1話
1話
暗闇の中に突然吸い込まれたと思ったつぎの瞬間にはまぶしい光の中にいた
気づけば大きなテラスのような場所に立っていた
レンガ作りの広場と学校の教室くらいある大きな噴水がみえる
テラスのてすりは白くて1メートルくらいの高さだ
上を見上げれば
人間の想像力なんかじゃ追いつかないような
すい込まれそうなほどに圧倒的な
五感すべてに訴えかけてくる
どこまでも続く青い青い大空が、目の前に広がっている
(すごい…大空の音が聞こえる、大空の匂いがする)
後ろを振り返れば
そのまま後ろにペタンと座り込んでしまいそうになるほどに雄大で
大地の偉大さを見せつけるかのように力強く
思わず体が震えてしまいそうになるほどの威圧を感じながら
ため息が出るほどに美しくそびえ立つ山々
(ってホントにしりもちついてるし!ていうかあの山けむりでてるし!)
左手には
緑とはこんなにも多彩な色を持つんだ…と思わせる森が広がる
森の先にはわずかに地平線の際にのぞく海が色彩をつよくする
右手を見れば
これが本当にゲームの世界なのか?と疑いたくなるような町並みが広がる
派手な出で立ちの様々な種族たちが行きかう賑やかな露店街がみえる
その奥にはレンガつくりや石畳などの、中世ヨーロッパを思わせる2階建ての建物がみえる
呆然と座り込む俺に、そっと、ほほと髪に風がさわる
「ふわ……これほんとにゲームなのか…」
あまりのリアリティーに身じろぎもできずにいる、あまりにもすべてが現実的すぎる
地面に座るおしりと足の感覚、風を感じる感覚、大自然の匂い、山々や建物が示す質量感
なにもかもがリアルなのだ
そのとき露店街の中から声が聞こえた
「今朝あがったばかりの魚だ!買っておくれよ!!」
きれいな金髪のお兄さんが身振り手振りをまじえながら威勢よく声をかけている
売ってるお兄さんの腕になんか生えてる…。ウロコ?羽?とりあえず人間じゃないよね…?
ボーッと眺めていたらあっという間に人だかりで見えなくなってしまった
今晩のオカズはこれで香草と蒸しましょうー なんて言いながら素手で魚をもっていくお母さん?達が世間話をしながら建物のほうへ歩いていく
引き続き呆然と座り込んでいる俺は、ふと違和感を感じた
(あれってみんな機械が動かしてるの?ものすごいリアルなんだけど…)
雑踏感?≪ガヤガヤしてる人のいる気配≫がするんだよね、まさかゲームの中にいる人って全部ホンモノの人だったりするのかな
うーん、よくわかんない
アレコレ考えていると小さな男の子がこっちにむかってきた
「ねえ、なにしてるの?おなかいたいの?だいじょうぶ?」
5才くらいかな?栗色の髪に緑の目をした犬耳ついてる激萌えな子だ!!!!
やばい!このまま拉致ってしまおうか!!
「おねえちゃん?だいじょうぶ……?」
男の子はまっすぐ俺をみて心配してくれてる、座ったままだと目線がちょうど同じくらいなのだ
イカンイカン、こんな小さな子に心配させちゃダメだよね
「うん、だいじょうぶだよーありがとうー」
座ったままにっこり笑って返事をするついでに、頭を(狙いは犬耳!)なでてあげる
(うはああああああああああああ!!モフッてるううううううう!!)
男の子は安心したのか邪念を感じたのか、はにかんだ笑いをしながらお母さんのほうへ走っていった
あ、おかあさんも犬耳だ!しかも若いな。この世界だとあんまり年とらなかったりするのかな
犬耳の男の子の後姿をみおくると、露店街をあるくひとたちの視線を感じる
あきらかに地面に座り込んでいる俺をみている
「………むう」
とりあえず、立とう、座り込んだままじゃヘンな子と思われるしね!
あの耳はいいなー、現実だとペット飼えないしなー、また触りたいなーなんて考えつつ
砂をはらおうとおしりを両手ではたいた瞬間カラダがかたまる
むにっ
「…………………」
やわらかい……むにっていった
ゲームにログインしたときのあまりのリアリティーに驚いてて忘れていた、いまはあいつの作ったキャラだった
つまり、女の子なわけで、ようは、そういうことなわけで
そういえば男の子がおねえちゃんとかいってたけど、そういうことかーなんて思いつつ
思考が硬直する
身体から汗が噴き出す
軽くめまいまでおきる
なのに、手の感触だけがリフレインする……
女の子ってこんなに柔らかいんだなー
って、そうじゃない!俺は別にそういうつもりで触ったわけではなくて、そもそも触ったわけじゃなくて汚れを落とそうとしただけであって、下心は微塵もなかったわけで、いまはどうかと聞かれれば何もないとはいえなくもなかったりするけども、って誰に言い訳してるんだ
よーし、落ち着け、まずは深呼吸をして
そうだ、こういうときは屈伸するといいって小学校のとき言われた気がする!
「……20…21…22…23…」
呼吸はちっともおさまらない、むしろ悪化した気がする
心臓は動悸なのか運動で血流激しくなったのかわかんなくなったけど頭は落ち着いたのでよしとしよう
まわりからクスクス笑われてるけどみないようにする
額の汗をぬぐってそのまま森の広がるテラスのほうへあるいていく
ここの町は高台につくられているようで、森はだいぶ下のほうから周囲を囲む山々に広がっている
思わずため息をつく、気持ちが落ち着いてくる、屈伸なんかしないでこれを見ればよかった
この風景を眺めるだけで、あいつが両親にあれだけ頼み込んでゲームをやりたがった理由が理解できた気がする
まあ『敵を爆破できるのよ!夢にまでみたことができるのよ!』とかいってたきがするけど
俺も両親にお願いして機材をもう1通り買ってもらおう、なんておもった
この世界を感じてみたい。あんまりがんばってゲームするつもりもないけど、現実の世界では知りえないことや見ることもできないものがここにはある
そんな予感がしたんだ。犬耳は間違いなくあったけどね!
そのままどれだけの時間そこで過ごしたかわからない
ゆっくりと日が沈むのをぼんやりと眺めていた
ふと、我に返る
「いま…なんじだろ……」
たしかゲームと現実の時間の流れは同じハズ、両親と妹の帰宅時間はおそらく18時過ぎ
まだだいじょうぶだろうけど、勝手にゲームにログインしたとバレたらまずい
ログアウトして、自分の部屋にもどろう、そして両親を説得するのだ
エデンオンラインを、俺もやりたいから機材買ってくれ!と