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旅する吸血鬼は縁を喰らう

作者: 豆腐
掲載日:2025/10/09

短編の続編です。

 夢から覚めたアルバート、時間は正子。

アルバート「相変わらず嫌な夢だ...」

 美しい夜空が視界に映る。

 夜空は星が輝き、月が世界を照らす。

アルバート「最悪で最高の目覚めだな…」

 火は消えている、血液の温度を上昇させ体を温め、立ち上がる。

 歩きながら星空を見上げ、草原を歩く。

 美しい景色に魅入られてこの世界に生まれて良かったと感じると同時に、今この世界に生きている事が不思議に思える。

 魅力的な空だった。

アルバート「素晴らしいな、この世界の景色は...」

 500年前、吸血鬼の王に君臨し残虐の限りを尽くした時から現在までの記憶を辿る。

 勇者との戦いから歳月が経ち世界が変わりつつある。


 アルバートの住んでいた血骸の王国は解体され別の都市が建設されていた、反吸血鬼の宗教が根付いていたのでアルバートは馴染んだ古巣を見学することができなかった、結構複雑な気分らしい。

 星空を見ていると全て忘れてしまえる、過去も今も因果も、世界の片隅に存在する自分が、確かにここにいることを感じながら。

 感傷に浸るアルバート、ただ一人、邪魔は入らなかった。

 

「まぁ、とりあえず。」

「勇者に感謝しなければ...」

「勇者と戦った記憶が懐かしいな…心地よく感じてしまう。あいつも嫌なやつだったな、強過ぎて…」

 そんな独り言は、誰もいない平原の星空に昇り消えていく、はずだった。


 アルバートは気付けなかった、仄かに漂う吸血鬼の気配。

 それは吸血鬼としては小さく半端な気配だった、人の様で吸血鬼の様な。半分魔族の人間の気配だった。

 夜の闇に紛れた人影が唐突に声を掛けてきた。

「ヤァ、お兄さん。初めまして...かな?僕はアルバートクレシャクルーエル。」

 アルバートは振り返る。

「お前は…!?」

 少年は笑いながら言う。

「感動の再開だね、お兄さん。」

 <指名手配されていた人間そして、吸血鬼の気配。

 勇者があの時…言っていた言葉は…>

 冷酷な吸血鬼だったころ、人魔吸血鬼大戦の夢。

 鮮明に思い浮かぶ勇者の言葉。

(「お前ら2人は今後、巡り合うだろうが...仕事を増やしやがってよぉ...」)

 <勇者が言っていた...私から分裂した人間か!>

「君の身包み、剥がさせてもらうよ!」

 少年はナイフを取り出し襲いかかってくる、心臓を狙った正確な一撃、躱しきれず擦り傷を負う。

「お前は吸血鬼か…?」

 少年は目を見開き、答える。

「何を言ってんの?人間だよ、僕は。というか、反撃しないと殺されちゃうよ、お兄さん。」

 喉元を狙った力のこもった突き、アルバートは少年の腕を掴む、ナイフは止まる。

 少年が発言する前にアルバートは言う。

「お前が罪を重ね続けるなら、お前を喰らうぞ。」

 少年は恐怖する、怯えた表情は瞬きする間に笑顔となる。

 腕の力が抜けてナイフが落ち、地面に突き刺さる。

「...食べるの?君は僕と一心同体、兄妹みたいなものなのに。殺しちゃうの?」

 アルバートは凶器を持っていた狂気的な少年に会話を試みたが無駄だった。

「お前は吸血鬼、気配で分かる。独特の匂いとその獰猛な性格、話が出来ない、感情がないとも思える冷酷さ。全てが吸血鬼ないしは魔族の特徴だ。」

 少年は無表情で言う。

 「そう、それはお兄さんもそうでしょ。多少人間っぽいだけで、街で見かけたよ。魔族の分際で人間と仲良くしてたね、羨ましい。」

「......私は吸血鬼だ、だが感情はあるし人間に紛れる事が出来る。それだけの倫理観も社会性もある、最低限だが。お前から奪ったものだ。」

 少年は少し沈黙し笑いながら言う。

「そうだね、僕は人間だから。人間性が無い人間だよ、精神的な部分と肉体的な部分を四つに分けて切断しちゃうなんて、笑っちゃうよね、勇者(あのクソ野郎)は。」

 アルバートは特に反応せず、少年の腕を離す。

 「人間に...あるいは、人間性が欲しいか?」

 少年はナイフを拾い上げ、ナイフに付着したアルバートの血を舐める。

「人間を辞めれるってことかなぁ...?だったら、考えないこともないよ?」

「わかった...」

 アルバートは少年の首に噛み付く。

 元は同じ吸血鬼だった二人、たった100年の時を経て、吸血鬼にとって少ない時間で再び縁に結ばれて、喰らいつかれた縁は血によって互いに巡り、永久の縁となり結びつく。

 吸血鬼には四つの牙がある。

 血を吸い己の生命力とする吸血牙。

 血を与え、眷属あるいは親族に近い存在にする給血牙。

 その両方を使い、血を与えつつ人間の血を取り除き吸血鬼に近づけていく。

 少年には牙が生え、成ったばかりで隠せない羽が生える。

 身長は伸び、見た目がアルバートへと少し近づく。

 薄い金色の髪、赤色の瞳孔、そして相手を魅了することが出来る眼光、血を操る力。

 全て吸血鬼固有の物だ。

「これくらいでいいな。与えすぎると吸血鬼より高位の存在になる可能性があるからな...」

 少年は笑みを浮かべ、得意げに話す。

「別に僕はそっちでも良かったんだけどなぁ。」

 アルバートは元吸血鬼の王として、その成れの果てとして警告する。

「はぁ...力を得たからといって、使い方を誤るなよ...」

 吸血鬼と成った少年は多少は聞き入れる。

「ご忠告どうも。人間社会の犯罪は網羅したし、次は魔族の犯罪を網羅するかな。」

「...」

 数十秒の沈黙が流れた。

「あぁ、それはそうだな...」

 アルバートは思いつく。

「ああ、そうだ。お前に名をやろう。さっき私の名を名乗っていたな?私の名を使うな、犯罪者になりたくないからな。」

「そう?...どんな名前?」

「アストリッド・メモリア・クルーエル...にしよう。」

「吸血鬼っぽい...でもあんたの名前が入ってるな。」

「一応、眷属だからな。」

 アルバートは微笑んだ。

「残酷な記憶は星空の彼方へ、名前の由来だ。」

「へぇ...名は体を表さないね。」

「そうだな...」

「え?そうだったの?」

 その日、少年と吸血鬼は血を通わせた。

 アルバートの血が入った吸血鬼は元がどんな人間であれ、アルバートの性格にある程度は近づく。

 血の通わせた家族は少なからず似るものなのだ。

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