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エデンオンライン  作者: あやなん
ライとの出会い
13/28

12話

12話



あれは、いくつのときだったっけ

たしか、小学校3年生のときだったかな

幼馴染と遊んだ帰り道、ふとなにかに耳を奪われた

周りを見渡すけどなにもない

空耳かな?そう思って家に向かおうとすると、またなにかが聞こえる

辺りを探し始めて、それはすぐにみつかった

小さな、ダンボールにいれられた子犬だった

あのときの感動はいまも忘れない

つぶらな真っ黒な瞳と灰色の毛並み

ピンととがった白みがかった耳

真っ白ふさふさの中に1本黒い線のはいった尻尾

足もわずかに白が混じってたっけ

俺をまっすぐに見上げて尻尾をブンブン振ってた、

なんてかわいいんだろう、初めて会ったのに気持ちが通じ合った気がした

ううん、気のせいじゃない、通じてたんだ

きっとこの子は俺に拾われるためにここにいたんだ

なにも迷わずに家に連れ帰った

きっとおとうさんもおかあさんもあやも喜んでくれる!こんなにかわいいんだから!

けれど家の扉が開けられ、ダンボールに座ってる子犬をみたときの両親はあまりいい顔をしなかった

おかあさんは犬アレルギーだった

おとうさんもあまり犬は好きじゃなかった

あやも動物はそんなに興味ないみたいだった

一所懸命に頼んだけど一緒に住むのはダメだった

いつでも、どんなときも、両親にいわれたことはちゃんと聞いてきた

必死に食い下がったのはこれが初めてだったとおもう

何度も何度もお願いした、でもダメだった

泣きながら一緒に住めないなら俺も出てくといったとき、おとうさんに怒鳴られた


そのあとのことはよく覚えていない

気づけば幼馴染の家にいて、子犬は2人が飼ってくれることになっていた

子犬を抱きしめながら大泣きする俺を、幼馴染の2人が優しく笑いながら慰めてくれてたっけ

子供のころ犬を飼ってたから安心していいよと、おばさんも優しくいってくれた

それから1週間、俺は時間の許す限り学校が終わるとまっすぐに幼馴染の家にいって日が沈むまで子犬と遊んだ

幼馴染でもおばさんでもなく、あの子はいつでも、まっさきに俺に向かって飛びついてきた

なんとなくだけど、顔を見るとお互いにキモチが分かるような気がした

一緒にいるだけで心が落ち着いた

おとうさんの実家のことで思い悩んでいたころだったし、学校でもちょっとうまくいってなかったから、あの子と過ごす時間が俺にとってかけがえのない時間になっていた

ある日、いつものように幼馴染の家にいくと飛びだしてくるあの子の姿がなかった

お昼寝をしていても俺がくると飛び起きてくるのに、今日はおばさんとお散歩にでもいちゃったのかな?なんて思いながら幼馴染2人と家の中に入っていく、と

そこにはおばさんが目を真っ赤にして立っていた

足元には拾ったときにあの子が座っていたダンボールがおいてある

中にはあの子がキモチ良さそうに寝ていた

なんだ、お昼寝していたのかと、頭を撫でてやろうと頭に手を伸ばしたときに、おばさんにその手を遮られた

なんだろう?とおばさんを見上げれば首をただ横に振りどうしてか目に涙が浮かんでいる

不思議におもい幼馴染を振りかえれば2人ともなんでか泣いている

よくわからなかったけど、今日はあたらしくボールを買ってくるから、公園で遊ぼうねって約束をしてた

夕方には東京のばば様の家にいかなければいけないから、遊べる時間が1時間ちょっとしかない

あの子を起こそうとまた手を伸ばすけど、やっぱりおばさんに遮られる

気づけば後ろから2人がしがみついてくる、なんでジャマするんだろう?

