2話
2話
「あの、すみません。ちょっと聞きたいんですけどー」
「おう!どうしたんだお嬢ちゃん!」
魚屋のおにいさんにはなしかけたらお嬢ちゃんといわれてしまった
間違ってないんだけど、間違ってるよおにいさん!
「ログアウトのやり方がわからないんですけど、教えてください」
「ログアウト…?そりゃあ呪文かなにかかよ?」
「ええと、ゲームを終了したいんですけど…」
「んー、わりいな、ちょっと俺にはわかんねえよ」
おにいさんは申し訳なさそうに頭をかいてる
やっぱりおにいさんはゲームのキャラクターみたいだ、プレイヤーじゃなかった
おにいさんにお礼をいってその場を離れる。はやいとこ同じプレイヤーをみつけてログアウトの仕方を教えてもらわないといけない
ふと、あたりを見回してるとおかしなことに気づく。あちこちで1人言をいってるひとがずいぶん多くいるのだ
人によっては「なんなんだ!!」とか「GM!おい!」とかいってるし「ロリ神きたこれ!」とかもうキモすぎる
GMってなんだろ、神様がどうとかいってるし、もしかすると新興宗教の人たちっていう設定のゲームキャラクターかもしれない
とりあえず離れよう…、君子は危うきには近寄らない!キモいし!
しかしまいったな、説明書とか読んでないから操作の仕方がなんにもわからないんだよな・・
だいたいVRMMOってアイテムとかどうするんだろう?普通のゲームのキャラクターの画面とかはないのかな
とりあえず、その辺の人に話しかけるしかないよな
その時通路をはさんで向かいの建物に背を持たれかけて立っているおねえさんを見つけた
沈みかける夕日に照らされて色はよくわからないけど、背が高くてものすごい美人の剣士っぽい人だ
なんとなくプレイヤーっぽい気がするし、美人だし!聞いてみよう、うん
いまの俺は女の子だし、ヘンに警戒されたりイヤがられたりはしないはず!
「あの、ちょっと教えてほしいんですけど」
「……なに」
うわ、このおねえさんエルフだ耳がとがってる、しかもめっちゃ怖い、なんで怒ってるの
逃げ出したくなったきもちをグッとこらえて、本来の目的の質問をする
「ログアウトのやり方を知りたいんですけど、わかりませんか?」
若干こえが上ずったのはびびってたわけじゃない、ノドがかわいてたんだ
っていうかこのゲームノドまで渇くんだ、リアリティ求めすぎだろう
「わたしも知りたいわよ…」
「あ、おねえさんはプレイヤーの人ですか!よかった!」
やっと話の通じる相手に会えて心のそこから安堵する
あまりのリアリティーさに、ちょっと恐怖感を覚えていたのだといまさらながらに気づかされた
ひょっとしてここはゲームの世界じゃないんじゃないか?なんてバカみたいな思いがあったのだ
同じプレイヤーに会えたことでやっと地に足がついた感じがした
「じつは、説明書とかなにも読んでなくて、どうしていいか困ってて、へへ」
ここがゲームの世界なんだとやっと実感できた安心感と、同じようにログアウトのやり方のわからないおねえさんに親近感がわいた俺は、フレンドリーにちょっとかわいらしい女の子っぽく身振りを交えて話しかけてみる
だが、返ってきたのは
……
………
…………
おねえさんからの反応はなかった、カンペキに無視されてしまった
もしかすると中身が男だってことがバレたのか、そのくせ女みたいな素振りしてたからキモがられたとか
そういえばまだ鏡みてなかった!じつは顔だけ俺だったり……、うわ、それはキモい
グルグルと悪い考えが頭を巡っていたとき、おねえさんが重い口をひらいた
すっかり罵倒されると思っていた俺はおねえさんの口から出た言葉に2重の意味で理解がおよばずにききかえした
「え?どういう意味ですか?」
「いった通りの意味よ…」
「え?でもこれゲームですよね、おかしくないですか」
「……」
「だって、そんなのありえないですよね、マスコミが大騒ぎしちゃうし…」
「……」
「うちのおとおさんとおかあさんだって、きっと警察に届け出るし」
「………」
「お…おねえさん?じょうだんだよね?」
「……」
「あの、そろそろ親が帰ってくるからログアウトしたくて、妹のゲームかってにやっちゃってて、それでこのままだとちょっとマズくて、だからログアウトしないといけなくて、だから」
「……っさい」
「え?」
「うるさいっていってんのよ!!!!!!」
大絶叫だった
日も沈みかけて、露店街の人たちも店じまいを始めているが、何事かとこちらを振り返る
「横でギャーギャーわめくな!!こっちだってわけわかんないのよ!」
はじめて俺の目を見たおねえさんの両目には涙がたまっていた
くちびるは震えている、肩も手も、おそらく足も
苦しげに息を吐きながら、おねえさんは肩を震わせている、両目を覆う両手の隙間からは涙がこぼれてくる
その全てが俺に語りかける、おねえさんの発した言葉を何度も何度も繰り返し語りかけてくる
『ログアウトはできないのよ、ゲームのシステムも存在しない、あらゆるゲーム機能が存在しない、そうとしか思えない。ここは現実で、日本でも地球でもない、まったく別の世界としか思えない』