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エデンオンライン  作者: あやなん
Ester of one-person
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18話

18話




「なんですって!?」

「いった通りの意味だ、そして君はそれを受けると信じている」


あたしは思わず声を荒げながらテーブルに拳を叩きつけた

シレっとした顔で言い切る男に苛立ちを募らせつつ、睨みつける


「……っふざけないでほしいわね」


剣呑な雰囲気の中、殺気を帯びながら男をさらに睨みつけるが、この憎たらしい男はさも意外だと言わんばかりに肩をすくめながら変わらぬ口調で語る


「至極真面目に話しているんだが」

「うるさいわね!」

「それはすまない」


怒り心頭なあたしとは相反し至極冷静に言葉を返す男に腹立たしさは募るばかりだ

しかし会合の場で1人立ち上がって怒鳴り散らすのは如何なものかと思う

いたし方もなく無理矢理に自分を落ち着かせて、椅子へと勢いよく座りなおす


「話が切れてしまったが、改めて周知させていただきたい。今計画において最も重要な事項である『攻略パーティーの擁立』において、この計画に賛同するということは全面的な協力を確約することと等しいと思ってもらいたい」

「あたしは賛同もなにもしてないじゃない!」

「……エステル・バゼーヌ、話が進まない。最後まで聞いてもらえないか」

「いちいち嫌みったらしくフルネームで呼ばないで欲しいわね。だいたい疑問があればその都度言って欲しいっていったのはあんたじゃない」

「わかった。質問は後でまとめて受けるとする。呼び方はファーストネームでいいだ……

「い や よ !」

「……ではバゼーヌと」


承諾もしたくはないが、仕方がないので鼻を『フンッ!』と鳴らして横を向く

あたし自身この議題になっている内容が気に入らないのか、この男が気に入らないのか分からないけど、とにもかくにも腹が立つのよねー








この男、宮島はそうそうたるメンバーの揃うこの場で言い放った


『この世界にある神話を紐解けば、かつてこの世界と異世界とを結ぶゲートが存在しているとある。約1千年前の大戦の折にそれは失われて久しい。だが、゛それ゛を見つけ出すことができれば、異世界とのゲートを再び開くことができれば、我々は日本へと戻ることができるのではないか?それがわたしの考える希望だ。』


余りの絵空事にあたしは胡乱な目で宮島を始めとする会議の参加者を見渡した

しかし、その後に示された数々のこの世界に伝わる伝承や神話に基づく資料と、単一国家としてエデンを治める帝国上層部から引き出した極秘資料とを照らし合わせれば、高い精度の可能性であると思えた

だが、それに付随する様々なしがらみというか拘束されるかのような制約が奈々の癇に障るのだ

なに1つとして光明の見えなかったいまの状況の中で、やっと見出せたかもしれないこの希望は捨て置くことはできない

が、それによって切り捨てなければならないモノがあることも事実

奈々には、それを良しとすることは簡単にできることではなかった


つまり、宮島がいうところの攻略パーティーの擁立である

力あるものを集め、目的の地へと続く血路を切り開く『決死隊』ともいえる精鋭のみで編成されるチームだ

恐らくこの攻略パーティーへの参加を奈々へ促すためにここに呼んだことは、想像するのは難しいことではない

女性2人のパーティーで、実質的には奈々1人で魔獣を打ち倒していることは、隠すつもりもないのだけど多くの人たちが知る周知の事実というヤツだ

同じことをできる人が一体どれだけいるだろうか?