3人とも俺が今日は時間なくて少ししか遊べないの知ってるはずなのに

あの子はまだ起きない、そうだ新しいボールを見せてあげれば飛び起きるにちがいない

俺はカバンからピンクのゴムボールをだして、よくみえるようにかざしてあげるけれどまったく起きる気配がない

おばさんが俺の顔を両手で囲うように掴んで、真っ赤な目から涙を流しながらなにかをいっている

あれ?俺の耳おかしいのかな?なにも聞こえない、おばさんがふざけてるのかな

幼馴染を振り返れば、2人も真っ赤な目で俺になにかをいってる

なんだろう、なんにも聞こえない

俺はただあの子と遊びたいだけなのにな


ふと、俺の身体を押さえていた幼馴染の手が緩んだ隙にあの子に手を伸ばす

ずっと寝てるけど、俺が撫でてあげればきっと起きるはずだ

あの日あの場所で出会ってからまだちょっとしか経ってないけど、俺とあの子はずうっと昔から知ってるような、とても懐かしい、心があったかくなるような、そばにいるだけで笑顔になれる、お互いにそんな存在なのだ

俺の手があの子の身体に触れる、きっとびっくりして飛び起きるに違いない

お昼寝してて遊ぶ時間がちょっと少なくなったけど、新しいボールを買ってきたからね、公園で思いっきり遊ぼう

走り回るのが大好きなのに、お散歩大好きなのに、すぐに抱っこしてもらいたがる

のどが渇いたといってお水をせがむクセに、俺の手で飲ませてあげないと拗ねる

けれど、その1つ1つがただ嬉しくて、ただ愛しくて

ふわふわの毛並みも、温かなぬくもりも、おひさまのような匂いも、間違えるはずがない

目を瞑っていても、100万匹いるなかであの子を当てることなんて簡単だ

他の誰でもない、俺があの子を間違えるはずがない

なのに、どうして、あの子からぬくもりも匂いもしないの

身体に触れた手が、凄まじい違和感をともなって俺になにかを訴える

地震が起きたのかとおもったら、震えていたのは自分だった

手も足もなにもかもがガタガタと震えだし、呼吸が荒くなり、必死にあの子を抱きしめようと、おばさんと幼馴染の手を振りほどこうともがく

けれど、ちょっと人よりも身体の小さかった俺は簡単に後ろに引きづられてしまって、隣の部屋へと連れてかれてしまう

このとき、頭の中は恐怖でいっぱいだった

いま、ここで離れてしまうとあの子が1人ぼっちになってしまうような気がして、とにかく抱きしめてやらないといけない気がして

ただ必死にあの子のそばにいこうと半狂乱でわめき続けた



あの子が泣いてる


あの子が寂しがってる


あの子がかわいそう


あの子のそばにいさせて


あの子を抱きしめさせて


あの子と一緒にいさせて………………







事故だったっておばさんはいってた

買い物からもどって、家の門を開けて車から荷物を運んでいたのはおばさん

お仕事でバイクにのって家の前を通り過ぎたのは郵便屋さん

家から出ちゃダメって教えたのに、飛び出したのはあの子

すぐに動物病院に連れていったけど、手遅れだった


小さなお墓を3人でつくった

幼馴染の家の庭に

大好きだったボールやお散歩用のリードも一緒に


たったの1週間

一緒にいたのはたったそれだけ

なのにあれから何年も経った今でも

声も匂いもぬくもりもなにもかもが色あせない


あまりにも憔悴しきった俺に、両親はかわりのペットを飼ってもいいといってくれた

犬はだめだけど、鳥とかはどうかといってくれた

けど、俺はペットを飼ったつもりはなかった

ただ、あの子と一緒にいたかっただけだったから

俺だけじゃない、幼馴染の2人も同じくらいつらかったハズだ

そんな2人がそばにいてくれたのが、唯一の救いだった


叶わないと知りながら

届かないと分かりながら

いったいなんど願っただろう

そんなことはありえないけど

もしあの子にもう1度会えるなら………

あの子に会いたい………

あの子に………

………

……






遠くで人の声が聞こえる、視界が戻る、一瞬ここがどこかわからない

ガヤガヤと騒がしくはないけど、人の気配のする建物の中にいる


(そうだ、神殿で奈々さんまってて、寝ちゃったんだ)


昔の、懐かしい、思い出したくのない、でも忘れたくない記憶のセイで頭が重い

目には涙のあとがしっかりと残り、いまもまだ大粒の涙があった

手でそれを拭いながら身体を起こすと、周囲にはまだ奈々さんの姿は見えない

どのくらい寝ていたのかはわからないけど、待たせてしまわずに済んだことへの安堵と、予定よりも遅れすぎていることへの不安で、なんともいえない面持ちでため息をつく

あれから随分と経つけど、いまだによくみる夢だ

奈々さんにもなんどかうなされているところを起こされて心配をかけちゃったけど『怖い夢をみた』と言い訳をしてしまってあの子の話はしていない

隠してるわけじゃなくて、心のどこかで受け入れられていないのかな、とおもう

あの子と2度と会えなくなってしまったことを………


と、ようやく動きつつある頭をゆすりつつ辺りを見渡すと、目の前を1人の女性が通り過ぎた

肩に、なにかが乗っている、なんだろう?

