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言葉と理

「……なんだ、これ……俺が……?」


 声が震えた。

 理解が追いつかない。


 “来るなぁ”と叫んだら止まり、

 “死ねよ”と言ったら、本当に死んだ。


 「……そんな馬鹿な」


 けれど、どう考えても――そうとしか思えなかった。


 (まさか……俺の“声”が……?)


 ゆういちは恐る恐る周囲を見回した。

 森は静かだ。風も穏やかに戻っている。

 何も起こらない。


 「……試してみるか」


 近くの木に向かって、息を吸い込む。


 「……切れろ」


 沈黙。


 木はびくともしない。


 「……やっぱり、俺の力なわけないか」


 小さく笑い、ため息をついた。

 ほんの少しだけ期待していた自分が、なんだか情けなくて、

 苦い笑みがこぼれる。


 気が抜けた拍子に、腹の痛みが蘇った。

 あの化け物にぶつけられた箇所だ。


 「……いってぇ……」


 服をめくると、まだ青黒いアザが残っていた。

 手で触れると鈍い痛みが走る。


 「……能力があるなら、回復系が良かったんだけどな……」


 苦笑混じりに愚痴をこぼす。

 冗談のつもりで、何気なく言葉を続けた。


 「……こんな傷、すぐに治るのにな……治れ」


 ――瞬間、光。


 腹部が淡く輝いた。

 驚いて目を見開く。


 皮膚の下で何かが蠢くような感覚。

 青アザがみるみるうちに薄くなっていく。

 光が収まったころには、痣は跡形もなく消えていた。


 「……は?」


 ゆういちは言葉を失った。


 風が頬を撫でる。

 さっきまでの痛みも、まるで嘘のように消えている。


 「……冗談、じゃねぇよな……」


 その声は、驚きと戸惑いの入り混じった、

 静かな低音だった。


あれから、どれくらい時間が経ったのかは分からない。

 太陽の昇る角度や夜の寒さからして、少なくとも三日は経っているはずだ。


 俺は森の中で、できる範囲の生活を始めていた。

 最初に倒れたあの化け物は、放っておくわけにもいかず、仕方なく解体した。

 意外なことに、その肉は人間が食べられないものではなかった。

 少し臭みはあるが、火を通せばそこそこ旨い。


 焚き火の作り方も、どういうわけか覚えていた。

 体は勝手に動くのに、頭の中には「自分がどこでこれを覚えたのか」が一切ない。

 記憶は抜け落ちているのに、技術だけが残っている。

 不思議なもんだと思いながらも、それに助けられて生き延びている。


 問題は――あの“言霊”の力だ。


 俺はそれを自分なりに調べ始めた。

 この数日、いくつかの実験を繰り返している。


 まず分かったのは、「言葉」さえ発せば何でも起こるわけではない、ということだ。

 何度も木に向かって「倒れろ」と言ってみたが、びくともしない。

 水に「止まれ」と言えば、一瞬だけ動きが鈍くなることもあるが、すぐに流れ出す。

 炎に「燃えろ」と言うと、わずかに勢いを増すこともあった。


 どうやら“感情”や“意識の強さ”が関係しているようだ。

 軽い気持ちで言っても何も起こらないが、

 本気でそうあれと願えば、現象がわずかに変化する。

 その仕組みまでは分からない。

 ただ、言葉に“重さ”を持たせるほど、力が強く反応する――そんな印象だ。


 また、命令の対象にも限界があるらしい。

 生き物相手のほうが反応が大きく、無機物はほとんど変化しない。

 おそらく“意志”を持つ存在ほど、何かに干渉できるのだろう。


 とはいえ、すべてが上手くいくわけじゃない。

 「飛べ」と言っても飛べないし、「金を出せ」と言っても何も出てこない。

 便利な力ではあるが、使いこなすにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 探索も少しずつ進めている。

 森の外れまで歩いてみたが、見えるのはどこまでも木々ばかりで、人の気配はない。

 川を見つけたおかげで水には困らなくなったが、

 文明らしきものは一切見当たらない。


 夜になると、焚き火の光だけが頼りだ。

 風の音が少しでも強くなると、妙に胸がざわつく。

 今のところ、他の化け物は姿を見せていないが、安心はできない。


 それでも、生きるしかない。

 声ひとつで何かを変えられるなら、この力をどう使うかは俺次第だ。


 焚き火の炎を見つめながら、ふっと口角が上がった。


 「……はぁ、面倒くせぇ世界だな」

 少し間を置いて、笑う。

 「けどまぁ――悪くねぇ。少なくとも、退屈はしなさそうだ」


 夜風が、火の粉をさらっていった。



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