24話
24話
「なんだってんだいまったく!」
「俺に怒ったってしょうがないだろうが……」
「これで何日夜通しで仕込みしてると思ってんだい!」
「さてな、10日か?」
「知ったこっちゃないよ!ああもういい加減にしてほしいね!」
「ほれ、お前があんまり怒鳴り散らすものだから、あやが怖がってるじゃないか」
「ああ、ごめんねえ、ついついイラついちまってさ」
おばさんがそう言いながら俺の頭に手を伸ばして優しく撫でてくれる
うーん、別に怖がっていたわけじゃなくて、暑さと眠さでぼーっとしてただけなんだけどね
おじさんとおばさんのいつものやり取りを聞きながら、横で仕込み鍋をかき回してた俺はこの殺伐とした空気を変えるべく、両手を振り上げながら口を開いた
「わたしだってもうやだあああああ!温泉いきたああああああい!」
「「わははは!」」
ここのところずっと帝都や大陸の街では魔族の襲撃が続いているらしく、薬草の供給が追い付いていないのが現状だ
なので、おじさんと俺でひたすら薬草採集へいき、おばさんが家に残って仕込みを続けている
いつもはそれを店頭に並べたりお得意先に配達にいったりするんだけど、今は非常事態なので街の元老院に全てを納品しなければならない
毎日毎日、納品を促す催促が矢の如く飛んでくる、文字通り伝達の人が飛んできては『まだか!!』と怒鳴り散らすのだ
そんなに声を荒げて言われたって、無理なものは無理なんですよう
心の中で『べぇ』と舌を出しつつ頭を下げるしかない
おじさんもおばさんも、俺だって睡眠時間を削ったり休憩時間を返上したりして頑張ってるんだけどなあ……
今日もとっくに店仕舞いして夕飯を食べ終わって温泉にいって帰ってきて3人でのんびりお茶でもしてる頃なのに、いまだにこうして3人で薬草の仕込をしているのです
そんな中で唯一ご機嫌なのが、毎日朝から晩まで街の外へと外出できているライだ
いまはたっぷり遊んで大満足といった感じで、苦手な薬草の匂いから逃げるように部屋の扉の外で寝そべっている
そのライなんだけど、どうにも最近様子がおかしいのだ
薬草採集へと出掛けて、ふと気づくと傍にいる気配がなくて後ろを振り返ると、何食わぬ顔でこっちに向かって歩いている
『なになに?』と、嬉しそうな顔をしながらすり寄ってはじゃれ合って、また薬草採集に戻ると気配がない気がするのだ、この繰り返しが多い気がする
問い詰めてもよく分からないといった感じで首を傾げるばかりだし、悪さする子じゃないし俺の気のセイなんだろうか?
最近は物騒な話ばかりが聞こえてくるから、俺も精神的に過敏になっちゃってるのかも
このアヴィニヨンで魔族の襲撃はまだ確認されていないけど、大陸では帝都で大規模な戦闘が起きているっていうし、各街にも魔族の襲撃があるらしい
本当なら各街の騎士団だけでは防衛などとても無理だったはずなんだけど、前もって宮島さんの指示があったらしくほとんどの街で冒険者たちの活躍によって防衛に成功したそうだ
けれど自衛力の低い小さな村や地方の街では、全滅したところもあるって聞いた
過去に例がないくらいに、今回の魔族の襲撃は激しくて大規模みたい
現在、ラグナロクギルドを中心とした冒険者の組織は、街の防衛に全力を挙げている
当然資源や貯蓄していた回復剤も放出することになってしまって、次の攻略パーティーへの補給に影響が心配されている
だが、俺たちみんなは同じことを考えている
攻略パーティーは補給で立ち戻っても、腰を落ち着かせることなくいつも出立を急ぐ
今回はそれを逆手に取らせてもらい、魔族の襲撃のことなど彼らには知らせない
いつも通りに迎えていつも通りに送り出すのだ、余計な心配をかけさせないために
きっと彼らは現状を知れば精根尽き果てそうな状態なのに、さらに頑張ろうとするはずだ
奈々さんに、これ以上負担はかけられない
きっと他の人たちも同じ想いなんだと思う
自分たちにできる最大限のサポートをしよう、そう誰もが思っている
攻略パーティーが補給をしに戻るのはオーヴェルニュのゲートから
その周辺からラグナロクギルドまでの道のりは、戦闘の気配など微塵も感じさせることのない程に平穏なのだ
街の外に迎撃パーティーをいくつも組織し、魔族が街に近付く前に殲滅させることにしている
そうでなければ、勘の良い攻略パーティーのメンバーにバレてしまうから
だが、日に日に被害は増えていっている
魔族1人に対して、10人からなるパーティーが必要なのが現状だ
すでに死者も多数でており、このままでは徐々に押し込められていくのが目に見えている
それでも戦線を維持し、攻略パーティーへのサポートを継続し、元の世界へ戻るための希望を繋ぐことだけが、唯一残された道なのだ
本当なら俺もどこかの街に配属されて冒険者として防衛に当たらなくちゃいけないんだろうけど、各ギルド間で割り振りを決めているので未所属の俺に割り当てがこなかった
おじさんもおばさんも『わざわざ危ないトコにいくことはない』と、ラグナロクギルドに割り振りを聞きに行こうとした俺を引き止めてくれた
けど、誰よりも1番に辛いところで頑張っている奈々さんを思えば街の防衛で戦うことくらい頑張らなきゃダメだよね
なのに、なんでだろう?
