11話
11話
「こんの…………………」
奈々さんが、なんか、すごい顔してる
「あんたは…………………」
あ、右手が握りこぶしになった、なんで!?
「いい加減にしなさいよ…………………」
背中が壁に当たる
もうこれ以上は後ろにはさがれない
大人しく殴られるか窓から飛び降りるか悩んでいたその瞬間、頭を掴まれる
ガシッ「あうっ!って、いたたたっ!」
頭蓋骨がミシミシいってる
ちょ、ほんとに頭が割れる!!
「いたいよほんとにいたいってば奈々さんまっておねがいごめんなさいいだだだだだだ!!!」
必死に声をだすけど力が収まる気配はない
余りの痛みに涙がでてきた
しかしなんでだ、なんでこんなに怒られてるんだろう?
絶対喜んでくれるとおもったのに!なんで!
さらに力が増し、ミシミシと頭蓋骨が悲鳴をあげる中、空いていた手であごを掴まれ、頭部を両手でおにぎりを握らんばかりにこねくり回される
(奈々さん……そんなに力いれたらおにぎりつぶれちゃうよ……)
うっすらと意識が遠のくのを感じながら、ここに至るまでのことを思い出す
この世界へきて7ヶ月が経ち、ようやく、奈々さんに遅れること3ヶ月
俺もレベルが10になりアヴィニヨンと次の町≪オーヴェルニュ≫結ぶゲートを通ることができるようになった
奈々さんは一足先に1次転職を済ませてきていて、≪戦士≫から≪騎士≫へと通行証を書き換えてる
オーヴェルニュはエデンオンラインがまだゲームであったころは『1次転職の町』といわれ、各職業を担当する神殿が存在した
この世界にきてもそれは変わらないようで、各神殿はオーヴェルニュにあり、ここにたどり着かないと転職はできないのだ
これまでも転職に関してはいろいろと2人で相談していた
奈々さんは前衛職で最も耐久性に優れて、自己回復も可能な聖騎士を目指すといっていて
『わたしが特攻してあんたがサポートするのがいいとおもうわー』
ということで、俺は≪巫女≫か≪魔術師≫のどちらかを選ぶことになっていた
男が選ぶと巫女は神官になるらしい
話を聞いたら忍者とかくノ一とかいるらしい
くノ一なりたかった!忍とかかっこいいよね!
でも術士からは巫女か魔術師しかなれないので、くノ一はあきらめるしかない。くやしいー
奈々さんのおおまかな説明だとこうだ
『巫女は支援タイプと回復タイプに分かれるわね。支援は仲間の強化・防護、回復はそのまんまね。魔術師は6属性に分かれて、攻撃・支援・防護・強化とか属性ごとにいろいろタイプがわかれるんだけど、巫女ほど強化・回復とかは強くはならないの』
つまり、巫女になれば完全に攻撃は奈々さん任せでサポート専念ってことで、魔術師になればケースバイケースで動けるってこと
2人であれこれ調べたり、両方に転職した人の話を聞いたりしながら悩んでいたんだよね
そんな時、まだまだと思っていた俺のレベル10到達が思ったよりもはやくきてしまった
あの特訓以来、ちょっとがんばって攻撃参加していたのが効果あったらしい
普段は『贅沢は敵だ!』を合言葉に節制に努めている俺たちだけど、お互いのレベル10到達のときはお祝いしようって決めてたから
ちなみに奈々さんのときはお酒を飲んだ
ちょっと高いお肉をおつまみにつぶれるまでお酌をさせられたっけ
初めて飲んだけど、けっこうおいしかった!おとうさんもおかあさんもお酒強いっていってたしね
子供の俺も、そこそこ飲めるみたいで
『ぜったい弱いと思ったのにつまんないわねー!』
なんて理不尽なお怒りを受けた、俺にいわれても困るしー
で、俺のときはどうしたかっていうと
ずっと、ずっと、したくてたまらなかったことがあったので、奈々さんにお願いをしてみた
『奈々さんの絵を描きたいんだ、1日モデルになってほしいんだけど、どうかな?』
『え、あたしを?そんなのがお祝いでいいの?』
『うん!』
『はあ……、あんたがいいなら別にいいけど』
『うわ、ほんとに!?ありがとう奈々さん!』
『わっ、ぷっ、ちょっと、抱きつくな!くるし、離しなさいよ!』
OKしてくれるとおもわなかったから、思わず喜びすぎてチョップされるまで抱きついてしまった
でも、あの絵はなかなかの出来だった
ほんとはもっと時間かけてゆっくり描きたかったけどね
けど、奈々さんがものすごく喜んでくれたから実はちょっと満足もしてる
紙は貴重品だから、1枚だけの下書きなしの木炭デッサン
キレイでかっこいい奈々さんがモデルだと、どうしても俺の腕じゃ色褪せちゃう
いつか日本に戻れたらちゃんとモデルになってもらって、また描きたいな
そんな和やかな雰囲気でお祝いをして、2人でオーヴェルニュへと続くゲートをくぐったのが今朝のこと
初めてきた町にどきどきしながらゲートを抜ける
アヴィニヨンとはまったく違う町並みに思わず口が開いたまま呆然と立ち尽くしてしまう
あとで教えてもらってけど、人口だけでいうなら
アヴィニヨン:オーヴェルニュ=1:8
だそうです
町の大きさになると差はもっと広がるらしい
この大陸一の農耕地帯を街下に治めており、一大穀倉地帯になっているらしい
温暖な気候ながら雨季と乾期が1年に1度づつくることで多種多様な農作物が収穫できるんだって
アヴィニヨンの露店街が小さくみえるほど、目の前には途轍もない数のお店が所狭しと並んでいる
気づけば俺は奈々さんに手を引かれながら歩いていた
呆然と立ち尽くす俺に声をかけても動かないので、こうなっていたそうです
と、そのとき
「あら、2人ともやっとこっちにきたのね」
そんな声をかけられて思わずそちらを見やれば知っている顔があった
冒険者で女性コミュニティの1人のおねえさんだ、俺もなんどかはなしたことがある
種族は≪精霊:ドライド≫で、数多の種族の中でもヒューマンと1番かけ離れた容姿をしている
まず髪の色が緑です!耳の後ろとか腕とか足とかに葉っぱが生えてます!声もちょっと合成っぽい感じで人の声じゃないみたいなんだよね
ドライドは食べ物をほとんど取ることがなくて、水と光があればいいらしい。光合成か!プッ
ちなみに種族素養で回復・解呪をもち、水属性があるため、巫女や水属性の魔術師としてはかなり優秀らしいです
漏れずにこのおねえさんは水属性の魔術師なんだけどね!
