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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
二章 新しい命
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7 胎動

7 胎動

 また桃はブルンッと揺れた。

 お婆さんの言う通り、それは桃の中から何者かが動かしているかのような揺れ方だった。動かしているというよりも、暴れてゴンゴンと内側を叩いているようにも思えた。ゴボリゴボリと水泡が立つような音さえ聞こえた。

 事態がここまで来ては、お婆さんの方が積極的だった。お婆さんは床を這いつくばって、桃に近付き、その表面に掌を置いた。さらに、そこに耳をつけた。

「ど、どうだ。何か聞こえるか」

 お爺さんは邪魔にならないように、小声で訊いた。

「ええ、確かに、中に何かにいるようです。動いています。出してあげましょう」

 お婆さんは、もう独り決めしたように言った。しかし、お爺さんは、

「何が入っているというのだ?入っているとしても、そんな正体のよく分からないものを出していいのか?何が出てくるか分からないのだぞ」

 と躊躇した。

「しかし、出たいと訴えているみたいですよ」

「うーむ……」

 偶然かどうか、その話し声に反応したかのように、桃はブルブルブルと揺れた。

「ほら、見てください」

「うーむ、そんなに出たいと訴えているのなら、出してやるしかしょうがあるまい。そんな窮屈な所では息もできないだろうからな」

「割りましょう」

「よしっ」

 とお爺さんも同意した。何が出てきても、その責任は自分が取ると覚悟を決めた。

「お爺様も手伝って下さい」

「わしはこっちを持つ。婆さんはそっちを持て」

 二人は膝立ちになって、巨大な桃に両側から取り付いて、それぞれの節くれだった指で桃の果肉をガッと鷲掴みにした。

「せーの」

 と声を合わせて、力を込めて、それぞれの方向に引っ張った。彼らの指先は桃に食い込んだ。

「まだか」

「もう少しです」

「お、割れてきたぞ」

 桃は左右に引っ張られて、縦の筋に沿って、上端からメリメリと裂け始めた。そこからはドロドロの粘液が流れ出て、床に広がって、二人の足の裏を濡らした。この世の物とは思えない芳潤な香りが立ち上った。桃の内部は大きな空洞になっているようだった。

「もう一息じゃ」

 桃はついに真っ二つになった。その割れた隙間から、青白い肉塊がはみ出て、床の上にゴロリと転がった。

「おや?」

「はて?」

 その塊には手足が生えていて、頭もついていた。それは人間そっくりの胎児だった。その腹部からは白色のへその緒が伸びて、桃の内壁と繋がっていた。


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