9話
9話
(くるしい………からだがうごかな……い…)
この世界にきて3ヶ月が経つ中、多くの冒険者たちはほぼ全員が町の外でテント暮らしを続けている
一部の収入を多く得られているものは時折、宿泊施設を利用したりしているみたいだけど
俺たちは幸運にも部屋での生活を得ることができたのはいいけど、薬屋の2階に間借りするようになってからほぼ毎日息苦しさによって目覚めることが当たり前になってしまった
日本にいたころには幽霊なんてみたことないし霊感も当然まったくなかった
ホラー映画をみては寝れなくなったり暗闇がこわくなったりはしたけども……
心霊体験なんて生まれてこのかた縁がなかったのに、この部屋にきた途端に金縛りのような状態で目覚めることが日常と化してしまった
寝起きは悪くなるし汗かくし、なによりも疲れることこの上ないからカンベンしてもらいたいんだよね
今日も今日とて最悪の目覚めはやってきたわけで……
「あう…く…くるしいい…」
なにを見ていたか覚えてはいないけどあまりいい夢を見てなかったことだけは覚えつつ、息苦しさと自分の独り言で目が覚める
まだ眠気を欲する身体と現実にもどることをかたくなに拒否しようとする目には構わず、窓を見やろうと重いまぶたと明けると朝日が昇りはじめていることに気づく
うっすらと汗ばんでいる額の汗を拭おうと右手を上に挙げようとするけど動かない
あきらめて左手をと動かそうとするもこちらもダメなようだ
こうなってしまってはどうにもできないので、ため息をつきつつ身体が自由になるのを待つ
10分ほど経ったころだろうか、ようやく金縛りが解けようとしている
「う…うーん」
隣で奈々さんが身じろぎながら声を漏らす
超絶美人なこの人は眠ってても美人さんだ
しかもないすばでーなのだ
それはもう自分が女の子になってしまってイマイチ女性に興味がわかなくなってしまっている俺が見ても、惚れ惚れするないすばでーなのだ
もっかいいう、ないすばでーだ!
「奈々さんー?おきたー?」
小さな声でそっと目覚めを促す
かしましくしている訳ではないのです、この人は寝起きが悪いのだ、しかも途轍もなく……
以前テキトーに叩き起こしたら怒ってモノ投げつけてきて捕まって布団に縛り付けられて据わった目で睨まれて首筋噛まれて身体中もみくちゃにされた、ひどい
そんな反省をいかしつつ、優しく起こすことにしているわけなのです
「奈々さんー?そろそろおきませんかー?」
「む…むう……」
「お腹すかない~?朝市でるころだからみにいこうよー」
「あ…あさ……?」
「そうだよーそと明るいよー」
「お腹すいた…」
「うんうん、採れたてのフルーツ買ってさ、残ってるパンでどうかなー?」
「……ジャムぬったトーストがいい、……あとハムエッグ」
「それはむりだよう、ていうかボクも食べたいよー」
「じゃあやだ、おやすみ」
「奈々さんーーー」
こんなやり取りを続けてなだめすかして優しく背中を押しながら1時間近くかけて毎朝起こす俺の苦労たるや、狩りの際のへっぽこ具合を帳消しにするのではないだろうか
いまもやっと頭が動き始めた奈々さんが服を着始めてる
え?金縛り?
寝起きと同じくらいに寝相の悪い奈々さんが、抱き枕代わりにしがみついてくるから動けなくなるだけだよ!
両手両足でがっちりとしがみついてくるから逃げることもできないんだよね
一緒のベッドで寝た次の日はホントにあせった
(こ…これがウワサに聞いた金縛り!ホントに身体が動かない…!)
なんて思って、ものすっごい慌てて横向いたらスヤスヤとすこやかな寝息を立てる奈々さんにしがみつかれていたというわけ
いい加減慣れたけどなんとかならないモノだろうか、俺が男のままだったら喜ぶとこなんだろうけど、いまはただ暑くて寝苦しいだけなんだよね
日本にいたころはどうしてたのか聞いてみたら『イモ虫のでっかい抱き枕があってそれを足に挟んで抱きついて寝てた』だそうです、イモ虫って、もうちょっと女の子らしいものがあるんじゃって思うけどどうなんだろう?
ちなみに『アレよりあんたの方が抱き心地いいわよ、こう、フィット感が違うわ!』っていってた、なにそれ喜ぶとこなの?