「ええ、やっとねー。だれかさんのセイで時間かかっちゃったわー」
そういいながら奈々さんはもっていた俺の手を離して頭を軽くこずいてくる
(だから、甲冑のついてるとこで叩かないでよっ!)
そう目で訴えつつジト目で見上げれば睨み返される
怒らせるとタイヘンなので目をそらしつつ下を向いて頭をさする、いたい……
「ふふ、相変わらず仲いいのね。ところで今日はこれからどうするの?」
「この子の転職をしにいきたいんだけど、まだちょっと巫女か魔術師で決めかねてるのよねー」
「そうなんだ……」
そういいながら言葉がいい淀むおねえさん
どうしたんだろう?
思わず2人で顔を見合わせてしまう、と
「じつはねエステル、あなたに会って欲しい人がいるのよ。時間もらえないかしら」
奈々さんをついっと見上げる
この人は女性同士だとけっこう明るく気さくだ
でも、こと男が絡むと人格が豹変するんだよね
このおねえさんもそれは分かってるはずなので『男紹介するわー!』なんてことじゃないんだろうけど……
心配になって覗き込んでいると、ぽふっと奈々さんの手が俺の頭に優しくのっかる
「いいわ。そんなに長いことかかるわけじゃないんでしょ?」
「ええ、10分かそこらで終わるとおもう」
「OK。あや、ちょっといってくるから巫女か魔術師の神殿でまってなさい、場所はわかるでしょ?」
さっき教えてもらったばかりだ
神殿内には様々な術書がおかれていたり、細かく教えてくれる神父さん的な人もいるから時間をつぶすにはもってこいだ
神殿にいればヘンな人に絡まれることもないだろうしね!
そうおもい、首を縦にふる
「いい?わたしが迎えにいくまで神殿から出ちゃダメよ?わたしがケガしたとかいわれても動かないこと!いい!?」
………俺をいくつだとおもってるんだろうか
憮然と口を尖らせて不満を顔にだせば
「あんたなんか見た目小学生くらいなんだから、いくら気をつけたって足りないのよ!」
まるでナゾを解き明かした名探偵バリに
ビシイッ!と俺に指を突きつけられながらふんぞり返ってる
ひどい!ひどいこといわれた!そこまでは幼くない!奈々さんが色々と立派すぎるだけだ!
たしかにちょっと身長は足りないかもだしあちこちと出てないところが多いかもしれないけど、小学生はいいすぎだと思う!
あまりの悔しさに目じりにジワジワとこみ上げてくるものが………
感情が高ぶったりすると涙目になるのは体質です
決して泣いてるわけではありません
あきらかに奈々さんが悪いし、俺に謝るべきとこなのに
なんでか俺のほっぺを両手で摘んでひっぱられてる、超いたい!
なんでそんな無表情でひっぱるの!ほんとにいたいし、ちょ、やめて!
怒りのセイでちょっとは痛みに耐えはしたけども、どうせ俺が謝らないとやめてくれないのがわかりきってるので、しょうがなく俺が折れる
「ごめ……なしゃ…いたひ……」
ほっぺを引っ張る両手に必死でタップしながら伸びきった口でなんとか謝る
すると、やっと引っ張られ地獄から解放される
両手でおそらくは真っ赤になってるであろう両のほっぺをさすりながらグシグシと目をこする
痛かった、俺悪くないのにひどすぎる、うう
「………そろそろいきたいんだけど、いいかしら?」
苦笑いといった感じのおねえさんが、俺たちをみながら行動を促す
「あんたのセイで笑われちゃったじゃない、まったく」
だから俺悪いの!?どこがどうしてなんで??
どう考えても悪いの奈々さんじゃん、横暴!鬼!
なーんて、思いつつも頭のいい俺は顔にはださずに
ついっと横を向いてやり過ごす、君子は近寄らないのだ
びしっ「いたい!」
「いい子にまってなさいよー」
そういいながら、俺にチョップを繰り出した左手をヒラヒラさせながら奈々さんがおねえさんに連れられて人ごみに消えていく
せっかく乾いた目じりにまた涙がたまるのを感じつつ、こんな大勢の人が行きかう場所に取り残されてしまっては心細いだけだ
仕方なしに神殿へとトボトボと歩を進める
5分ほど歩いた場所に、目的の神殿はあった
とりあえず巫女の神殿にはいり、手持ち無沙汰な俺はベンチに腰をかけながらお迎えがくるのをまっていた
10分くらいとおもっていたけど、30分近く経っても戻ってこない
最初はあちこちみて回ったりもしていたけどすぐに飽きてしまって
気づけば俺はベンチで横になり、寝入ってしまっていた
この後、最高の出会いがまっているなんて、このときの俺はおもいもよらなかった




