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エデンオンライン  作者: あやなん
約束の地へ
26/28

25話

前章での構成を少し変えました、内容に変わりはないので見直す必要はありません。

25話




わたしの名前は藤堂あや、来月の4月に高校の入学式を控えている

真新しい制服と、学校指定の鞄と靴を身に着け、階下でわたしを待つ両親と共に父方の実家へ向かう

高校進学の報告と合わせて、高校の制服をお披露目するためだ

ばば様のお弟子さんたちが盛大に出迎えてくれるだろうから、今から気が重くて仕方がない


お父さんにもお母さんにも、わたしにも笑顔はない

実家やばば様との関係が決して良好とは言えないことが理由ではない

けれどその゛理由゛を誰も口にすることはない

走り出した車の後部座席から、流れていく景色を視界の隅に捉えながら、思考は彼方へと飛んでいく

と、躊躇いがちにかけられた声に意識は現実に引き戻される


「あや、昨日はよく寝れたかい?」

「うん、少し寒かったね」

「そうね、まだ少し夜は冷えるわね」


運転をしながらお父さんが尋ねる、それにわたしとお母さんが答える

家族間の仲は決して悪くはないけど、誰の顔にも笑顔はない

軽いため息を漏らしながら、窓の外へと視線を向ける


そこに映るのは、昔から好きではない自分の顔

二重ではあるけれど切れ長で釣り目なセイで冷たい印象をもたれる

あまり感情が表に出ない性格と、口数が少なく視力が悪くてついつい睨むような目つきになってしまうために、これまで極僅かな親しい友人以外と会話らしい会話をしたこともない

まあ、そのお蔭で煩わしい人間関係に悩まされることもないのだから、良しとするべきだろう


自分の顔を見る度にこんな思考に陥るのは昔からのことだ

そして、この思考の次にくるのは、2歳上の兄のこと

思わず唇をキュッと噛みしめ、スカートの裾を握りしめる

ただでさえ気が沈みがちな今日は、この思考にハマりたくない

けれど、それを止められないことはよくよく分かっている


2歳上の兄は、私の理想と憧れとコンプレックスとストレスの塊であり元凶であった

幼いころはただひたすらに兄の跡を追いかけ続けた

少しでも近づきたくて、褒めてほしくて

けれど努力すればするほど、決して追いつけないことを思い知らされた


兄はまるで太陽のようだった

強烈な光と熱を持つ太陽ではなく、暖かい春の日差しを思わせた

誰も彼もが兄を見れば心癒されたし、その笑顔に心奪われた


わたしは決して自分では光れない、冷たく反射するだけの月

兄の影響をただ写すだけの模倣品にも成れないできそこないだった

それでも兄の傍にいるとわたしも光れるような気がして、頑張れば近づけるんじゃないかと思った


強い想いは、それが叶わぬものだと、届かぬものだとわかったときより強い想いに変わる

憧れは嫉妬に、理想は絶望へと変わっていった

それでも追いかける以外の選択肢を見つけることができずにいたわたしは、兄へ怒りの矛先を向けた

優しく、のんびりした性格の兄は、わたしの豹変ぶりに驚きながらも受け入れた


理不尽な八つ当たりをするわたしに、兄は謝り続けた

それもまた、更なる怒りに変わっていった

自分でももう、止めることができなくなっていった


そして、実家の期待、ばば様の過剰な指導、妹からの理不尽ないじめ、物言えぬ両親、その他様々な要因が合わさり、兄を押し潰した

全ての中心にいた兄は、その全てから逃げ出すように自分の殻に篭った

期せずして、兄が座っていた席をわたしは手に入れた


あのとき、わたしの胸に訪れた感情はなんだったか

喜び 悲しみ 怒り 失望 自己嫌悪 期待 ………

あらゆるものが身体を駆け巡った

心の奥底で兄を限界の淵から蹴落とした罪悪感に飲み込まれそうになりながら、徐々に普通の生活に戻っていく兄の姿に安堵し、再び元の関係に戻れればと自分勝手なことを思っていた


