アドリブ・センセーション
「あああああ、無事に完遂できてよかったぁ!!!」
ぐったりとパソコンの液晶前でぐったりする私。
そう、今日はTRPGのセッションを行っていた日。
オリジナルシナリオで書いてたものだから、かなりエネルギーと神経を使っていた。
「お疲れー、お姉ちゃん、結構必死だったね?」
隣で私の動向に笑ったりしながらマイペースにゲームをやっていた妹にねぎらいの言葉をかけられる。
なかなかよくできた妹だ。
「そりゃあまあ、必死になるわよ。プレイしている相手は生身の人間だもの。反応がよろしくなかったら震える」
TRPGのゲームマスター、GMとしては私はまだまだ未熟だ。
オンラインセッションも初めて今回ゲーマスを担当したくらいだ。
正直緊張はやばかった。
「で、どうだった? うまくできた?」
「そうだね、大絶賛かまではわからないけれど、みんなに楽しかったって言ってもらえた」
「うん、それならよかった」
妹のほっとした顔にきょとんとする。
「……なに、その顔。わたしが変なシナリオ書くと思ってる?」
「まぁ……お姉ちゃんのことだから、シュールなのは書いてるとは思ってるかな?」
「わたしの扱い酷くない?」
「じゃあ、今回のシナリオの敵ってどんなのだったのよ」
妹に尋ねられる。
それを答えるのは簡単だ。
私が今回やっていたTRPGはファンタジー物の定番系なやつだ。
バトルが楽しいという有名な側面もある。そんな私が出したエネミー、それは……
「カニ怪人と愉快な戦闘員たち」
「は?」
私の自信のエネミーだ。面白いと判断されるに違いない。
そう思っていたけれど、妹に突然虚無の表情をされてしまった。
「もう一回言って?」
「カニ怪人と愉快な戦闘員たち」
「……ファンタジーだよね!?」
「まぁ、カニの化け物なんてファンタジーにはいるっしょ」
「いや、カニ怪人って言ってるし、完全に特撮の世界だよ、それ!」
「戦闘員には突っ込まないの?」
「……どういう戦闘員?」
「顔を覆面で隠したやつ」
「特撮じゃん!」
妹に全力で指摘される。
そこまで反応がいいと、逆に面白くなってしまう。
「どういう経歴でとりあえず、カニ怪人にしようとしたの?」
「うーん、カニが食べたかったから?」
「適当! 戦闘員は!?」
「なんか、怪人いるなら賑やかな人いた方がいいかなぁって」
「こっちも適当だった!」
ツッコミがビシバシ入る。
とはいえ、カニが何となく食べたかったから、カニを敵にしたかったのは事実だし、戦闘員はまぁ、ファンタジーにいてもいいだろうと思ったから適当に置いたという部分は強い。
……あながち適当だと言うのも間違いではないのかもしれない。
「悪役でしょ、カニ星人」
「うん、怪人だけどね」
「……カニ怪人は、どういう悪いことしてたの?」
「街の食材をカニに変えて街の祭りを台無しにしようという……」
「やっぱ特撮じゃん!!! なんか聞いたことあるよ、その流れ!!!」
「あの話面白かったんだもん……」
「わかりやすいね! お姉ちゃん!!!」
ぼんやり見ていたテレビの内容がよく頭に入っていたのもあって、その内容を意識した話を書こうとしたのは間違いない。
そう考えると特撮か。特撮だな。
「今更だけど、わたしが書いてたのやっぱり特撮だったんじゃ……」
「今気が付いたの!? 遅いよ、お姉ちゃん!」
まぁ、特撮っぽかったとしても楽しかったならそれでいいか。
そう思うことにしよう。
「こほん。と、とにかく、お姉ちゃんが変なシナリオ書いてたのはわかった」
「どうも」
「じゃあ、カニ怪人の必殺技は? 特撮っぽいからなんかあるでしょ?」
「敵にカニ料理をふるまう」
「は?」
「いや、敵にカニ料理をふるまう攻撃してた」
「攻撃なの、それ!?」
「うん、まぁ、それとなく攻撃だよ? ほい、資料」
「どれどれ?」
『このスキルは与えた料理の種類によって効果を変動させる』
