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エデンオンライン  作者: あやなん
ライとの出会い
15/28

14話

14話



俺とライがルシフェナさんしかいない神殿の中でキャッキャッと遊びながら、数年間の空白を埋めんとしていたその時

神殿が倒れるのではないかとおもうほどの大音声を発しながら大扉が砕け散らんと開かれた


瞬時にルシフェナさんが召喚獣を呼び出し暴漢?への対応にでる

すごい、顔が優しい顔から厳しい闘う顔に変わった

俺とライの前には黒馬くんが護るように立ちはだかってくれる

前には虎くんがいる、唸り声が聞こえる

なにが起きたのか分からずライを抱えたままじっとしている


神殿の中での決闘やいざこざは厳しく制限されていて

これをやぶるものは≪追放処分≫になるって聞いた

よく分からないけど、すごく厳しいものみたいだから破る人はいないらしい

だのにこの神殿に暴漢らしき人がくるなんてびっくりだ

と、なにやら話し声が聞こえてきた


ルシフェナさんと……この声は奈々さん?


そーっと、黒馬くんの横から覗き込めばそこには間違いなく奈々さんがいた

難しい顔をしながらルシフェナさんと話しこんでいる、内容までは聞こえないや

俺は奈々さんと優しいルシフェナさんがケンカになってはマズイとおもい2人の元へと急ぐ

ライのことも紹介したいしね!

大切なこの子を、大好きな奈々さんにみせてあげたい

きっと3人で仲良くなれるとおもうんだ

犬耳の子供をみて『撫で繰りまわしたいわねー』っていってたしね!

両親とはちがって間違いなく犬好きのハズ

満面の笑顔をうかべながら駆け出す

びっくりしながら喜んでくれる奈々さんの顔が思い浮かぶ

くくく、きっと驚くハズだ、うしし


「奈々さん!あのね!この子が」ガツンッ!!




金髪碧眼の美女が赤いヨロイに身を包み、背の丈よりも大きな大剣を背に構え、右手をグーパンチに握りしめ、怒りにふーっふーっと息をはずませている

栗色の髪に緑の目のこれまた美女が薄緑のローブに身を包み、召喚獣を己の内へと戻すために左手を突き出しながら呪を唱えつつ、その顔に苦笑いを浮かべ冷や汗をかいている

黒髪黒目の少女は白いローブに身を包み、頭を抱えながら床にのびている…、その周りを灰色の子犬がキャンキャン!とせわしなく回る


「あの、お連れの方を長いこと引き止めてしまったのは当神殿にも責のあることでありまして、その…」

「いーえ!゛これ゛が散々迷惑かけてたに決まってるんです!それと、これはウチの躾の問題ですので!」


ルシフェナさんが必死になんとかフォローを試みてくれるけど、お怒りになった奈々さんはそんなことでは収まらないのです

うう、ようやく意識がはっきりとしてきた

あんなにおもい切りぶつなんてひどいいー

頭のてっぺんが熱いような痛いような鋭くも鈍い痛みを絶え間なく与えてくる

あまりの痛みに目を開けることもできず呼吸をするのがやっとの状態だ

恐怖の大魔王が怒り狂っているので、しばしこのまま痛みを我慢しつつ様子見を決め込む


「で、いつまでそこで転がってるわけ?自分で起きる?襟首でも掴んで引きづられたいのかしら?」


ひいいっ、バ、バレてる、はやくしないとマズイことに!