いわれたときものすごく微妙な顔で笑っていたとおもう、ていうかイモ虫に勝ってもうれしくない
身だしなみを整えてすっかりいつもの凛々しい戦士になった奈々さんと、白のローブを頭からかぶった俺は朝市に向かうべく部屋を後にする
薬屋のある通りを右に進み、中央通りを左に進むと露店街のある広場へがみえてくる
アヴィニヨンは広場を上にして放射状に区画が整理されている
おそらく上空からみたら台形に近い形をしているんじゃないかな
各区画によって居住区とか騎士の詰所とか色々わかれてるってどこかで聞いた気がする
そんな中央通りにはもうけっこうな人が歩いている、みんな目的は朝市だ
通常の商店は薬屋がそうであるように店を構えて商品の販売をおこなうが、これには店舗所有の許可が必要だったり所有財産の基準が設けられていたりするらしい
そういったことも通行証に全て記載されているらしく、薬屋のおじさんの通行証には≪Cランク店舗運営許可≫だの≪アヴィニヨンホーム所持≫とか書かれていた
以前に身分証の話になったときに見せてくれたことがあったのだ
おじさんがいうには自分の家や店舗を持つことは決して安易なものではないらしい
薬屋を営んでいた両親から譲り受けていなければ、自分も露店商をしていたとはなしてくれた
広場には数多くの店が立ち並び、ときには店舗では手に入らないモノも出回ることがあるそうだ
なにより他の店より客の目を引くために多種多様な客引き合戦が繰り広げられるのも露店の醍醐味だ
奇抜な店構えをしてみたり、キレイなおねえさんが店頭にたってみたり、大声で気を引こうとするものもいる
そんな露店をみながら俺たちは脚をいつもの場所へと向ける
その途中には客引きに声をかけられたり、一部バカな冒険者が奈々さんに声をかけて睨まれたりしてるけど
「「おばあちゃん、おはようー」」
2人で声を揃えてある露店で足を止め、店を1人で切り盛りする年は60前後らしき女性に声をかける
「ああ、おはよう。今日もいい天気でなによりだねえ」
にっこりと笑いながら出店準備をしていた手をとめ、俺たちをみて挨拶を返してくれる
いつもここでフルーツを買っているので、もはや顔馴染みではなく常連さんである!
俺と奈々さんはお互い人見知りで男がニガテなものだから、露店の店で買い物ができずにいたのだが、おばあちゃんの露店をみつけてはじめて落ち着いて品物をみることができたのだ
ここの露店では3~4種類のフルーツを10こずつ仕入れて売っているので、それぞれを1こずつ買うのがお約束なのですよ
朝と夜に2人で食べるのが甘味のないこの世界での1番の楽しみだったりするんだよね
「今日もおいしそうだね、1つずつちょうだいー」
「いつもありがとうね、黄銅3枚と石2枚だよ」
今日は4種類を1つづつの4こ、思わず2人して顔がほころぶ
さすが朝もぎたての新鮮なフルーツだ、受け取って間近で香る芳香さが鼻をくすぐる
このほっとするやり取りやおいしいフルーツに惹かれて毎朝通っているのですよ
ちなみにこの世界のお金は日本とはまったくちがっていた、当たり前だけどね
硬貨の種類は金>銀>白銅>青銅>黄銅>石の順番で当然金貨が1番高価だ。ちなみにお札はないです、この世界での紙は貴重品なのです
奈々さんがいうには『たぶん、銀1が20~30万ってとこね』っていってたので、俺たちの間では≪銀1枚=日本円の20万≫としてる
上の硬貨は下の硬貨の10枚分の価値があるので、さっきのフルーツは日本円に直すと≪640円≫となるわけ
日課の買い物を済ませてから部屋へと戻ってから朝食をすませた俺たちは今日の予定をたてる
「奈々さんは今日はどうするの?」
「昨日と同じかな、転職とか他の都市とかの情報をあつめてみるわ、あんたはまた手伝い?」
「うん、まだちょっと身体が重いし……ごめんね」
「謝ることじゃないでしょ、狩り以外のことをするいい機会よ」
「ありがとう、奈々さん」
ここ数日、俺たちは狩りにはいかずに町の中で情報収集やお世話になっている薬屋の手伝いをしている
奈々さんは部屋の外に出て冒険者となっているほかの女性たちとの情報交換や、この世界の人たちから色んな話を聞いて回っている、当然女性に話しかけているらしい
『男なんて声かけただけでカン違いしてニヤニヤしてくんのよ、声聞くだけでむかつくわ!!』
男の人にはなし聞かないの?って聞いたらものすごい剣幕で怒られた
俺もいちおう、男だったんだけどな……
そうそう、奈々さんには日本にいたときは男だったことはすでにはなしてある
一緒に行動するって決まったときに2人で交わした約束の中に≪うそはつかない≫っていうのがあったんだ
正直に話して嫌われたらどうしようっていう怖さはあったけど、俺なんかと一緒に2人で行動しようっていってくれた人にうそなんかつきたくなかった
どうやって話そうかすごく悩んだし、話すときは手は震えるしタイヘンだったけど
でも、奈々さんは驚いてたけど受け入れてくれた、というか元男っていうこと事態を信じてもらうのが1番苦労した
『はあ?男らしさのかけらもないじゃない』
とか言われたときはさすがにちょっと涙がでそうになったけどね
でも、いまは話して良かったとおもってる
数日前におにゃのこの日になったときは、錯乱して泣き喚く俺のめんどうをみてくれた
落ち着くまで優しく抱きしめながら、ずっと頭を撫でててくれた
必要なモノは奈々さんが用意してあったので今後は一緒に使わせてもらうことになる
これから毎月アレがくるかとおもうと、ものすごく気が重いんだけど……
そんなこんなで、とても狩りにいける状態じゃなかった俺のセイでこの数日はアヴィニヨンの中で活動をしているわけです
初日と2日目は寝込んでいたけど数日で動けるようになった俺は、おじさんとおばさんに頼んで店番をしたり薬草の煮出しとか容器の洗浄とかをして過ごしていた
ジッとしているのも良くないとおじさんについて配送にいったり、おばさんについて買い物にいったりしたおかげで気分転換もできた
いく先々で紹介されたのはちょっとはずかしかった
おじさんもおばさんもものすごい楽しそうにニコニコしてたな
さすが商売人だ、あんなにも笑顔でいられるなんてすごいや
でも、笑顔の2人をみて色んな人が驚いてたけどなにかあったのかな?特におじさんをみて驚く人が多かった気がする!




