穏やかな君へ
一息つくと安心感からか緊張が解け今まで感じていなかったのが嘘のように疲れが襲ってきた。
「とりあえず今回のことはそれで良いとして後始末には時間がかかりそうね。」
「ああ。とりあえず今回の後始末は上に任せるとして…。まだ大きな問題が残ってる。」
言いづらそうに奏が口を開いて私を真っ直ぐに見つめてくる。抜けていた緊張感が戻ってくる。
「何?まだ何かあるの?」
「いや、緊張させるつもりはなかったんだが。今回の企画は元々俺の企画じゃない。だから正規の発案者のもとでプロジェクトを進めていこうってことになったんだ。そこでだ、もしよかったらなんだが俺にサポートさせてくれないか?」
「え、私の元で進めてもいいのこの企画。てっきり東郷がこのまま進めていくのかと思ってた。」
「ちょっとまて。なわけないだろ!こんなにいい企画は俺では思いつかん。だが…迷惑料とでもいうかなんというか部長から綾坂に直談判する権利をもぎ取ってきたってわけ!」
何か焦ったように早口になる東郷に自然と笑いが込み上げてきた。
「ふふっ。そんなに焦らなくてもいいのに。まあ私が企画を進めていけるのであれば本当にやりがいのあることだし嬉しい。隣に東郷がいてくれるのであれば私も心強いの。だからお願いしてもいい?というかこの企画が通ったら一番にお願いしようと思ってたんだから。」
そう私は東郷以外に隣を預けられる人材はいないと思っていたし、企画が通ればすぐにお願いしようと思っていたのである。
「いいのか!嬉し…じゃなかった。本当に頑張るよ。なんでもサポートするから!
改めてこんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳なかった。これからもよろしくな。」
この男はどこまで行っても爽やか好青年であることが悔しい。しかし今回の騒動については悪くない幕引きとなった。
後日今回のことの顛末が発表され社内のセキュリティーも強化されることになり再発防止策が実施された。
そしてプロジェクトリーダーとして私と東郷の二人で進めていくことが正式に発表された。
その日の昼休みに東郷はいつかのように慌ただしく私の部署にやってくると問答無用で連れ出されることになった。
「綾坂!ちょっと説明して!俺はサブのはずだろ。間違ってるって部長に言っても綾坂に聞けとしか言われないし。どうなってる?」
なかなか焦っている東郷はおもしろい。
そう私は事後処理まで完璧にすませてしまった東郷に嫉妬したのだ。勝手な理由だがなんとなく寂しかった。
東郷なりの配慮があったのだろうがなんとなく。
「ええー?いいじゃない。なんでもするって言ってたし。じゃあリーダーも一緒にやってくれるよね?」
あの事件の翌日には部長に呼ばれた私も交渉してみたのだ。
それなりに被害を受けたのだからこれくらいの事は許してもらってもバチは当たらないだろ?的なことを部長達に言った自分を褒めてやりたい。部長達も苦笑いだが受け入れてくれたという事はそういうことだろう。
それに先方には東郷が責任者として話を通してしまっている以上こちらの方が都合がいいという利害の一致だ。
「綾坂、少しくらい相談してくれてもいいんじゃないの!?すっごい驚いたんだからな。」
「ごめんね〜。伝えるの忘れてたの。」
むくれている東郷が少し可愛い。
ってこんなこと考えている暇もなくこれからは忙しくなるのだ。
浮かれている場合じゃない。
「まあどんなことでも支えてやるよ。俺も覚悟決めるよ。」
この男やっぱり余裕そうである。
一泡吹かせてやりたい私はいいことを思いついた。
「ねえ。私ずっと考えてて伝えるかどうか迷ってたことがあるんだけどね。」
「お?なんだ?」
このことを伝えたら関係性が難しくなるかもしれないが何となく私には確信がある。元々負ける戦はしない主義だ。
不思議そうな顔をしている東郷の耳もとに去り際に伝えてみる。
「私、東郷のこと好きよ。ちゃんと男性として。この企画が無事に終わったらお返事聞けるといいな?」
「…え。」
惚けた顔をして耳を真っ赤にしている東郷を置いて私はデスクに戻る。
なんとも気分は晴れやかだ。
企画が終了まで約1年。
色々と設定はガバガバで気になる箇所もあるかと思いますが、ここまでご覧いただきありがとうございました!