割り振りを聞きに行った俺に告げられたのは
『自宅待機』の4文字だった………
なんでだ!?
『わたしも戦えます、うちのライはすごく強いんです!』
『いや、それはわかってるんだよ、うん』
『そうそう、契約…じゃなくて!そうじゃなくて……』
『なんてゆーか、護衛パーテ…じゃなくて、おい、コミュニティの誰か連れてこい!』
『……見守る会の一斉蜂起とか現実的過ぎてワロエナイ』
全ての冒険者が防衛に当たっていると聞いているし、女性達だって前線に出ないまでも後方支援などで戦闘参加しているという
なのに、なぜだか俺だけ自宅待機とか!納得できるかー!
理由を聞かせてもらおうと問い詰めれば、なにやら歯切れの悪いギルドの面々
がんばるって決めて、奈々さんの相棒としてしっかりしなきゃって、怖いし逃げたいけど勇気を振り絞ってここまできたのに、ひどすぎる
悔しくて悲しくて切なくて、なによりも情けなくて涙がぼろぼろと両の目からこぼれだす
俺はみんなががんばっているこんな状況で役に立つこともできない
奈々さんが命をかけて戦っているのに、誰よりも大変な思いをしているのに、俺はなに1つ満足にできないでいる、誰1人助けられないでいる
周りでラグナロクギルドの人があれこれ言ってる気がするけど、いよいよ本格的に泣き始めた俺の耳には届かない
そうしている内に、よく見知ったコミュニティの人がきて俺にこう言った
『あや、誰もあなたを頼りにしていないんじゃないのよ?いまは1人でも多くの手が必要なの。でもね、あやは召喚士でしょう?いま、魔族との戦いは大規模な局地戦といった感じでね、常にどこの戦場も乱戦になっているのよ。通常の狩りでならあやとライのコンビは頼りになる戦力よね。でも混戦状態になるとあや自身に危険が及ぶ可能性がものすごく高いの。いくらライが強くてもパーティーメンバーがサポートできても限界があるの。これは分かるわね?』
俺は魔族襲撃の戦場をまだ見たことがない
いまの話を聞く限りでは、俺にとっては最悪の戦場といえる
なにせ、俺自身は全くといっていいほどに戦闘能力がないのだ……
防御も魔法防御も最低水準で、重い装備は着ることもできない
さらには攻撃手段が手に持った杖で殴るしかない、しかも超貧弱な力で!
そんな俺が混戦状態の戦場にいたなら、まず生き残ることはできないとおもう
『分かってくれたわね。召喚士であることがあやの強みでもあるけれど、今はそれが弱みになってしまってるの。でもね、いずれあなたにも戦ってもらう局面が出てこないともわからないでしょ、そのためにいまは待機をお願いしたいの』
そっと、こぼれる涙を指ですくってくれる
真剣に見つめてくる眼差しには、強い力が込められていて、俺のことを思って言ってくれているのが良くわかる
きっとこの人の言うとおりにするのが1番良いのはわかるけど、このままおじさんとおばさんの元で過ごしていていいんだろうか
慰めてくれていたコミュニティの女の人は、そんな俺の心の機微を感じ取ってくれたのかこんな提案をしてくれた
『ねえ、あやが暮らしているのは薬屋よね?いま回復剤の在庫が急激に減ってるのは知ってると思うけど、これは今後もっと加速度的に状況は悪くなっていくかもしれない。だからね、薬草や回復剤をたくさん作って欲しいの。わたし達にはできないことだから、とても助かるんだけどどうかしら』
後ろに控えるギルドの面々も何やら力強くうなずいている
その後に駆け付けたコミュニティの人たちの後押しもあって薬屋として頑張ることが1番役に立つと思い、おじさんとおばさんと一緒に採取や仕込みに精を出していたというわけだ
それこそ寝る間も惜しんで頑張っているのだ、だってこれが俺にできる1番のことだから
1つ回復剤を作るたびに、1人の誰かを助けられてると信じて心を込めて作る
ちなみに薬草採取で極稀に取れる品質のいい薬草からは効果の高い回復剤が作れる
これはおじさんとおばさんに協力をもらって、奈々さん達に渡すためにこっそりと仕込みをしてる
元老院にバレないように夜中に運び出してラグナロクギルドの保管庫においてもらってるのだ
ほんとは手渡しで受け取って欲しいけど、補給の時に会えなかったら意味がなくなっちゃう
でも、ありったけの気持ちを込めて作ったんだから、きっと伝わるよね?
いま、自分にできることを精一杯にがんばる
俺のできることなんてちいちゃなことだと思う
けどたくさんの人があつまって頑張れば大きな力になる
そうだよね奈々さん、きっとみんなの望む未来が待ってるよね
少しでも奈々さんの助けになるように頑張るから
だから、無事に帰ってきてね、そして一緒に帰ろうね
異世界よりこのエデンへときてから、1年と6か月が過ぎていた
当初よりも半分以下へと数を減らしながらも冒険者たちは生きていた
微かな可能性に、僅かな望みを繋ぎ、見えない未来を勝ち取るために
冒険者たちの行く末を知るものはない
何故ならば、その未来をは彼ら自身の想いによって決められるのだから
神樹エデンは等しくこの世界に生きるものに希望をもたらすという
彼らは旅の終わりになにを見るのか
この先に待ち受けるのは、奈落の底か、約束の地か
冒険者たちの最後の戦いは、まさに佳境に差し掛かる
全ての者たちの想いと存在をかけて