間違いなく片手で数えれるほどだろうとコミュニティのみんなも言っているし、奈々自身も『自分はこの世界でも普通ではない』ことは自覚している

だが、この攻略パーティーへの参加の是非には簡単に頷くことができない


なぜならば、この数ヶ月の間、共に過ごした1人の少女の存在が、奈々にとっては最重要事項として脳裏にあるからだ

あの子にとってなにが1番有意義か?と聞かれれば間違いなく今の世界で戦いもなく平穏に過ごし、元の世界へと戻れることだと言い切れる

未だに、死ぬことに怯え逃げようとする魔獣にすら同情し止めを刺すこともできないような性格なのだ


奈々の脳内では、選ぶべき道は見えている

正しい選択は゛これ゛だと明確に理解できている

けれど、すぐさまそれに従うことができずに目の前の男に当り散らしているのは果たして、初めてできた友人である少女との生活の終わりを惜しむからなのか、宮島という男の思惑に乗ることへの嫌悪感なのか……………








『それぞれが、今回の議題については理解をしていただけたかと思う。目的は2つ。「ゲートがあったとされる場所への道を切り開く攻略パーティーの擁立」「日本への帰還を望むもの全ての体内マナ保有の増加」だ。それにあたって先ほど提案させていただいた攻略パーティーについてまずは提言したい。』


そういいながら宮島は奈々をまっすぐとみつめる

イラッとしながら睨み返すが、この憎らしい男は涼しい顔だ


『ここにいるものの内、数名は気が付いているだろう。我々の持つ身分通行証に記載のない、特殊能力の保持者は存在する、わたしや………バゼーヌ、君のようにだ。』


この時の奈々の苛立ちは頂点にあったといってもいいだろう

確かに自分が少し人と違うことは分かっていたが、今この場でこいつはあたしを特別扱いする

攻略パーティーの擁立に端からあたしを組み込む気でいたクセに、こうして挑戦的にこんな会議の場であたしに決断をこれ見よがしに突きつけてくる

己の手の内を見せずにこの場に引っ張り出して、勝手に祭り上げてくる

あたしを利用しようとする者たちは過去に沢山いた

その全てをあたしは蹴散らしてきたし、自分の道は自分で選んできた


ああ、イラつくわ、あたしはこういう男がなにより1番キライなのよ

と、ここで冷静に考える自分がいた


(変わったんじゃなかったの?小さなプライドで大事なものを見誤るの?いま、自分が成すべきことはなに?この男があたしを利用するのなら、逆にあたしも利用してやればいいじゃない)


ふと、Ragnarokの設備やコミュニティのみんなのことを思い出す

ここであたしが攻略パーティーに参加したとして、得られるものは元の世界への帰還の希望と、あの子の生活と安全の確保だとするのなら、決して安くはない


不機嫌250%の青筋を浮かべた般若顔から一転、思案顔に変わった奈々を会議の参加者は固唾を呑んで見守っている

ふと、自分をこの場へと誘ったコミュニティの彼女を見れば、真っ青な顔をしながら祈るように手を組み、奈々へと視線を投げかけている

宮島へと再び視線を戻せば『断るまい?これ以上の選択はないハズだ』とでも言いたげな面持ちで腕を組みまっすぐにこちらに視線を向けている


しばらくの沈黙の後、この会議は終結した

宮島の描いたシナリオに若干の修正が施された為に、攻略パーティーの出立に3ヶ月を擁すことになった


それにより、1人の少女が汗と涙を撒き散らしながらエデンの地にて、阿鼻叫喚の様相を呈することになるのだった………









帝都を囲む砂漠を東に進めば高らかにそびえる山脈がある

その山々の向こうには未開の土地が広がるという

帝都防衛を担う近衛兵団と7つの騎士団がこの帝都にはある

帝国の全戦力の95%がここにあるといっても過言ではない


それはなぜか?


応えは1つだ


山脈の向こうにあるのは魔族の治める土地であり魔獣を生み出す温床とも言われている

魔族の王たる魔王が住み、魔族の暮らす街があり、800年前の大戦からこれまで小さな小競り合いを数えれば数千回では到底及ばない程だ

絶えず逼迫した緊張状態が続いている


各地の魔獣被害を防ぐべく騎士団の派遣を頻繁に行いたい

だが、それをすればこれ幸いと帝都を落とすべく魔族どもは意気揚々と攻めてくるのだ


これまで、互いに戦力の保持と底上げに必死になってきた

少しでも相手の戦力を削らんと、暗殺者を送り込んだり街を燃やそうとしたり河に毒を投げ入れたりと、憎悪に憎悪を重ねる応酬が積み重なり続けた結果

最早、どちらかが滅ぶまで終わらぬ戦いなのだと、誰もがそう理解をしている


だが、個の力に優れるが個体数の少ない魔族に対して、騎士団を組織し多種多様な種族で構成され、様々な術式・武器を開発してきたエデン帝国はなんとか互角に戦いを繰りひろげてきたのだが、ここ数百年ほどは非常に苦しい状況が続いている