まだクラクラする頭を支えながらなんとか立ち上がることに成功する

ライが心配そうに俺をみあげてくるけど、いまは危ないので抱っこはできません

俺の足の後ろに隠れるようにしてやる

と、奈々さんが俺のほうへと向き直り切り出した


「言いたいことがあれば聞くわよ」


ふんっ!とふんぞり返りつつ目が『ひっぱたくわよ?』っていってる

どうみても聞いてくれる態度じゃないんだけどな、なんて思いつつ

涙目で視界がボヤけるし痛みと軽い脳震盪でどうにも身体がフラフラするけども

頭を両手でさすりながら大きく呼吸を繰り返してキモチを落ち着けながら

足元に座っていたライを抱きかかえて奈々さんへと向き直る

あまりの迫力に顔をみることもできないけど

このまま黙っているとタイヘンなことになるので、なんとか言葉を振り絞る


「あ、あのね、この子はライっていうんだけど、これから一緒に暮らしたいんだ。奈々さん犬好きだよね?」


おずおずと見上げて、顔色を窺うとどっかりと腕を組んでこちらを見下ろしている

ひとまず話を聞いてくれているみたいだ

おもってたほどめちゃくちゃに怒ってるわけでもないみたい

ほっ、とわずかながら身の安全に希望をもちつつ言葉を続ける


「えと、この子は前も一緒にいたことがあってね、どうしてこの世界にいたのかわかんないんだけど、とても大事な子でね、奈々さんもかわいがってあげてほしいなって、おもうんだけど・・」


ライを抱えたまま俺は反応をまつ、もう口から続く言葉はない

空気が重い、どうしよう、とりあえず謝ったほうがいいのかな

背筋を冷たい汗がつつーっと流れる

どんどんと俺へ向けられる怒りのボルテージはあがっているようだ

腕の中のライも耳をペターンと下げて、尻尾も足の間に挟んでしまってる

ごめんね、お前のことだけは護ってあげるからね

この人はこうみえて実は優しかったりするから、ライにはヒドいことはしないはず

俺には、するかも、だけど、ね





「で?」


数分の沈黙ののちに奈々さんの口から発せられた一言は不機嫌さを表すモノだった

あまりのプレッシャーに顔をあげることもできなくなった俺は

下をむきながら視線を泳がせ、なんて謝るかを必死に考えた

ヘタに謝ると大魔王様のお怒りはさらに増すばかりなのです

うーんうーん、最初はここまで怒ってなかったはずなのに一体どうして!?

だらだらと冷や汗が噴きでる、手足がおもわずカタカタと震えてしまう

どうしようどうしよう、このままだとマズイことに……





「他にいうことないのかしら?」


ぐはっ

もはやこれ以上下がることがないほどに奈々さんの声のトーンが下がりきっている

決壊寸前の堪忍袋の緒がみえるようです

俺は自分のいった言葉をおもい返す

なにか怒らせるような言葉があったはず

ここで間違えればまっているのは想像したくもないお仕置きだ

と、ここでふと気づいた

いや、思い出した

以前に奈々さんはこんなことをいってなかったか


『子猫っていいわよねー、そういえばあんたって子猫っぽいわよねー』


そんなことをいってた

なんで俺が猫なんだかわかんないけど

そうか、もしかすると俺はものすごい勘違いをしていたのかもしれない

ようやくなにかに気がついた、といった顔をした俺が

奈々さんの顔をゆっくりと見上げる

『やっと気づいたわけ?』って顔をしながら眉をひそめて奈々さんが俺を軽く睨む

うん、ごめんねまったく勘違いをしていたみたい

大きく息を吸いこんで、しっかりと言葉を発する


「ごめんね奈々さん、ぜんぜんまちがってた」

「…まったくだわ」

「すぐに気がつかないなんてダメだね、ごめんなさい」

「もういいわよ、わたしも怒りすぎたわ」


軽くため息をつきながら、奈々さんは少し声色を優しくしながらそういってくれる

頭をガシガシと掻きながら横をむいている

これで許してもらったなんておもっちゃダメだ

ちゃんと最後までいうべきことはいわないとね


「奈々さん、犬派じゃなくて猫派なんでしょ?ボクてっきり同じだとおもってて……はしゃいだりしてごめんなさい。でもね、ライは大事な子だから、一緒に住むのは許してほしいんだ」