小学校を卒業し、中学校へと進んだあたりから兄への接し方を変えてみた

わたしから話しかけるようにして、少しずつ関係を戻そうと思ってのことで、両親とのギクシャクした状態も改善できればと思っていた


けれど、そこで邪魔が入ることになる

兄の幼馴染である、いつもの兄と妹の双子だ

なにかにつけ兄の保護者にでもなったつもりなのか、家の中のことに口を挟もうとしてくる

兄の見ていないところで、散々に言い合いのケンカを繰り広げ、時には妹の方と掴み合いにもなったりした


確かに兄を追い詰めた責任はわたしにもある

けれどそれを他人にあれこれ言われる筋合いはないし、これから家族で昔のように成れればと思っているのを邪魔するのは、余りにも出過ぎた真似としか思えなかった


その後も兄は実家への出入りは頑なに拒否していたけど、家族旅行にいったり両親とも他愛のない会話をできるまでになった

いずれは元のように戻れる日がくると思っていた

この頃には、わたしの高校卒業をもってばば様からの跡目襲名の流れになることは周知の事実であったし、兄へのわだかまりもほぼ解消されていたといっていい


あの日までは、なにもかもがうまくいっていたハズだった


あの日、急遽ばば様から翌月に控えていた舞台の打合せと衣装合わせの日程を早める連絡が入った

日舞の家元であるばば様の意向は絶対であり、孫娘とはいえ一弟子であるわたしに否応は言えない

数ヵ月前から夢に見るほどに待ち望んでいた日であったのに、よりによってなにも今日でなくてもいいのに!と、自室で枕を殴り倒した


学校が終わってすぐに両親と車でばば様のところへと向かった

そうして打合せを終えた翌日、内々の食事会を済ませて本邸に戻ってきたのが午後10時過ぎ

どうにも騒がしい家中にばば様が渋面で問いただすが、要領を得ない説明に業を煮やし、テレビのニュースをつければ、信じ難い内容が繰り返し流されていた


その後、急いで帰った家にあったのは、いるはずの兄の代わりにどうやって入り込んだのか例の幼馴染の双子の姿だった

2人は兄がニュースの事件に巻き込まれたのでは?と、一昨日の夕方からずっと探し続けていたらしく、朝方のいま、自宅に戻っていないかと確認にきたのだという

日頃の仲の悪さが出てしまい、双子の妹との口論が次第に熱を帯び、両親と双子の兄の方が止めに入るまで、取っ組み合いのケンカになってしまった

そこで言われた言葉が心に突き刺さった


『あんたたちはどんだけあの子を追い詰めれば気が済むのよ!何万人も死体で見つかってんのよ!もしあの子がそんなことになったらあんたらも殺してやる!!どれだけ陰であの子が泣いてきたか知ってんの!?どんだけあの子が自分を責めてあんたらをかばってるか知ってんの!?優しいから、底抜けに優しいから、だからってあの子の優しさに甘えて傷つけたことをなかったことにしてさも当たり前に家族ですって顔してんじゃないわよ!!!』


喉がちぎれんばかりに泣き叫ぶ双子の妹の姿に、わたしも両親もなにも言えなかった


『よせ頼子、あいつの家族を敵に回してもいいことないって。いまは探す人手が1人でもほしい、ケンカしてる場合じゃない。おじさんおばさんあやちゃん、手分けをしてあいつを探しましょう、ニュースの通りにゲームの世界に巻き込まれたなんて信じ難い、何か別の事件に巻き込まれた可能性だってあります。いま警察はとても捜査を依頼できる状態じゃありません。俺たちで探すしかないんです』


そこから5人で手分けをして街中を探し続けた

看護婦をしているという双子の母親も仕事終わりに合流して探した

数日が過ぎ、10日が過ぎ、1か月が過ぎ、半年が過ぎた

定期的に発見される『エデンオンライン』というゲームを購入した人達の死体


ゲームにログインした場所で発見されるのだという

我が家では、それはつまり兄の部屋になる

この頃にはもう、兄がゲームの世界に飲み込まれたことは疑いようのないことだった

いまだに原因は解明されていない


朝起きて、兄の部屋をあけて、無事に゛誰もいない゛ことを確かめるのはお父さんの仕事になった

寝る前に、兄の部屋をあけて、無事に゛誰もいない゛ことを確かめるのはお母さんの仕事になった


兄がゲームの世界に吸い込まれてから2年近くの歳月が流れた

当時中学2年生だったわたしは、あと2か月で兄の年齢を追い越してしまう

両親にもわたしにも、あの日からずっと笑顔はない


兄を失ったあの日から両親とわたしは、双子とその母親といろんな話をした

自分たちのことに必死な余りに、兄のことを蔑ろにしていたのだと認めざるをえなかった

両親は涙ながらに謝罪の言葉を口にし、兄を支えてくれた双子とその母親に感謝した


一時期、兄は失声症となりしゃべれるようになるまで1年近くを要したという

両親もわたしも、知らなかったことに愕然とした

突然声が出なくなり、双子の母親の勤める病院へと連れていったところ失声症と診断された

そのとき、兄は必死に家族に知らせないでほしいと、身振り手振りや筆談で訴え続けたそうだ


その場にいた担当医師と双子の母親の判断で、少しでも家族が不安になったり疑問をもったときには包み隠さずに話すということで、治療を行うことにした

だが、お父さんもお母さんもわたしも、様子がおかしいことに疑問をもたず、なにも言ってこないことをいいことに兄の異変に蓋をした……


昔、珍しく兄が両親に反抗した日のことをわたしはよく覚えていた

確か、犬を飼いたいと言い出したことだ

そのときの兄の憔悴振りのこともあって記憶に残っている


あれから何年も経っていることから気にもしていなかったけど、いまだに夢に見ては翌朝、嘔吐を繰り返すこともあるらしい

わたしと両親がばば様の家にいったときは、やはり精神的なものかららしいけど、眩暈や吐き気を覚えることも少なくないそうだ


わたし達は同じ家に住んでいながら、ちゃんと家族をしてこれなかった

両親もわたしも、兄に伝えたいことがたくさんある

ずっと憧れていたこと、大好きだったこと、追いかけて追いつけなくて、憎みそうになるほどに焦がれていたこと、たくさんたくさん伝えたいことがある

同じくらい、兄の口から聞きたいこともある、だからどうか、無事に帰ってきてほしい





このときはまだ、『その時』がもう目前に迫っていることなどしることもなかった

心の底から願ってやまなかったことが、叶ったのか叶わなかったのか15歳のわたしには判断できなくなってしまうのだけれど………

もしよかったらご評価・ご感想などおねがいします。

ちなみに、ここに至るまで主人公の本名出してなかったことに気づきました……、アリエナイ。

いまさら出すのもアレだし、でも出さないと今後厳しいし、皆さんどう思われますか?

ちなみに設定では男女どっちでも使える名前なんですけど。。。。

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