じいっと見やれば、青いハトくらいの大きさの艶やかな鳥だった

この世界にきて、ペットを連れている人をみるのは初めてだったから、ついつい珍しくて見続けてしまった

視線を感じたのか、その女性がこちらをみてにっこりと笑う


(あう、目が合った。ってなんでこっちくるの!?)


にこにこと笑みを浮かべつつ栗色の髪に青い目をしたヒューマンであろう女性は奈々さんほどではないけど美人さんだ

見すぎてたことでも怒られるんだろうか?どきどきしながら近づいてくるのをまつ

下を向いていると視界に女性の足らしきものが見えて止まった


「こんにちわ、はじめまして、ルシフェナ・リリスです」


下を向く俺の上から明るく明朗快活といった感の声と口調が聞こえた

そっと上を向くと、さっきの鳥を乗せたおねえさんがにっこりと笑って俺を見下ろしていた

その肩にはさっきの青い鳥が乗っている、少し紫がかっているようにもみえる

俺をみて首をくりくりとかしげている、かわいいなー

思わずじーっと見つめている、と


「かわいいでしょう?わたしの召喚獣なの、移動のサポートをしてくれるの」


おねえさんが鳥を撫でながら教えてくれた

むむ、しょうかんじゅうってなんだろう?

よくわからなくて、目を丸くしてるとおねえさんが隣の神殿にこないかと誘ってくれた


「ここは巫女の神殿でしょう、隣にあるのがわたしたちの神殿なの、よかったらおいでなさいな。時間がなかったら、またこんどでいいのだけれど」


うーん、奈々さんには『神殿から出ちゃダメよ!』っていわれてたから、このおねえさんは神殿においでっていってるし、ついていってもだいじょぶかなあ

ものすごくしょうかんじゅうが気になるし、だいじょぶかなあ


「えと、人をまってて……、神殿からでちゃダメなんですけど、おねえさんがいくのは神殿の中ですか?」


ベンチに座ったまま、下を向きながら、ごにょごにょと尋ねる

あ、ちゃんと立って目をみて話さないと失礼になっちゃうんだった、こういうのは終わってからいつも気づく


(お…怒ってないかな)


おずおずとおねえさんを見上げると、俺をみて笑ってる

よかっただいじょぶそうだ、思わずローブの裾を握っていた手から力が抜ける


「そうよ、隣の神殿の中だから怖いことはないわ」


おねえさんはそういって、行き先への同行を促すように俺へと視線を投げかけてくる

きっとこのおねえさんはいい人だし、神殿にいくならだいじょうぶなハズ

でも、もし人攫いだったりしたらどうしよう、誰にもついていっちゃダメっていわれたし

うーんうーんと、知らない人についていくことに躊躇していると


「ここではムリだけど、神殿にいけばかわいい動物みせてあげられるのだけれど……」


おねえさんが、口に指をあて考え込む仕草をみせる

あきらかな釣り針!こんなみえみえのエサに食いつくことは……


「いきます!連れてってください!」


あるのです、かわいいは正義です、動物すきー!

うきうきとしながら、軽い足取りでおねえさんのあとをついていく

巫女の神殿をでるとそこは賑やかな街並みがあり賑やかな大通りに面している

さっさと進むおねえさんの後を人ごみに流されないよう必死についていく

行き先の神殿はほんとにずぐ隣にあったけど、大通りから1本逸れた裏道の奥にあった

しかも、魔術師や巫女の神殿に比べると随分と小さい

ちょっと不安を感じながら中へと入ると内部はキレイな大理石作りで、所狭しと術書が並んでいた魔術師の神殿とも、神父さん的な人が立ち並び祈りの言葉が溢れかえっていた巫女の神殿ともまったく違っていた