ショボンと、俺とライは2人でうな垂れながら言葉を待つ

うん、俺が間違ってたからね

ちゃんと謝ったし、なんだかんだで優しい奈々さんのことだから

きっとライのことも許してくれるとおもう

そうおもって、前をしっかりと向けば

そこには

般若と化した奈々さんが

今までみたこともないほどに怒りくるいながら

俺にむかってゆっくりと歩いてくる姿があった













走馬灯の如く、今日一日の出来事をおもいだしながら、俺は頭部を両手でこねくり回されつつ足は宙に浮くという状態で、いままさに意識を刈り取られ、命の灯火さえも切り取られんとしていた


(うう、犬派でも猫派でもないってことなの?なんで怒ってるの奈々さん……)


うすらぼんやりと遠のく意識おおかげで痛みも余り感じなくなった

ライ、強く生きるんだよ、この世界には大好きなボールはないからね

幼馴染の耕太と頼子もいないからね、おばさんもいないよ

でも、ごはんはきっと奈々さんが用意してくれるとおもうんだ

怖いバイクはないけどもっと怖い魔獣がいるから気をつけるんだよ

あとはなにかあるかな、うーん、なにかなー

あれ、お花畑が、みえるー、きーれーいーだーなーー








なにやら誰かが俺の顔を舐めている気がする

どこか定まらない思考の海をふわふわと漂っている感じ

くすぐったいなあ、耳元でだれかがはなしかけてくる



「う……ん、なに……?」


頭が朦朧としてまぶたが重い

軽いため息をつきながら、目を細めて視界を開けば

ライが俺の胸の上にのって顔を舐めていた


「クゥーン…クゥーン……」


鼻をこすりつけながらペロペロと顔を舐めてくる様は俺への心配が窺える

うう、なんて優しい子なの、ありがとうーー

おもわず抱きしめてほおずりをすると

嬉しさ半分心配半分といった感でノドを鳴らす

かわゆいなかわゆいな、いいにおいだいいにおいだ、ふわもふですふわもふです

ぐりぐりと撫で繰り回してほおずりしていたら


ガチャッ


突然開かれた扉のほうを見やれば、誰かが部屋の中へと入ってくる気配がする

顔をのぞかせたのはルシフェナさんだった

身体をおこしてライを抱える俺をみてにっこりと笑いながら


「あら、目が覚めたのね、気分はどうかしら?」


と、俺のほうへと歩を進めてくる

よく見れば神殿奥のルシフェナさんの部屋のソファーに横になっていた

扉から中へとはいってきたのは2人、当然奈々さんとルシフェナさんだ

大魔王の顔をみて思わず身体が硬直する

いまだになんであんなに怒られたのかいまいち見当がついていない

さっきのお仕置きの続きがくるのでは、と身構えていると

おもむろに俺が横になるソファーの前へときて

真剣なまなざしでこう切り出した


「あや、別れるときあたしなんていったっけ?」


ジト目で睨みつつ奈々さんにそう問われた

えと、なんていわれたか……えーと


『いい子にまってなさいよー』


っていいながら去っていったのを覚えてるけど、きっとこれじゃない気がする

うーん、なにか大事なことをいわれた気がする、なんだっけ

ライを抱えながらうんうんと唸っていると

こめかみをヒクヒクさせながら額に握りこぶしを当てつつ

ため息をつく奈々さんが俺のいるソファーに腰掛けてくる

と、恐怖の右手が俺の頭に伸ばされた

おもわずビクッとなってしまった

ほんのちょっと力の入った右手で頭を握られる

そのまま締め上げられるのではと身構えるけど

同じようにベッドに腰掛け俺を見下ろす奈々さんの目は真剣だ


「巫女か魔術師の神殿にいなさいっていわなかった?用事がずいぶん時間かかっちゃったからそれはあたしが悪かったとおもうけど、どこ探してもいなかったら心配するでしょ?」


そういった奈々さんの声はひどく静かで

頭に乗せられた手は温かかった


「なんども…、なんどもいったことだけど、女の子1人で危険を防ぐには1人にならないこと、危ない場所・知らない場所へいかないことなの。いまのあんたは、それを守れてたの?」