先の大戦で神樹エデンへと続くゲートを失った帝国は、徐々にその恩恵を失いつつあるのだ


かつて子が生まれると神樹エデンへと参拝し、祝福を受けにいくのが常識であった

それは種族・敵味方関係なく、誰もが公平に行われる世界の営みであった

神樹エデンを前にした時、好戦的な魔族ですらその剣を納めた


しかしゲートを失ったこの800年もの間、帝国に生まれるものは誰も神樹エデンの祝福を受けていないのである

それは徐々に闘う力のみならず、個の持つ力そのものを弱らせていったのだ

その一方で魔族にその兆候は見られないとあれば、戦況が悪くなるのは当然の事といえる


宮島という異世界からの来訪者で脅威足り得る素性の知れぬ男が、帝国からの支援を受け神樹エデンへのゲート復旧を請け負うことができたのは、そういった背景があったのだ

だが、その支援を受けるために受け入れた約定は、決して安いものではない


宮島にとって最大の誤算は帝国皇帝の懐刀と言われるアルフォンス・フォン・バルバストルだった

こちらの目的と弱みを見極め、自分たちの弱みも望みも隠さずに、公明正大に正面きって会談の場に臨んできた

始めから勝ち目のない交渉ではあった

それでも宮島の持つ戦力とエデン帝国を取り巻く劣勢な戦況を鑑みれば少しでも有利な条件を引き出すことはできたハズだった

だが、アルフォンス・フォン・バルバストルという男はなに一つとして譲ることはなかった


『異世界の来訪者たるそなたらが1人漏らさずに死滅したとて帝国は僅かほどにも揺るがぬ。今日この日を持って我が部下がそなたらの監視に付く。僅かでも不穏な動きが見られれば1人の例外もなくこの帝国領では生きて行けぬと心するがよい』


最終的に、各街での活動・物資の補給・各神殿の解放を得られたが、居住はオーベルニュのみとなり、身分もなに1つとして変わることはなかった

交渉としては完全な敗北だ

生まれて初めての敗北の味に、最初は腹の底が煮え繰り返るかのような思いをしたが、いまは違う


全ての手を打ったのだ、考えうる可能性の中で、最良の道を選んだのだ

最早その他の選択肢など存在しないし、ただ逃げ道を絶たれただけ

背水の陣とは己の矜持に反するが、中々に居心地は悪くはない

『やるしかない』

あきらめれば、負ければ、そこで全てが終わる


宮島には日本へと帰らなければならない理由があった

決してあきらめることなどない、決して負けることなど許されない


アルフォンス・フォン・バルバストルは最後の最後の、宮島の心の逃げ道すらも消し去ってくれた

これに感謝せずにいられようか?

