よりも数を増やしたとはいえ500にも満たない騎士たちではとてもとても、いまも沸き続けるプレイヤーを抑えることはできなかった
説得がむりだと判断したあとの騎士たちの行動はきわめて単純なものだった
『アヴィニヨンより正体不明の集団を追放せよ』
確かな数はわからないけど3万人近いプレイヤーが亡くなったって聞いた
そのほとんどが将棋倒しによるものだったらしい
ゲームのはずが知らない世界に置き去りにされ極限までたかまった恐怖心と、集団パニックの伝染によって、わずか数百の騎士たちによって数万人のプレイヤーたちは町の外へと追いやられた
その後も゛正体不明の不審人物たち゛が沸き続ける広場には騎士が常駐し、十数人あつめては町外へと連れだされた
このとき俺はパニックに陥る集団に怖くなってしまい広場で座り込んだままだった
騎士に身分証の提示をいわれ、持ってないとわかると町外へと連れていかれた
腰が抜けてて、気のいい騎士さんが恐竜の後ろに乗せてくれたのはナイショだ!