奈々さんが俺に怒っていたのは、心配かけることをしたのに俺がそれに気づいていないからだ

2人で生活するようになって『危機感がない』ってなんどもいわれた

女の子にとって危険がどこにあるかなんて予想もできないことが多い

1人にならないこと、知らない場所には近づかないこと、めったやたらに名前を明かしたり住んでいる場所を教えたりしないこと

だからこそ、別れるときに神殿にいるようにといわれたんだった

ライと再会できたことで浮かれてしまって、すっかり頭から抜けてしまっていた


「ごめんなさい……、しんぱいかけて、奈々さんごめんね…」


ぎゅっと上掛けを握りしめながら

きっと姿のみえない俺を探してあちこち探してくれた

俺を心配して神殿の扉を半ば破壊してしまうほど慌てた

いつだって俺を心配して怒ってくれる

本当はとてもとても優しい目の前の人に

心の底から謝った

あまりにも情けなくて申し訳なくて

涙もでなかった


「無事だからよかった。でもいつもだいじょぶとは限らないのよ?もう少し゛男の目゛というのを意識してほしいのよね、あんたは」


そういいながらため息まじりに俺の頭をぐりぐりと撫で繰り回してくる

ちょっと力が強くて、少し怒られている気がして

でもほんとは、奈々さんの優しさに気づけなかった自分が情けなくて

結局、俺はまた泣いてしまった

ライが心配そうに鳴きながら俺のほっぺを舐めてくる

そっと頭を撫でながらぎゅうっと抱きしめる

うう、大人になった俺をみせたいのに再会してから泣いてばっかの気がする

やれやれと大きなため息をつきながら奈々さんの顔に笑顔がもどった

その顔をみて、俺はまたのどに声が詰まりながら、涙を堪えなければならなかった







「で、その子犬を飼うわけね、ちゃんと自分で面倒みれるの?それとおじさんとおばさんに部屋で飼っていいか聞かないといけないわねー」


あと食費は自分でだしなさいよーとかトイレの躾はしっかりねーとか色々いってる

と、ルシフェナさんがにこやかな笑顔で奈々さんに応える


「あら、召喚獣ですので食費などはかかりませんわよ。屋内では術士の身体に入ってしまえば問題もないかとおもいますし」

「食費かからないって、食べたりできないの?お水飲んだりもできないんですか?」


突然のはなしに俺は慌てて問いただす、ライと一緒にご飯食べれないのは大問題だ!

お散歩いったらおいしそうにお水を飲んでたライを思い出して、少しの寂しさを感じる

よほど慌てていたのだろう、俺の顔をみて少し驚きの表情をうかべながら

クスクスと笑いながらルシフェナさんが俺に優しく諭してくれた


「いいえ、食べることもできるわ。けど敢えて金銭のかかることを進んでする人はいないわね。けれどあなたがそれを望むのなら、召喚獣は応えてくれるわよ」


ふむふむ、じゃあこれから一緒におやつ食べたりできるってわけだ

よかったねライ、これからは一緒にご飯たべたりできるんだよー!

うふふーと、ライを両手で掲げてくるくる回っていた俺の頭が

再び奈々さんの手によって掴まれる


「奈々さん、どうしたの?」

「……ちょっとまちなさい、その子犬って…召喚獣っていった?」

「うん、さっき認証?がね、できたの。それでね召喚士っていう職業があってね、ここはその神殿でね、術士からなれるんだよ、知ってた?」


ライを抱っこしながら満面の笑顔で奈々さんに説明する

と、どこからか重低音の太鼓の音が聞こえる


(なんだろう、地響きも鳴っている気がする……)


しかしそれは、太鼓でもなく、地響きでもなく

怒りに震える奈々さんが大気と大地を揺るがしていただけでした



このあと召喚士がいかに地雷職でそもそも選択肢に入れてなかったこと

戦力として戦えるようになるために途轍もなく苦労があること

召喚士への暴言をルシフェナさんに謝罪する奈々さんをみてちょっと笑ってしまって

怒りの炎に油をそそいでしまい、泣くまでほっぺをつねられたこと

神殿をでて部屋へ戻る間も戻ってからも

寝る直前まで奈々さんの怒りが収まることはなかった

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