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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
六章 奇襲作戦
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32 砦への侵入策

32 砦への侵入策

 桃太郎たちは鬼に発見されないように、岩陰や茂みに身を潜めながら移動したので、島の中央部まで到達するのに、二刻ばかりもの時間が必要だった。

 最早、正午に近く、陽は高かったが、涼しい微風が吹いていた。

 正面には、一町足らずの距離で、鬼の砦が見えた。

「あれが鬼の砦か……」

 それは鬼共が自分たちで建てたらしく、柱は傾いていたし、壁板は不揃いで、実に拙い作りの平屋だった。今その中には何匹もの鬼がいるらしく、何を騒いでいるのか、不気味にしわがれた笑い声らしき音が、桃太郎のいる場所まで漏れ聞こえた。

 そのあばら屋の周囲をグルリと木の柵が囲ってあったが、これもまた、あちこち朽ちたり剥がれたりしていた。

 思っていたよりも時間はかかったが、鬼に発見されることなく、砦の前まで来ることができたので、まず第一段階は成功と言えた。しかし、重要なのはここからであった。

(さて、砦に侵入するにはどうしたら良いだろうか)

 桃太郎は草の上にあぐらをかいて、しばしの間、思案した。

 柵には門があって、そこに一匹の見張り役の鬼が立っていた。まずは、その門番を何とかしなければならなかった。

 ただ、その鬼は門番をしているといっても、ほとんど形だけで、何度も退屈そうにアクビなんかをしていたので、柵を超えるだけなら、策を弄すれば、何とかなりそうだった。そして、一旦、砦の内部に潜り込んでしまえば、後は運を天に任せて、大暴れしてやろうという大胆な計画だった。

(後は行動あるのみだ)

 桃太郎は決断した。そして、緊張した面持ちで後に控えていた動物たちに、それぞれの指示を手短に伝えた。

「手筈通り頼むぞ。犬、猿、雉。準備は良いか」

 彼らは首肯し、三者はそれぞれの方向へパッと散った。

 まずは犬が柵へ近付いて、門番の鬼を遠くの方へおびき寄せるという狙いだった。桃太郎は、

「犬よ、頼むぞ。そして、猿も雉も上手くやってくれ」

 と心の中で祈った。

 犬は何気ない素振りでゆっくりと柵へ近付いた。門番の鬼はすぐに、

「何だ、お前は。ここらでは見かけない犬だな。あっちへ行け」

 と邪険に追い払おうとした。

 しかし、犬は馴れたようにクンクン鳴いて、その場を離れなかった。

「あっちへ行けと言っているだろうに」

 鬼は金棒を振り上げて、一歩踏み出して、打つ振りをした。

 犬は一旦は飛び下がったが、やはりまた、門に近付いて、クンクンと餌をねだるような声を出した。

「全くうるさい犬だな。ここにはお前にやるような食い物など、何もないわ。じゃあ、この金棒を食らわせてやる」

 今度は鬼は本気で犬に金棒を振り下ろした。しかし、犬は素早くそれを避けた。

「おや、ずいぶんとすばしっこい野郎だ。今度こそはずさないぞ」

 鬼はまた金棒を振り下ろしたが、やはり犬は巧みに身をかわしたので、ズンと虚しく地面を打っただけだった。

 犬はそんな風にして、鬼を手玉にとりながら、右に左に逃げた。そうしながら、自然に鬼を門から引き離していった。何も知らない愚かな鬼は、犬を追いかけて行き、門のあたりはガラ空きになった。

 その時、そばの木の幹の後ろで隠れていた猿が飛び出した。まさしくマシラの如く、垂直の柵を手と足で軽々とよじ登り、あっという間に、柵の向こう側に身を翻して、消えて行った。

 間もなく、ゴトリという小さな音が聞こえた。それは猿が門の裏側から、カンヌキをはずした音だった。観音開きの門がギィーと少し開いて、その隙間から猿の顔がのぞいた。猿は、桃太郎の隠れている茂みに向かって、「早く、早く」というように手招きした。

 その時にはすでに桃太郎は地を蹴っていた。一直線に走って、ついに門をくぐった。砦への秘密裏の侵入は成功した。

「うまく侵入できた。今から、私は屋敷の中へ切り込む。お前たちは、安全な場所で隠れていよ」

 桃太郎は猿にそう言い残すと、後ろも振り返らず、屋敷へ向かって駆けだした

 その時、上空を旋回していた雉が急降下してきた。走っている桃太郎と横並びに滑空しながら、

「今、屋敷の中をのぞいてきました」

 と言った。

「そうか。中には何匹ぐらいの鬼がいた?」

「鬼は十匹程いました。全員、屋敷の南側の部屋の中です。朝っぱらから酒を飲んで騒いでいるようです。腑抜けたような奴らばかりですが、首領らしき鬼が一匹いて、こいつだけは相当のツワモノのようです。油断なさりませんように」

「分かった。ご苦労だったな。お前も下がっていよ。私一人で奴ら全員を退治する」

「武運をお祈りしています」

 雉は心底からそう願った。桃太郎は、「心配は無用だ」と言うように、雉にフッと微笑みかけると、屋敷に向かって足を速めた。


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