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仲間

〈晩春の霧雨寒し羽織り物 涙次〉



【ⅰ】


 テオ=谷澤景六の「泥棒と實存」、またしても芥川賞落選、の報せが、木嶋さんより齎された。

 この小説を通じて、枝垂哲平との友誼を深くしたテオ、しんみりと枝垂が、「落選かあ。惜しいな」と云ふのを聞いて、「なに僕の小説は賣れるからいゝのさ。印税を『トラバサミ被害野良猫基金』に寄付出來れば、僕は滿足なんだ」。「あんた随分仲間思ひなんだな」「さうでもないさ、たゞの自己中心猫ですよ、僕は」(へりくだ)つても、テオは「稔る程(かうべ)を垂れる」何とやら、に、枝垂には見えた。



【ⅱ】


 で、もぐら國王。故買屋Xに會見してゐる。「國王、なんであんた、カンテラの金庫、狙はないんだ?」國王は愕然とした。「おいおい、俺が仲間の物に手を出すやうな男ぢやないつて、あんた知つてる筈だぞ」故買屋「とか云つて、斬られるのが怖いんだろ」國「あんた可笑しいぞ。鰐革男つて知つてるか? あんな奴に操られてるやうな口を利く」故「鰐革様に盾突く氣か? 貴様、命が惜しくないのか」


 さう、故買屋は夢で鰐革に會ひ、その誘惑に乘つてしまつたのだ。



【ⅲ】


 國王、その話をカンテラにした。處はカンテラ事務所「相談室」。

「鰐革め、今度は随分と直接的な手を使つてきたな。兎に角、故買屋氏に會へるやう、セッティングしてくれ」「分かつた」


 故買屋は、「あんたがカンテラか。侍の成りをしてゐるとは聞いてゐたが、本当にさうなんだな」と嗤ふ。傲然とした態度である。(これはまた重症だな...)「失禮」カンテラすらりと拔刀した。「お、こ、この場處で、やる氣か!?」カンテラ構はず、太刀を故買屋に突き付けた。すると... ふうつと故買屋は氣を失つた。「カンさん、だうするつもりなんだ?」「また目を醒ました頃には、すつかり元の故買屋に戻つてゐるさ」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈何もかも喪ふつもりで見てみればこの世可笑しきものではありぬ 平手みき〉



【ⅳ】


 カンテラの云ふ通りであつた。故買屋は元のXらしく、「そんなに酷かつたのか、俺は?」國「大分(むご)く脳をやられたもんだな」


 カンテラは、夢で鰐革に會ふべく、「シュー・シャイン」に命じ、鰐革を呼び出す事にした。「シュー・シャイン」にしてみれば命懸けなのであるが、カンテラと蘇生の約束を交はし(蘇生は魔導士の技である。何も魔界のみで行はれる事ではない)、鰐革呼び出しの命に従つた。



【ⅴ】


「『シュー・シャイン』、忠義の士だねえ」-「使ひ魔、だからな」。これはテオとカンテラの會話。「シュー・シャイン」はその長い髭の一本を殘して(これは無論、カンテラ外殻内での、蘇生手續きの為)、鰐革にカンテラと會ふやう、説得しに行つた。


「貴様、二重スパイだとは聞いてゐたが、實はカンテラの手先、だな?」-「さうさ。文句あるなら、ぶつくさ云つてをれ。兎に角、カンテラ様は待つてゐるぞ」

 鰐革、「シュー・シャイン」をそのぴかぴかの靴(皮肉にもなつてゐないが)で、踏み潰した。


 その夜、カンテラは「シュー・シャイン」の死を、彼の最期の通信で知り、カンテラ外殻に彼の髭を入れ、蘇生完了を待つてゐた。やがて「シュー・シャイン」らしき者の姿を外殻内に認めると、「今度は俺の番だ」-自分がカンテラに潜り込み、眠りを待つた。



【ⅵ】


「よお、カンテラ。呼び出されてやつたぞ。恩に着な」と鰐革。「何を偉さうに。故買屋はすつかり元の故買屋に戻つたぞ。話は彼奴(きやつ)から聞いた」-「さうか。おい、俺とあんたの仲ではないか。俺と手を結ばないか」今度はカンテラ本人を誘惑してきた。

「生憎、俺は『仲間』と云ふ観念を持たぬ奴とは、手を組まない。いゝ加減負けを認めて、死を受け容れたらだうだ」-「拔くか!?」‐「お前の返答次第では、な」


「分かつた分かつた。俺は假死と云ふ手段に出る。覺えてをれ。俺の甦りの時までな」-鰐革がその場凌ぎの云ひ譯をしてゐる事は、明白だつた。だが、カンテラは(まあ故買屋から貰ふ物は貰ふか)と、その云ひ譯を、許した。たゞ斬るのは簡單だが、鰐革とのパワーバランスは、かなりの微妙さ、なのである。まるで剥き出しの(やいば)の上を渡る如く。その事は他言しないやうにはしてゐたが。



【ⅶ】


 カンテラが單なる正義漢ではないと云ふ事は、折りに触れて説明してきたつもりだ。カンテラの稼業を邪魔する事は、作者にすら許される行為ではない。

 で、鰐革は、カンテラの夢から消えた...


 カネは勿論、故買屋が払つた。腹に一物持つた斬魔屋、カンテラ。決して平和主義者ではない事、お分かりになられたらうか。この話は、これにて終はるが、カンテラの稼業は恒久かと思へる期間、續くのだ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈換氣扇回せば外氣春惜しむ 涙次〉



 お仕舞ひ。です。因みに、このエピソオドのタイトルには、隠された深い意味がある事、お氣付きだらうか? ぢやまた。


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