26話
26話
俺の名前は耕太、妹の頼子とは2卵生の双子という奴だ
昔は先に取り出された方が年上ってことだったらしいけど、今は最後に取り出された方が年上になるらしい
だから散々『なんであたしが妹で耕太がお兄ちゃんなのよ!』って文句言われても、それは取り出した産婦人科の先生を責めるべきで、俺や母さんを責めても仕方ないことなんだよな
妹の頼子は直情型で単純、バカ正直な上に嘘がつけず熱しやすく冷めやすく裏表のないという、女の子としては明らかに異端なキャラをしている
おかげで腹黒く性格も悪く意地も悪い上に人嫌いで利己的で自分本位且つ面倒くさがりで事なかれ主義な俺がフォロー役を務めることになるため、世間には『面倒見がよく落ち着いたお兄ちゃん』というなんとも過ごしやすいポジションを得られている、有難い限りだ
俺たちが6歳の時、父親が事故で死んだ
生まれ故郷を離れこの街へと移り住んできたのは、その直後のことだった
社宅だったために引っ越しは仕方のないことだったし、主婦だった母さんが職を探すには生まれ故郷の街は小さすぎた
慌ただしいあの時期、落ち込む母さんを励ましながら手の掛かる頼子の面倒を見ていた俺は、幼いながらも漠然とした不安を覚えていた
これまでは理解ある両親の元で思うが儘に過ごしていればよかったが、これからは母さんの負担を思えばそうも言ってはいられないのは明白だったからだ
基本放置していた頼子の面倒を進んでみるようになった
家事の手伝いもできる限りでするようにして、母さんの負担を減らすようにした
母さんのいない時間は近所の図書館に頼子を連れていき、おもちゃや絵本で遊ばせた
なにもかもが突然だったため、通う保育園も見つからず、職探しの為にも6歳の双子を残して家を出なければならなかったからだ
わずかに4日のことだけど、今でも母さんはそのことを気に病んでいる
俺と頼子は母さんに感謝こそするけど、恨みなんて欠片も持っちゃいないんだけどね
けれど、お前は本当に人類か?と疑問を持たざるを得ず、恐らくは空っぽであろう頭をトンカチで叩き割って中身を確認したくなるほどに考えなしの上に鉄砲玉のようにどこへでも飛んでいく頼子の面倒を見なければならなかったことに関しては、愚痴の1つも許されるのではと思う
しかし、人生とはうまくできている
捨てる神あれば拾う神あり、とでもいうのだろうか
父親をなくし、住み慣れた街を離れ、看護婦として働き始めた母さんは日々を忙しなく過ごしていたから、必然的に俺たちは多くの我慢をすることになった
だけど、俺と頼子は新たに通うことになった保育園で、最高の出会いを迎えることになった
わたしの名前は頼子、来年高校3年生になる
趣味はガンシューティングゲームがいまんとこマイブーム
身長160cm、あの子より2cm背が高いことがちょっと自慢
体重は46キロ、あの子より6キロ重いことがはらわた千切れるほど腹立つ
得意科目は体育!のみ!あの子は体育以外全部だからバランスOK!
好きな食べ物は甘いものとうどん、あの子と一緒だからいつでも半分こできてラッキー
嫌いな食べ物は苦いものと辛いもの、あの子と一緒だから2人で耕太に押し付ける
わたしのお父さんは小さいころに事故で死んだ
お母さんが女手一つで育ててくれた、うちのお母さんはすごい
『お父さんの残してくれたお金があったからね』
っていうけど、それだけで賃貸じゃなくて土地付き一戸建てには住めないだろうし、わたしと耕太を大学にいかせることはできないはずだ
子どもにはわからないように、陰で頑張ってくれているにちがいないのだ
自慢のお母さんだ、でも最近ちょっと太ってきたからダイエットした方がいいとおもう
双子の兄である耕太はだらしがない
家ではいつも同じ服着てるクセに、外ズラだけはよくて近所や学校では『いいお兄ちゃんねー』なんて言われたりしている
きっと匂いを嗅いで我慢できるうちは同じ靴下履いてることなんて知らないから言えるんだとおもう
あいつはせいぜい下の上くらいのレベルのおっぺけ野郎なのに!