99%の完成率であった計画の最後の1ピースをはめてもらったかのような心持ちだ


己の計画が頓挫すれば、まず間違いなくあの男は容赦なく冒険者である我々を切り捨てるだろう

生き延びることができるのは、100人もいまい

だが、宮島には確信があった

『必ずうまくいく』

なんの保証も確信もあるわけではないが、そう言い切れてしまう自分がいるのだ


宮島は計画の発動に伴い、雑多な準備やら雑務に追われながら思案に沈んでいた己の思考を現実へと戻す

大小交々とした懸念事項はあれど、概ね計画通りにことは進んでいる


ただ1つの予想外のことを除けば………だが………







それから1ヶ月後、ある薄暗い洞窟の前で宮島は朝靄のかかる中1人腕組みをし、野営のテント警護をしていた

間もなく仲間が起きだす頃だろうか

と、1つのテントから人の抜け出す気配を感じ、後ろを見やれば白のローブに身を包んだ少女の姿が目に入る


「みやじまさん、おはようございます……」


この1ヶ月の間にすっかり顔馴染みになったハズの少女が、相も変わらずに怯えながら挨拶をしてくる

なにせこうして言葉で挨拶してくるようになったのも、この3~4日のことだ

毎日、得意でない笑顔など浮かべながらこちらから挨拶の声を掛け続け、パーティーの中では男性陣1位の早さで言葉を交わすことに成功した

人を散々能面だの顔面コンクリートだの言っていた残りの3名は未だにただの会釈でしかない

表向きには『紳士なわたしの態度が良かったのだ』などと言ったが内心は盛大なガッツポーズをしたものだ

元来、宮島は子どもが好きであったが感情が表に出難いこともあって、懐かれるとかいう次元ではなく傍に寄ってくることもなかった

だが、この少女はいつ頃からかバゼーヌや女性陣が近くにいない時には自分の傍にいるようになった

恐らくは無意識なのだろうと宮島は思っている

子どもは無意識の内に保護者たる存在を嗅ぎ分けると聞いたことがある

などと思考の小道に迷い込んでいたら、少女が返事の無いことにオロオロし始めた

これはイカンと、目元を軽く綻ばせながら挨拶を交わす


「ああ、おはよう。今日はバゼーヌと一緒には起きなかったのか?」

「あ、1回起きたんですけど、また寝ちゃって……」

「……そうか、では出立はもう少し後になるか。きみもテントで休んでいるといい」

「戻るとまた捕まっちゃうから……」

「なら、ここにいるといい」

「はい、顔洗ってきます」


テントのすぐ横のなだらかな丘を下れば川があり、魚が取れるほどにキレイな水だ

召喚士だという少女の後ろを、犬がトコトコと付いていくのを目の端に捉えつつ、今日も過酷な一日になるのだろうな、などど思う

幼い少女だと聞いてはいたが、初めてバゼーヌがあの子を連れてきたときには、想像を遥かに超えていたので、思わず目を剥いて驚いてしまった

その後パーティーを汲んで1ヶ月になるが、その挙動や言動を見るに付け、16歳だという年齢には到底見えない

自分が30になる年齢だからだろうか、思わず手を差し出してしまいそうになるのだが、その度に保護者たるバゼーヌから激しい怒号が飛ぶ

やれ『甘やかすな』だの『根性なし』だのと、見ているこちらが辛くなってくるのだが……







冒険者たちは仮初の平和の中でそれぞれが思い思いに過ごしている

もう後僅かで、自分たちの存在をかけた戦いが待っていることをしっているから

今を平穏に暮らそうとしているのかもしれない


だが、そんな大多数の冒険者たちの心の葛藤などどこ吹く風

ある少女は突然降って沸いた状況の変化に戸惑いながら飲み込まれていた


「いっやああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「キャンキャンキャン!!」

「うるさいわよ!!しっかりしなさいバカ!!」

「たすけてええええええええええ!!!!」

「ワンワンワンワン!!!!」

「さっさとライに指示出しなさい!!なにしてんのよ!!」

「ひいいいいいいいいいいいい!!!」

「キューン」

「ちょ、なにライ抱っこして逃げてんのよ!!!!!」


宮島は深いため息をつき、すっかり皺の寄ってしまった眉間を揉み解す

ふと上を見上げれば、どこまでも続く青空が広がっている、いい天気だ

何ヶ月も必死に考え抜いて、幾重にも張り巡らせた計画の糸は、確実に実を結んだ

その成果がいま、目の前に広がるこれかと思うと、なんだかやるせなくなってくる


テントでお茶でも飲もうと歩き出せば、背後から聞こえる絶叫と怒号

再びため息をつきながら、宮島は一人、つぶやく


「もう……、ダメかもしれんなあ………」





計画は、まだ動き出したばかりである………

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