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金魚のコバヤシマル

作者: スケキヨ

注:生き物が死ぬ描写があります。苦手な方はバックでお願いします。

 わたしの父親の趣味は金魚と熱帯魚だ。


 父の城である書斎には合計4つもの水槽があり、いつも何かしらの水棲生物がひしめいていた。

 手の平ぐらいのカメが居た事もあるが、すぐ死んだ。というかぶっちゃけ父のアクア好きは下手の横好きなので、金魚も熱帯魚も、よくわからん魚っぽい生き物たちは、みんな1年か2年で死ぬ。

 子どもの頃からそんな調子だったので、わたしは魚と言うのは短命だと長い事信じていた。ある日友達の家の、フグみたいにデカい出目金が10歳だと聞いたときは、それこそ出目金みたいに目をひんむいて驚いたものだ。しかもペットショップで買ったのではなく、夏祭りの金魚すくいでゲットした子らしい。


 大体の生き物は、大切に、正しく育てれば、長く生きる。

 父の金魚たちが短命だったのは、つまりはそういう事だ。


 一番の原因は、恐らく、頻繁過ぎる水替えのせいだろう。父にとって琉金(りゅうきん)和金(わきん)もネオンテトラもコリドラスも、目で見て楽しい鑑賞物であって、ペットではないのだ。もしくは、父にとってペットとはそういうものだったのかもしれない。とにかく、エサの欠片やフンで水が少しでも濁ると、父はすぐにポンプで水を汲みだし、新しい水を入れていた。水質は大切だが、あまり何度も水替えをすると魚の負担になる。


 あと、カメを飼っていた時、明らかにどんどんネオンテトラが減っていったのだが、あれ、イチロー、絶対食ってた。(イチローはわたしが勝手に呼んでいたカメの名前だ。父は水槽の中の生き物に名前を付けた事がなかった)

 そういう、共棲する上での相性もおざなりで、そのせいで天に召された魚たちも多い。魚どうしが喧嘩したり、1匹が病気になったのを隔離せずに放置して全滅したりも多かった。ペットショップから帰ってきた父が、ビニール袋に入った魚を手にしているのを見るたび、暗い気持ちになった。気の毒に。うちになんか連れてこられて。


 ある日父が気まぐれで玄関に水槽をひとつ移動した。


 父は砂だの水草だの石だの入れたあと、和金を一匹入れた。

 しばらくは色々いじっていたが、暑い時期だったので、次第に冷房の効いた書斎にある水槽の方に構うようになり、和金は放置された。

 玄関は日当たりが強くて、きっとあの金魚も長く生きないだろうなと思った。ひとりぼっちの和金は、赤っぽい橙色で、水槽の蓋に飛び乗ったミケが隙間から水をペロペロ舐めてものんきにスイスイ泳いでいた。わたしはその和金をコバヤシマルと呼んだ。


 コバヤシマルは、歴代の父が飼ってきた・買ってきた金魚の中で、一番長生きだった。

 多分、ほっとかれたのが逆によかったのだろう。

 1年が過ぎてもコバヤシマルはスイスイ泳いでいた。ときどきミケが水槽に飛び乗っても、特に怯える様子もない。ミケは猫用の水盆に水を用意してあるのに、よくコバヤシマルの水槽から水を飲んでいた。母と二人で「出汁(だし)()いているのかもね」と笑い合った。


 よい事というのは長続きしないもので。


 5年ほど経ったころ、唐突に父はコバヤシマルを書斎に回収した。


 3か月後、コバヤシマルは死んだ。


 父のいない時間にこっそり入った書斎で、琉金が3匹、和金が2匹入れられた水槽に、さかさまにひっくりかえった和金が一匹プカリと浮いていた。

 コバヤシマルは特に特徴のある金魚ではなかった。わたしは魚に興味がなく、同じ種類の金魚がたくさん居ればどれがどれだか見分けられない。しかしなぜだかその時は、妙な確信があった。これはコバヤシマルで、コバヤシマルは死んだのだと分かった。


 あとでうるさく言われるだろうと思いながら、水槽の横に立てかけてあった網で水面に浮かんだ和金を掬って、庭に埋めた。

 予想通り、城を荒らされた父は烈火のごとく怒り狂ったが、わたしはなぜかいつものように怯えて縮こまることもなく、何か大声でわーわー言っている父の方をぼんやり見ていた。まるで透明な膜のむこう側をみているようで、金魚みたいに顔を真っ赤にした父親の顔も、ぼんやりぼやけて、なんだかすごくばかみたいだなぁと思った。


 父は数週間後、新しい和金を買ってきた。

 そして奇妙な事が起きた。


 朝、目が覚めた父が書斎を開けると、金魚の水槽に和金が一匹ひっくり返って浮いていた。

 父は網で死骸を掬ってトイレに流し、戻ってきて、

 その場で凍り付いた。


 水槽には、琉金が3匹、()()()3()()居たのだ。


 何度数え直しても変わらなかった。金魚が6匹、泳いでいた。


 父は何かの間違いだと自分に言い聞かせた。


 数日後、同じことが起きた。


 夕方、日が暮れ始めた頃、西日に照らされながら、和金が浮かんでいた。

 父は水槽にかじりついて何度も数えた。琉金が3匹、和金が3匹(うち1匹死亡)。

 死骸を掬う。トイレに行く。流す。

 トイレから戻ってくると、父の手から網が滑り落ちた。水が滲んでカーペットに染みた。


 きれいな赤橙色の、やや長細いフォルムの金魚が、尾びれをひらめかして、スイスイと泳いでいた。

 3匹の和金が泳いでいた。


★★★


 わたしは線香に火を点けながら、そういえば子どもの頃、一番好きなドリフのコントは『葬式』だったなぁ、とぼんやり考えていた。

 高〇ブーさんが亡くなったという設定で、ほかのメンバー達が泣きながら、棺桶に入ったブーさんに、「ほら、あんたが好きだった〇〇だよ」と言って、卵とか納豆とか、ザリガニとか、いや、棺桶に入れるものじゃないだろうという物をバンバン入れていく。それに対してブーさんが微動だにしないのがおかしくて、笑いすぎて声が出ないぐらい笑った。


 金魚でも入れてやればよかったかな。



ピカード船長が好きでした^^

読んでくださってありがとうございます。m(_ _)m

(追記:トイレに金魚を流すのはたいへん危険かつ迷惑行為ですのでご遠慮ください)

(もしかしたら『ポルターガイスト』もそのせいであんなどえらい事になっちゃったのかもなぁ)

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― 新着の感想 ―
クソリプで申し訳ないのですが、下水道はそういうものを流すようには作られていません。彼らの目に見えない所で文句の一つも言いながら適切に処理されているわけで、下水道の神の怒りにでもふれたとか?高木ブーさん…
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