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プロローグ


俺には、誰にも言っていない秘密がある。

 学校では目立たない普通の男子生徒。

 休み時間は一人で本を読んで、授業中も静か。なんなら存在感すら薄い。

 クラスの中心とは程遠い人間。

 ――それが、表向きの俺だ。

 だが夜になると、俺は別の名前になる。


『黒瀬ユウ』


 登録者数百万人。

 アニメ化寸前と噂される、匿名ラノベ作家。

 ネットでは、俺の一言でトレンドが動く。

 なのに現実の学校じゃ、誰も俺の名前すらちゃんと覚えていない。

「……ギャップ激しすぎだろ」

 昼休み。

 俺は机に突っ伏しながら、小さく呟いた。

 昨夜は最新話更新の日だった。

 コメント欄は大荒れ。

『今回ヤバすぎる』

『伏線えぐい』

『寝れなくなった』

 通知は数万件。

 なのに今の俺は、

購買の焼きそばパン争奪戦からも弾き出されている。

 世の中、理不尽だ。

「加賀くんってさ」

 不意に声が落ちてくる。

 顔を上げると、

クラスでも有名な美少女――白雪紗奈がこちらを見ていた。

「……なに」

「ラノベ読む?」

 一瞬、心臓が止まる。

「いや、別に」

「ふーん」

 白雪は意味深に笑った。

 その笑い方に、嫌な予感が走る。

「じゃあさ。“黒瀬ユウ”って知ってる?」

 やっとの思いで手に入れた焼きそばパンを落としかけた。

 終わった。

 人生が。

「知らないけど」

「へえ」

 白雪は俺の机へ一冊のノートを置く。

 そこには見覚えのある文章が書かれていた。

 ――昨夜、俺が執筆途中で消したはずの没原稿。

「なんで、これを……」

「やっと見つけた」

 白雪紗奈は、静かに笑った。

「私、ずっと“黒瀬ユウ”のファンだったんだ」

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