小さな神殿だけれど、立ち並ぶ柱の1本1本に彫り込まれた様々な彫刻や、壁に飾られた絵画、神殿の扉に描かれていたもの、その全てが動物のだった

それらが騒がしさを匂わせることもなく、大理石の白を基調とした神殿に落ち着きのある色合いをもたせている

人もまばらで、1…2…3…4……おねえさんで5人、俺で6人しかいない

巫女の神殿なんて数百人は入り乱れていたのに

絵が大好きな上に人ごみがキライな俺には、なんとも居心地のいい神殿だ

中へと入り、きょろきょろしていたそのとき、信じられないものをみてしまった


『ボエエエエエエエエエエ』


なんともおかしな鳴き声と共に、少し離れたところにいたおにいさんの身体が光ったとおもった瞬間、サイ?でもなんか鼻が大きいしゾウ?でも耳ちっちゃいしやっぱりサイ?でもなんか足細いし、なにあれ!?

おかしな動物が、変な模様が円状に浮かび上がる床から出てきた

おにいさんはそのまま、そのサイもどき?に乗って神殿からでていってしまう

あまりの光景に口を開けたまま呆然としている俺に、おねえさんがクスクスと笑いながらこういった


「召喚獣をみるのは初めてなのね。じゃあこれはどうかしら?」


まだ半ば呆けている俺に、おねえさんの足元に円状の模様が浮き上がる

と、またもやなにかがでてきた!


『ブシャアアアアアアアアア!』


って……

ちょ……

これは……

ダメ……


「ぎやああああああああああああああああああ!!!」


大絶叫と共に俺は全力疾走で壁と柱の間に逃げ込む


(か…かくれるとこは!た…たべられるー!!)


あたふたしながらなんとか身体1つ入れる場所をみつけて潜り込む

やっぱり奈々さんの言いつけを守らずに知らない人についていったからこんなことになっちゃったんだ

心の中でごめんなさいごめんなさいとなんども繰り返していると

ケラケラと誰かの笑い声が聞こえる

あんなでっかい魔獣がでたのに、なんだろう?と恐る恐る神殿内を見渡すと

俺をここに連れてきたおねえさんと、他にいた数名の人たちが大笑いしてる

その横には、あのでっかい魔獣もいる

頭が2つ、虎っぽいけど身体は茶色で尻尾なんて5本もあるし牙がでっかい

おねえさんが頭撫でてる、虎っぽいのもなんかご機嫌そうだ

もしかすると、あれもしょうかんじゅうなのかな?魔獣じゃない?

恐々顔をだすと、笑っていた人たちが声をかけてくれる


「ごめんね驚かせて、こっちにおいでなさいな」

「お嬢さん、これは召喚獣ですから貴方に危害を加えることはないですよ」


おねえさんともう1人、おとうさんくらいの年の人が俺にむかって声をかけてくる

あと2人、おなか抱えて笑ってる人がいる、すごくやな感じだ……

思いっ切りビビって逃げてしまった手前、恥ずかしくて出るに出れない俺は、柱の影からちらちらと様子を窺う

と、さっきの笑ってたいやなヤツの短髪の方がしょうかんじゅうをだす円状の模様をだしはじめた


『『『『うなあああー』』』』


でてきたのは、なんと、20匹はいるんじゃないでしょうか!

10センチほどのウサギとリスを足して2で割ったような

もふもふでくりんくりんでぴょこぴょこしてる子たちだった

それが、みんな俺のほうをみて首をかしげたり口をヒクヒクさせたりしてる

うわ、よくみると1匹1匹個性があるんだ、耳の形もちょっとちがうし、尻尾も膨らみ方が違う

ていうか、超もふもふなんですけど!うひー

変わりばんこに抱っこしてたら、他の子がヒザにのったり背中登ってきたりして

もう、ここは天国ですか、神殿でていくとき料金取られたりしないんだろうか

思う存分もふ具合を堪能していたら、突然もふっ子たちが消えてしまった

驚いて辺りを見渡せば、おねえさんとおにいさんたちが、俺を囲むようにして見下ろしている

確か俺は柱の影にいたハズなのにいつのまにか部屋の真ん中あたりにいる


こ…これはもふっ子をエサにつられてしまったのか、なんていう恐ろしい罠!