『1つ。酒大量のカニで酔っぱらわせる』
『2つ。激辛カニでダメージを与える』
『3つ。満腹料理で動けなくさせる』
「……想像以上にまともだった!?」
「いや、流石にラスボスだし、そこは気合入れてた」
「でも酔っぱらうとか、辛いリアクションとか、大変そうかも」
「そこはみんな乗ってくれたからよかったかな。正直ここぽしゃってたら、私は今日は死んでた」
「そんなに」
「そんなに、よ」
素っ頓狂なシナリオをやっているとしても、ラスボス戦はラスボス戦だ。
ここはしっかり仕上げみたいな感じでギミックを入れないと味気ないと思っていた。
だから、なるべく意識して書いていた。
私の資料を見つめながら、妹は頷いていた。悪くないと言いたそうな表情だ。
「ところで、シナリオの展開はどうだったの?」
「中盤から先がとんでもないことになってた」
「……どういうこと?」
「普通に敵を倒す展開のはずが、なぜか戦闘員と協力して、親玉のカニ怪人戦うことになってた」
「なんで!?」
「理由を話そうか」
妹が聞きたそうな表情をしていたので、私も私なりに話す。
「まず、中ボスのカニ怪人が『あんなところにUFOが!』みたいな言葉に乗っかって本拠地から移動した」
「え、ガチ目にUFOなの?」
「いや、厳密に言うと『カニせんべいが落ちてる』って誘導」
「……それ、ありなの?」
「だから結果をダイスに任せてたんだけど、成功させちゃった子がいてね? まんまとカニせんべいを探す間抜け怪人みたいになってたの」
「なにその展開……で? それが戦闘員の協力展開に何が関係あるの?」
「まぁ、あえなく中ボスが撃退された後、余ってた雑魚敵をどうしようか悩んでたの」
ちなみに、中ボスはターンスキップされていたのもあって可哀想なくらいあっけなくやられていた。
雑魚と一緒に登場する予定だったからそうなるのも仕方ないけれど。
「イレギュラーな展開で戦うタイミングを逃した、みたいな感じだったんだ」
「そうそう、でなんか追加で戦うのも面倒だし思い浮かんだのが革命展開」
「は?」
また謎だという表情をされたけれど、気にしない。
「筋書きはこんな感じ『実は上司のカニ怪人に不服を持っていた戦闘員。直属の上司が倒れたことによってカニ怪人に革命を起こせるんじゃないかと思った』みたいな……」
「忠義心壊滅過ぎる!」
「まぁ、悪の末端なんてこんなもんっしょ」
「いやいや、流石にそれ、悪の組織侮ってるよ!?」
「とにかく、その人たちと協力して、プレイヤー一行はラスボスのカニ怪人に不意打ちを仕掛けに行ったのだった……って感じかな」
「すっごくなんていうかアレな展開……!」
「まぁ、想定道理にやってたら順当に悪役と対峙して戦う流れだったから、楽しかったしよかったかなぁって」
「なんていうか、混沌としてたね……?」
「うん、でも楽しかった」
笑いながら、そう答える。
「みんなとお話を作り上げていく感覚、そして賑やかなパーティーを創作する瞬間。どれも、面白くってまたやりたいとおもったな」
「お姉ちゃん……」
「もちろん、大変だったこともあったよ? 敵のステータスどうしようとか、やる前失敗したらヤバいなぁとか思ってた。でも、いざ挑戦してみたらみんなが優しくて、私もいっぱい楽しめたし、みんなも楽しんでくれた」
「それならよかった」
妹も笑顔でそう言葉にする。
なんだかんだで心配もしていたのかもしれない。今の笑顔は心から安心しているような表情をしている。
「あっ、今度私がGMやるときはそっちも参加する?」
「でも、お姉ちゃんのことだから変なシナリオ作りそう」
「ふふふ、それは作ってからのお楽しみ!」
「んー、なら、参加してみよっかな!」
休みの日に行った、オンラインのTRPGのセッション。
ちょっと変わったオリジナルのお話で、みんなを笑顔にさせられた瞬間を、私は大切にしていきたいと思った。