いま住んでいる街に越してきたのはわたし達が6歳の時だった
お母さんが働きにいく間、わたし達は保育園に預けられたんだけど、そこでわたしは生涯の親友と出会う
友達はいっぱいいるし特別仲良くなれた子もたくさんいる、でも、親友は1人だ
楽しいことも苦しかったことも悲しかったことも嬉しかったことも、全部全部一緒だった
いつでも隣にはあの子がいた、まあ耕太もいたけどオマケみたいなものね
色んなことがあったけど、あたしたち3人は変わらない
一緒に笑って、泣いて、手を繋いで歩んでいく
それが当たり前に続くと思っていた、あの日までは……
俺が耕太と頼子と出会ったのは幼稚園だった
いつものように友達と遊んでいたら、見知らぬ女の子が隣りにいた
さも当たり前のように遊びの輪に入ってきたから、誰だろう?と思いつつもその日はずっと一緒に遊んでいた
その次の日もその子は隣にいてずっと一緒に遊んだ
その次の日も、またその次の日もそれは続く
さらにその子の双子の男の子も加わって遊ぶようになった
気づけば今まで遊んでいた友達から離れて3人で遊ぶようになる
俺は幼稚園組で途中で帰ってしまうけど、2人は保育園組だったからいつも見送ってもらってたんだけど、毎度毎度別れる度に女の子が泣いてしがみついてくるからちょっと大変だった
男の子は耕太って名前で、同じ年なのになんでもできるすごいヤツ
難しい漢字も書けたし6歳なのに料理もできるって聞いてほんとにビックリした
女の子は頼子って名前、耕太の双子の妹でオリジナルの遊びを考案するのが得意だった
いつも頼子が始めて、俺を巻き込んで、耕太がフォローするのがお約束だった
幼稚園を卒園して、小学校に入ってもそれは変わらなかった
家や学校や実家のことで辛かったり苦しかったりした時も、2人はずっと傍にいてくれた
なにがあっても、どこにいても、自分のことを想ってくれる人がいるって信じられるのは、とても幸せなことだって俺は知ってる
息をするのも辛くて、泣き声もあげられないほどに苦しいとき、支えてくれるものってなんだと思う?
お金だとかモノじゃない
心の底から信じられる、大事な人がいてくれるってことだと思う
お父さんやお母さんやあやのことは大好きだし、大切な家族だと思ってる
だけど、1番辛かったときはその家族の存在が俺には重荷になってしまっていた
学校とか家や俺を取り巻く環境の全てが息苦しく重苦しいものだった
そんな中でなんのしがらみもなく、ただ真っ直ぐに俺を想ってくれる2人がそれだけ俺を救ってくれたか……
この世界へと来てしまったとき、不安で仕方なかったけど、たくさんの人のお蔭でなんとか生きてこれた
そして今、奈々さんたちが元の世界へと続く道を見つけ出そうとしてくれている
それは2人が待っている場所へと続く道
きっとものすごく心配しているに違いない
頼子はきっと抱き付いてくるんだろうなあ、ものすごい力で抱きしめてくるからちょっと苦しいんだよね
耕太が止めてくれるんだけど、そうすぐに剥がせるわけでもないから、少しは我慢しなきゃダメだよね
2人に奈々さんを紹介しないといけないけど、ちょっと心配なんだ
耕太は大丈夫だろうけど、頼子と奈々さんってどうなんだろう?