ダラダラと冷や汗を感じつつ、そーっとおねえさんの顔を見上げれば、最初に会った時と変わらない優しい笑顔がそこにはあった

ちょっと安心しつつ恥ずかしさを誤魔化しながら、軽くせき払いを1つしてゆっくりと立ち上がる

ところがローブの裾を踏んづけて前のめりに倒れこむ、ぎゃー!床に顔がぶつか……


「おっと、だいじょぶかい?おじょうちゃん」


る 寸前でいやなヤツののっぽの方が支えてくれた

感謝するとこなんだけど、笑われて誤魔化してドジって助けられてありがとうとかいいたくない

若干、涙目になりながら下を向いて恥ずかしさを堪える

せめて顔は赤くなっていませんようにと、無駄な願いをかけながら……


「だいじょうぶかしら?」


優しくおねえさんが声をかけながら背中をそっと撫でてくれる、そんな気遣いがやるせないキモチをより一層身に染みさせてくれる

顔も上げられなくなった俺に、いやなヤツの2人の笑いが降ってくる

うう、こいつらキライ

思わず涙ぐみそうになるのを感じていたら


「お前たちもいい加減にしないか、お嬢さんに失礼だろう」


おじさんがイヤなやつ2人を叱ってくれる

このおじさんはいい人だ、俺の中のいい人ランキングの5位に急上昇!

目元を拭いながらおねえさんとおじさんに、頭をさげてお礼をする

別に泣いたわけじゃないんだけど、ちょっと目に水が溜まったからね!泣いたわけじゃないけど!

と、背中をぽんぽんと叩きつつ、俺の方をみながらおねえさんが話し始めた


「もうわかってるとおもうけれどここは召喚士の神殿。わたしたちは神殿を預かるマスターよ」

「まあ召喚士はこの大陸でも100人とはいないからな、みな顔馴染みってやつだ」


おねえさんと短髪がそう説明してくれた

でも、召喚士ってなんだろう?初めて聞くけど

奈々さんには≪術士→巫女or魔術師≫って聞いてたけどちがうのかな?

