混乱している君へ
会議室に到着すると東郷はもう到着していて私に座るように進めてきた。
東郷以外には会議室には誰もいない。会議室は防音となっているがガラス造りであり足元は見える作りになっている。誰が話しているのかは判別はできないが使用中であることは周りからもわかるのだ。
「呼び出してごめん。今日のこと絶対に確認しないとって思って…。」
重苦しそうに口を開くが何を確認しようというのだろうか。
「…何を確認しようって?あの企画はもう東郷の名前で通ったんでしょ。今更何が言いたいの。」
そう東郷は私の同僚だ。信頼してもいた。なので私も警戒心が薄かった。考えたくもなかったが東郷が企画をどうにかしたとしか思えない状況だ。
「ごめん綾坂。俺も混乱してて…。でも悪いのは俺だ。本当にお詫びのしようがない。」
本当にこの男は何を言っているのだろう。企画の発案者として堂々としていればいいのに。
もう発表されたのだから私が何を言っても変わらない。組織とはそういうものだ。
私は諦めようとしているのに。
「本当に何。企画が本当にたまたま私の考えていることとたまたま全く一緒だったんでしょ。
何を謝ってるの。もう私に何かを発言する権利は奪われているの。それとも私の神経逆撫でして楽しい?」
こんなこと言いたくないのに私には余裕がない。そしてなんで東郷が苦しそうな顔をしているのか理解できない。
「本当にごめん。俺も迂闊だった。言い訳にはなるが説明させてほしい。」
「だから何を?もういいの…。そういうことでしょ。いい加減にして。」
もう私は投げやりだ。そして傷つきたくもない。もうとにかく放っておいてほしい。
「違うんだ!本当に俺が企画を盗用したわけじゃないんだ。こんなこと言っても理解できないと思うが聞いてほしい!」
「そんなに興奮しないでよ。本当に何?ちゃんと聞くから説明して。」
東郷の説明を簡単にまとめるとどうやら私の企画はある社員によって勝手に提出されていたらしい。
提出する段階で私の名前から東郷の名前へと書き換えられ社長へこっそり提出されていた。
本来企画は会議や部署長の承認を経て提出されるものであるが承認を受けたものとしてすり抜けてしまったらしい。
そしてたまたま取引先へ出向く用事のあった専務に企画を任せ、なんと契約へとつながってしまったとのことだった。
しかしなぜ私の企画が漏れてしまったのかという問題が残る。
機密情報もあるため資料や企画など必ずパスワードが設定されている。
そのため簡単に情報へアクセスすることなどできない。会社のサーバーを使用していたとしてもそれは守られているはずだった。本当に緊急時や不祥事などを除いてそんなことはできないのだ。本来なら。
そう本来なら犯してはならないタブーを犯した人間がいた。
社長の愛人、佐伯が引き起こしたことらしい。佐伯はなかなかに曲者で東郷にも横恋慕していて今回のことで恩を売りたかったらしい。
東郷は有休を申請しており本来は出社の予定ではなかったため会議のことなど聞かされておらず参加ももちろんしなていなかった。
しかし部署の部長から連絡があり今回のことを把握したようだった。
「まさか佐伯がこんなんことするなんて思わなかったし社長がアクセス権限を教えているとは思わなかったんだ。今回のことがあって午後から全部のアクセス情報を調べ直して佐伯に問いただした。本当になんて言ったらいいのか…。本当にすまない。」
なんてことだろう。さっきまで疑っていた東郷は無実でなんなら被害者である。
突然担ぎ出されたようなものだ。そして今回のことの経緯をここまで調べあげ私に伝えにきたらしい。
本当に優秀さには脱帽だ。
「東郷が…謝ることじゃないでしょ。それに私は東郷…奏を疑ってた。本当にごめんなさい。」
「いや状況的に俺が逆の立場でも同じことを考えたかもしれない…。それに今回被害に遭ったのは俺が原因だしな。本当に迷惑かけてごめん。」
お互いに謝罪したら冷えていた空気が少し柔らかくなったように感じた。
何より奏に嘘をつかれていなかったことに安堵した自分がいる。
「今後のことだけど佐伯は機密情報を漏洩したことで懲戒解雇になる。まあ正式に決定するまでは自宅謹慎だな。社長も今回のことの責任を取るらしい。」
「そう、まあなんでもいいけど。」
「あと今回の企画だが中止にはせずに進めていくことになりそうだ。あくまで社内での問題として片付けることになった。まあ佐伯の処分が決定したら社内に今回のことの顛末を発表することになる。それまでは周りも騒がしいから俺も在宅ワークに切り替えだな。」
「なんか色々大変だったのね…。」
ここまで話をして力が抜けたように椅子に座り直しいつの間にか置かれていた冷めた缶コーヒーをいただくことにした。




