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運命のコスパ論~絶世の美女を検品したら、アニメ神作画(10.0)に届かなかったので却下します~

作者: cross-kei

【短編一話完結】約4000文字

「見どころがある! 合格じゃ! 君に『究極のモテ期』をプレゼントしよう」


 いつもの朝。いつもの満員電車。


 人間をただの貨物として積載率200%で運搬する、頭の悪い大人たちが維持する地獄。


 時間対効果タイムパフォーマンス最悪の通勤ラッシュで、僕は運命の神様と出会った。


 きっかけは、極めて合理的な判断だ。


 目の前の老人に席を譲ったのは、善意などではない。彼が転倒して電車が遅延するリスク(損失)と、周囲に対して「親切な学生」というセルフブランディングを行うメリット(利益)を比較し、後者のROI(投資対効果)が上回ると判断したに過ぎない。


 だが、老人は僕の手を力強く掴んだ。


「反応が薄いぞ! ワシは運命を司る神じゃ! GOD!」


「(GOD……やはり新手のマルチか)」


「違うわい! 選べ、究極の二択じゃ。A:普通の女性10人に同時にモテまくるハーレムプラン。B:普通の女性の『10倍の価値』のある女性一人にモテまくる一点豪華プラン。さあ、じっくり悩むが良い!」


 僕は0.02秒で即答した。


「プランBでお願いします」


「なんじゃと!? 即決か! 男ならハーレムじゃろ!?」


「それってあなたの感想ですよね? プランAはリソース管理の観点から非効率の極みです。身体は一つしかないのに10人と交際するなど、時間的・精神的固定費、及び交際費(変動費)が10倍では済みません。完全に債務超過(破綻)確定のプロジェクトです。その点、プランBはリソースを集中投資できる。合理的です」


「……妙に現実的な高校生じゃな。よし、契約成立じゃ! 君の運命、アップデートしておいたぞ!」


 老人の姿が消え、目の前の席が空いた。


 (損益分岐点への到達が早すぎる。ラッキー)


 僕は再び席に座り直し、スマホで近所のスーパーの電子チラシ(特売情報)チェックに戻った。この奇妙な取引のことなど、揮発性メモリのように即座に忘れて。


 ***


 【検品1:美】


 放課後。帰宅ルートの最適化(時短)のため路地裏に入ると、予期せぬインシデントが発生した。絶世の美女が、チンピラ二人に絡まれている。


「警察ですか? 女性が絡まれてます! ……えっ、GPS情報から現在地を特定!? すぐ来てくださる!?」


 僕のフェイク通報(実際は時報にかけている)により、不良たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。通話料10円のみの最小コストでのリスク排除完了だ。


「大丈夫でしたか?」


「まあ、なんて落ち着いたお声……。わたくし、花京院麗華かきょういん れいかと申します。あなた様のお名前は……?」


 頬を染めて見つめてくる彼女は、息をのむほどの美女だった。


 その瞬間、例の契約が脳裏をよぎる。こいつが『10倍の価値』か?


 僕は彼女の顔を、スーパーの鮮度チェックのような目で検品スキャンした。


 (神の言う『10倍の価値』の基準は曖昧だ。ならば、こちらの社内規定(KPI)を適用する。僕の絶対的な美の基準、TVアニメ『魔法少女ピュア☆エルフィン』第12話・伝説の田辺作画監督回におけるエルフィンの作画崩壊級の美しさを『10.0』と定義する)


 (……査定開始。確かに美人だ。だが、黄金比率および肌のテクスチャ解像度をあの神作画エルフィン(10.0)と比較して……数値は8.2! 惜しい! 基準値未達!)


「あの、わたくしの顔に何かついてまして?」


「あ、いえ。すみません、卵のタイムセール(お一人様1パック限り)まで残り18分なので。失礼します!」


「えっ、あ……そんな……」


 僕は全速力でその場を去った。


 電信柱の陰で、運命の神が頭を抱えていた。


 (バカな! そこで恋に落ちるのが黄金パターンじゃろ! なんで基準がアニメキャラなんじゃ! しかも田辺作監回て! 審査基準レギュレーションが厳しすぎるわ!)


 ***


 【検品2:速】


 翌日。


「(遅刻ですわーっ!)」


 裏路地をピンクの髪の美女が、稲妻のような速度で疾走してきて――ズバーンッ!


 完全弾性衝突に近い衝撃。僕は50メートルほど吹き飛ばされた。


「ごめんなさい! お怪我は!?」


「異世界転生するかと思いましたが、トラックではなかったので軽傷です」


「あら? 昨日助けていただいた方! これはもう、運命ですわ!」


 必死に僕の袖を掴む花京院麗華。


 (二日連続のエンカウント。まさか、さっきの突進速度……『10倍の価値』とは『機動力』のことか?)


 僕は脳内シミュレーターを起動した。


 (通常の量産型モビルスーツの推力を1、赤いあの人を3倍とする。彼女の価値が10倍ならば、ジェネレーター出力換算で赤い彗星の3倍以上のスペックが出ていなければならない)


 (衝突時の運動エネルギーと制動距離から逆算……結果、2.5倍。スラスター推力が足りていない! これでは戦術的な優位性が確保できない!)