1人考え込む俺をおいて、4人の≪召喚士≫たちのはなしは続く


「あなた、動物が好きでしょう?なんとなく、わかるのよね」

「召喚士は、召喚士を知るってな、わはは」

「やれやれ、またなにも言わずに勝手に連れてきて…」

「でも、゛それが正しかった゛ってなるんだろ?」

「結果論だ。お嬢さんの意思の確認が大事だろう」

「わかっているわ、そこを無視するつもりはないし、ちゃんと聞くわよ」

「俺は聞くまでもないとおもうけどねえ」

「確かにな、さっきの様子じゃまちがいないだろ!」

「いい加減にせんか!容易いことではないのだ、良いことも悪いことも教えてやらねばならん!」

「ナバルロ、いまからそれをこの子に話すから静かにしてくれないかしら」

「う…うむ」

「バルセロ、ビエルサ。あなたたちもね」

「へい」

「あいよ」


おじさんは、ナバルロさんっていうみたい

短髪がバ…バ…なんとか、のっぽがビエ…なんとか

人の名前を覚えるのは昔からニガテなんだよね

っと、おねえさんがなにかいってる


「あなた通行証の書き換えにきたのでしょう?あなたには召喚士の資質があるとおもうの。希望するのならここで認証を行うことができるわ」


あ、やっぱり召喚士って1次転職のことなんだ

巫女と魔術師以外にもあったんだ

奈々さんも知らないなんて、ゲームにはなかったんだろうな


「わたしの召喚獣の鳥をみたときのあなたをみて『この子は同じだ』っておもったのよ」


そういいながらおねえさん、ルシフェナさんはそっと俺から離れる

少し距離をとった場所で振り返り、俺の目をまっすぐにみながらこういった


「わたしたち召喚士は特別な力はもたないの。騎士のような闘う力も、魔術師のようなマナを扱う力も、巫女のような癒しの力も、けれど……」


ルシフェナさんの左手が光る

口がなにかの言葉を紡いでる

足元に模様が幾重にも浮かび上がる

青い模様 黒い模様 白い模様からそれぞれなにかが出てくる

青い鳥、黒い羽のある馬、さっきの大きな頭2つの虎っぽいのもいる

気づけばナバルロさんも、いやなヤツ2人も模様から動物をだしている

あ、もふっ子たちがいる!抱きしめにいきたいけど、でも足が動かない

あまりの迫力に立ちすくんでしまっている

圧倒的な迫力にペタンとしりもちをついてしまう

さっきは驚いて逃げてしまったけど、なんだろう

この子たちから怖さが感じられない

1人1人がちゃんと意思をもってて、呼び出した人と仲が良いんだっていうのがわかる

呆然と、俺を囲むみんなを首をかくかくと動かしながら見渡していると


「召喚士には、この子たちを呼び、共に戦い、共に支えあうことができるわ」


ルシフェナさんはそういいながら、大きな頭2つの虎、略して虎!を撫でながら話を続ける


「この子は単体としてはとても強い。けれど3体以上の魔獣と闘えば倒されてしまう」


続いて黒い馬、略して黒馬!の顔を撫でつけながら


「でもこの子は≪防護≫の力と≪回復≫の力をもつから、力をあわせることでとても強くなる」


最後に肩にのる鳥を手に取り


「そしてこの子は、仲間の俊敏さを強化・敵の俊敏さを弱化させることができるわ」


そういい終わるとしょうかんじゅうたちは背景に融けていくように、うっすらと姿を消していく


「わたしが召喚できるのはあの子たち3体のみ。つまりわたしは戦闘タイプの召喚士というわけ。ナバルロは支援・攻撃補助を得意とするわ」


くるりと、ナバルロさんを向けば゛うんうん゛と頷く姿がみえる


「バルセロは探索・情報収集、ビエルサは移動・搬送ね」


ちらりと2人をみやれば、得意げにこちらをみている

別に興味ないので知らんぷりだ、ぺっぺっー

ルシフェナさんが、へたりこんでいた俺に手を差し出してきた

手を取ってすっくと立ち上がり、その手を握ったまま言葉が続けられる


「召喚士は個人としてはとても弱く、なにもできないわ。けれど召喚獣を使役することでどんな職業よりも強くなることもできる」


思わず、俺がしり込みしてしまうほどに強い目線をおくりながら


「だのに召喚士が世界に100人もいないのは、『召喚士には召喚獣を選べない』ということなのよ。わたしが世界でも6人しかいないマスターになれたのは3体の召喚獣の相性が良く数少ない戦闘タイプの召喚士だったからだわ。まあもちろん才能もあるでしょうけれども」

「それに加え、選ばれた召喚獣がいやだといって召喚士を辞めたくとも20年、30年頑張っても得られぬ膨大な金銭とマナを捧げねばならぬし、なにより……」


後をついで話してくれたナバルロさんは黙ってしまう

な、なんだろう。他の3人も黙っている

身体に異常がでるかもっていうのは、通行証もらうときに聞いたけど、それかな?

時間にして1分ほどの沈黙が流れ、ナバルロさんが重い口を開いた


「召喚士が身分を変えるとき、つまり召喚士であることをやめたとき召喚獣はどうなると思うかね」


どうなるって、いきなり聞かれてもわかんないけど

消えちゃうのかな?どうなんだろう

あれこれ悩んでいると、短髪がため息混じりに切り出した


「死ぬのさ、主の身体からでてこの世界に存在を否定されて、苦しみながら死んでいくんだよ」

「え……」


空気の重さが、ことの重大さを俺に伝える

言葉の重みが、その悲しみの大きさを教える

あまりのことに反応できずに、立ちすくんでしまう


「最初から怖がらせたくはないんだけど、絶対に知っておかなくてはいけないことなの。他の職業の人たちは召喚獣をまるで消耗品のように思っている人もいるけどそれはちがうわ。あの子たちは生きているのよ。嬉しいことがあれば喜ぶし、悲しいことがあれば泣くの。わたしたちとなにも変わらない、この世界で生きている存在として、なにも変わらないのよ」

「だからお嬢さん。もしあなたが召喚士になりたいと願ってくれるのなら、心から召喚獣を慈しみ、共にあることを願って欲しいのですよ。……もう消えゆく悲しい召喚獣をみたくはない」


俺はルシフェナさんやナバルロさんの姿がぼやけたのに気づいて、初めて自分が泣いていたことに気づいた

この人たちはきっと今までに、どのくらいかは分からないけど、苦しんで悲しんで、そして死んでいったしょうかんじゅうたちをみてきたんだ

自分たちが大事に、大切におもっているはずの子たちが

別の召喚士のもとでは世界に否定され消えていく

それがどれだけつらいことかを、俺はしっている

心が壊れてしまいそうになるほどに、つらいことだってしっている

俺はしゃがみこんで、ひざを抱え、嗚咽をこらえきれずにただ泣き続けた

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