波乱に巻き込まれた君へ
私、綾坂はづきは特になんの疑問も持たずに働いていた。
「お疲れ〜。今日はもう仕事終わり?」
今声をかけてきた同僚の東郷 奏は私と同期だ。
仕事上の悩みも楽しさも共有してきた仲間。家族のような存在で大切だ。
同時に私には眩しい存在でもある。
「お疲れ。もう終わり。とにかく早く帰りたい…。」
とにかく疲れてしまって早く休みたい私は歩きながら返事をした。
「無理しすぎだろ〜。ちゃんと寝てんのか?」
この男は長身なので私とは目線が合わない。わざわざ覗き込んで聞いてくることがまた腹立たしい。
「今がピークだからね…。これを過ぎれば睡眠時間も確保できるよ。それに上が簡単に休ませてくれないだろうさ。」
「そんなこと言ってどうせ休まないのがオチだろ。とにかくさっさと帰って休めよ!」
そう言い残しながら廊下を歩いていく東郷はきっと帰らずに残業するのだろう。
私は特に気にするでもなく自宅へと急いだ。
明日何が起こるとも知らずに。
翌日はいつもの出勤時間に出勤すると何やら騒がしい。
「あ!今日の社内メール確認しました?緊急会議のお知らせなので早く確認した方がいいですよ。」
隣の席の同僚が挨拶もそこそこに教えてくれる。同僚はオンラインで参加するのだろう。
「緊急会議のお知らせ?職員全員が会議室またはオンラインで参加すること…。
ってまた急だな。」
ともあれ会議開始までに時間がない。私はなんとなく会議室へ急ぐことにした。
会議室には普段お目にかかれない重役達も揃っている。本当に何かあったのだろうか。ところで奏の姿がない。奏は会議はオンラインは嫌いなようで毎回律儀に参加している。効率的なことを好むのに不思議だ。
開始時間となり会議室が静まる。
なんの伝達があるのか他の社員も不思議そうにしており、この場に事情を知っているものはいなさそうだ。
「皆さんへ嬉しいお知らせがあります。なんと業界最奥手とこの度契約を結ぶことになり開発を進めていくことになりました。これは快挙です!今回の立役者となった東郷くんへのサポートを我々は惜しまない!東郷くんは…なんだ今はここにいないようだ。諸君も東郷くんに続いてどうか頑張ってくれ。」
東郷は新しい企画に取り組んでいた?どういうことかわからなかった。
現在のプロジェクトに精一杯で新規の企画を立ち上げることは一言も知らされていなかった。
混乱している私に追い討ちをかけるように企画の概要説明が始まった。
とりあえず落ち着いて聞こうと思った私には企画の説明が始まった時から後の内容は記憶にない。
だって説明されている企画は昨日まで私が準備していた企画とにている…。いやそのものであるからだ。
なんで…いや東郷が私の企画を?いつ?なぜ?
様々な疑問が浮かんでは消え、私は混乱していた。とにかく東郷に話を聞かないと理由も何もわからない。
会議終了後に東郷に直接話を聞こうとするにもこの場にいないし他の社員がいるところでできる話でもない。
とにかくアポを取ることにした私は社内メールで連絡を入れようとメールを打つとうとするが手が震えて進まない。時間の無駄だと感じた私はとにかく1日を乗り切ることにして目の前の問題から目を背けた。
しかし無情なもので時間はあっという間に過ぎていく。もう何も考えることができず帰宅しようと決め支度をしていると何やら部署が騒がしくなった。
「すまん。綾坂少しいいか。確認したいことがあって」
私の目の前には社内で一番有名になった東郷の姿がある。もっと晴れやかでいいはずの顔はなぜだが曇っているように感じたが理由はわからず、そして私は突然の出来事に混乱した。
「えっと、なんの用事…。手短にお願いしたいんだけど。」
直後には話をしたいと思っていた私が今や何を言っているのかわからない。
「会議室を押さえてあるからついてきてくれないか。」
「わかった。ちょっと荷物まとめるから10分後に集合で。」
ここでは注目を集めてしまって集中できないため東郷の提案に乗ることにした。