「あの、また無言で……?」


「すみません、昨今の円安と輸入関税による物価上昇率について考えていたら、急に腹痛が。僕にはまだ帰れる所があるので!」


「えっ、お腹!? だ、大丈夫ですの!?」


 僕は腹を押さえるフリをして戦線離脱した。


 ビルの屋上で、神が手すりを殴りつけていた。


 (なんで基準がMSなんじゃ! 赤い奴より速い人間がおるわけなかろうが! こいつの査定眼は節穴か!)


 ***


 【検品3:力】


 翌日、街は怪獣(全長80m)の出現により阿鼻叫喚に包まれた。


 瓦礫の下敷きになりそうな僕の前に、颯爽と彼女が現れた。


「『10倍』パぁぁぁンチ!」


 彼女の拳が唸りを上げ、怪獣は光の粒子となって消滅した。


「おおっ! 花京院さん、奇遇ですね」


「3回目ですよ? これはもう間違いなく、100%運命ですわ!」


 命を救われた恩義はある。僕は彼女の戦闘力スペックを精密にスキャンした。


 (『10倍の価値』とは『火力』のことか。一撃で全ての敵を倒すハゲマントのヒーローを『10.0』とする。彼女の一撃は……インパクト時のベクトル分散を考慮すると9.2倍! 惜しい! 髪の毛がある分、空力抵抗係数(Cd値)で減点だ!)


「あの、また穴が開くほど見つめて……」


「あー、えっと……。近所の激安スーパーが怪獣に潰されたので、エンゲル係数の再計算リプランニングをしないといけなくて。では」


「またですの!?」


 瓦礫の上で、神がジタバタしていた。


 (ハゲとるかどうかは価値に関係ないじゃろがい! サービス点くらいつけろや!)


 ***


 【最終検品:コスト】


 その夜。ニュース速報が流れた。


『直径10kmの超巨大隕石があと10分で東京に直撃します!』


 窓の外には、絶望的な顔で空を見上げる彼女がいた。


 その頬を、きらりと光る涙が伝う。その瞬間、僕の脳内で最後の計算が完了した。


 (……待て。あの憂いを帯びた表情。終末アポカリプスにおける希少性。涙のプリズム効果による補正値。すべての変数を加算すると……10.0倍だ! ぴったり! 美しさがエルフィン(作画最高時)と並んだ! やはり『10倍の価値』とは美しさだったのだ!)


 僕は部屋を飛び出し、彼女の前に駆け寄った。


「あなた様! 隕石が迫る中、わたくのために……! やはり運命ですわ!」


「ええ、運命ですね。あなたは、確かに10倍美しい」


「まあ! では、わたくしたちは、この世界の最期に結ばれるのですね!」


 うっとりと目を閉じる彼女。


 だが、僕の脳内CPUは冷酷な警告音アラートを鳴らした。


 (……待て。彼女は『10倍の価値』がある美女だ。ということは、減価償却費および維持費ランニングコストも10倍かかるということでは?)


「え~っと大変申し訳ございません」


「え?」


「普通の女性の10倍美しい(エルフィン級の)あなたと交際する場合、デート代やプレゼント代も普通の10倍かかるという試算が出ました。僕の小遣い(月5,000円)では債務超過で破綻します。本当にすみません。お元気で」


 僕が背を向けた刹那――。


「ちょっと待てぇぇぇぇいっ!」


 バキィッ!


 背中に強烈な『10倍』の威力の飛び蹴り。僕の身体は綺麗な放物線を描き、アスファルトに突き刺さった。


「ああっ、ごめんなさいまし! 溜まりに溜まったストレスが!」


 地面から僕を引き抜きながら、彼女は涙目で叫んだ。


「破綻を理由に振られるのは納得できませんっ! だって……わたくし、公園デートや図書館へのお散歩……お金のかからないデートの方が好きなタイプですわっ! それに……」


 彼女は頬を赤らめて、衝撃の事実を告白した。


「わたくし、戦闘以外は何もできなくて……。家事全般、まったくダメなんですの……! ですから、あなた様のスーパーの特売日を把握する生活力や『コスパ術』は、わたくしには何より価値のあるものですのよ!」


 僕の脳内に稲妻が落ちた。


 (低コストなデートを志向。家事能力ゼロによるアウトソーシング需要。つまり、僕の『節約術』と彼女のニーズが完全に一致マッチングしている……!?)


「それに、わたくしには隠している趣味があります。あなた様はご存じないでしょうけど、『魔法少女ピュア☆エルフィン』のコスプレをするのが大好きなんですわっ!」


 全ての伏線が一本に繋がった。


 僕は彼女の手をがっしりと握りしめ、真剣な眼差しで答えた。


「なるほど! 稟議が承認されました。2.5次元の嫁になってくださいっ!」


「えっ……!? あ、ありがとうございます……?」


 空から見ていた運命の神が叫んだ。


 (けっきょくエルフィンかーーーーーーい!)


 麗華は隕石のことなど忘れたように頬を染め、僕の手を握り返した。


「まずは、恋人からですわよ」


 二人の間に流れる空気は、もはや誰も介入できない領域に達していた。


 それを見ていた神は、深くため息をついた。


 (こやつらの相手をするのは、精神的コストが見合わん。これ以上の介入は赤字じゃ。撤退する!)


 神は指をパチンと鳴らした。


 いわゆる「損切り(ロスカット)」である。


 数瞬後、隕石は『最初から無かったこと』として消滅した。僕たちの交際費(予算)が消滅する前に、神がプロジェクトを破棄したのだ。


 こうして僕は、最高のコスパで最強の彼女を手に入れたのだった。


 (完)

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