物凄い仲良くなるか、大喧嘩するかしそうで怖い……
2人とも大事だから仲良くしてくれると嬉しいなあー
「………あや?」
「どうした?」
「寝ちまったみたいだねえ」
「……無理もないさ、ここの所ずっと夜通しで仕込みだからな」
「昼は昼で採取に出てるしねえ」
「しかし……」
「どんな夢を見てるのかね?」
「さあな?まあ楽しい夢には違いないだろうな」
「そうだね、嬉しそうな顔してるよ」
仕込みの最中に、椅子に座ったままで居眠りを始めた愛娘を優しく抱き起し、2階へと続く階段を登る
部屋の扉を開け、ベッドにそっと横たわらせて毛布を掛けてやれば、幸せそうな顔でむにゃむにゃと何事かを呟く寝顔に、思わず薬屋の夫婦の顔も綻ぶ
しばしの間愛娘の寝顔を見ていたが、飽きることのないそれをいつまでも続けるわけにはいかない
明日もまた凝りもせずに催促の矢が飛んでくるのだから
「さて、残りの仕込を片付けるとするか」
「そうだね、やっちまうとするかね」
「ライ、後は任せるぞ」
「ワン!」
夫婦は最後の仕込を終わらせるべく階下へと降りていく
疲れ果てているはずだが、なんとも言えない幸せな気持ちになりながら
「エステル!後ろ!」
「わかって……るっての!!」
3方から襲ってくる魔獣の群れに、たった1人で斬り込み続けるのには限度がある
だが、無数に湧き続ける魔獣の群れに相対したとき、迎え撃っていてはパーティーの瓦解を招くだけだ
故に不利と分かっていてもこちらから斬り込んで群れの統制を崩し、数的不利を少しでも緩めなければならないのだ
目で追っていては追いきれない
思考していては反応しきれない
奈々は1つの旋風のようだった
自分の背丈よりも大きな大剣を両手に持ち、遠心力と両足のステップで回転しながら魔獣を切り倒していく
全ての感覚を研ぎ澄まし、ただひたすらに周囲の魔獣を打倒していく
しかし僅かずつ疲労と裂傷が奈々を蝕んでいく
動きに支障をきたすその寸前で、パーティーから突出していた奈々とパーティーメンバーの間に道ができる
宮島が魔獣の群れを蹴散らし、奈々とメンバーとを繋ぐ道を紡ぐ
その僅かな隙を逃さずに奈々に回復と補助が届く
すぐさま奈々は魔獣の群れへと突き進んでいく
そしてメンバーは奈々の乱した群れにあるものは大魔術を打ち込み、あるものは槍を突き出し殲滅を急ぐ
パーティーが進むは7の山の中腹だ
これを超えれば神樹エデンがあるとされる場所のはず
否応にも士気が上がるというものだ
一時期、途轍もなく強力な魔獣個体が襲ってきた時期があった
宮島曰く『恐らくは魔獣ではなく、あれが魔族というものではないか』とのことだった
確かに言語を操り、武器を携え、高度な戦闘技術をもって単独で戦いを挑んできた
魔族は魔獣と違い群れを成さないというから、まず間違いはないだろう
唯でさえギリギリの戦いをしている中での魔族の襲来はパーティーメンバーに死を感じさせるに十分なものだった
メンバーのうちで魔族に重傷を負わされなかったのは回復役の女性と宮島の2人だけだった
奈々はメンバーで唯一複数回の深刻なダメージを負っていた
常に先頭に立ち続けていることが原因の1つであるが、どうにも魔族というのは見目の良い獲物に向かう習性があるようで、奈々と回復役の女性2人に攻撃が集中する傾向があった
宮島がそれに気づいてからは戦闘方法を変え、劇的に戦果が挙げやすくなった
それがある時期を境に魔族の襲来がなくなった
警戒を怠ることはないが、戦闘にほんの僅かにだが余裕を持たせられるようになったのは大きい
あと少しで最後のゲート設置予定地帯に辿り着くのだ
奈々も含めたパーティーメンバーの誰もが確かな手応えを感じつつも、ほんの少しの油断や慢心が死に繋がることを知っている
今はただ目の前の敵を打倒すことにだけ集中しなければならない
魔族の襲来がなくても、無数に湧き続ける魔獣の群れは相も変わらずであるし、この7の山にきてから1段と強力で厭らしい魔獣が増えた
奈々は今日も剣を振るう、己の剣に想いを乗せて
冒険者たちの目指す未来が、もう目の前まできている
一歩一歩と進んでいく、皆と目指す約束の地へ
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