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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
五章 犬と猿と雉
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28 尊大な雉

28 尊大な雉

 桃太郎たち一行は、日の暮れる前に海辺に到着した。太陽は水平線に沈みかけていて、目に痛いばかりの夕焼けだった。

 付近を見回して船を探すと、手筈通り、砂浜の上に一艘の小舟が引き上げられていた。それは一丁櫓の小舟だったが、桃太郎一人と犬と猿を連れて行くには十分な大きさだった。

「これが村人たちが用意してくれた船だな」

 桃太郎は砂浜に立ちながら、山の村の方を向いて、感謝の念を込めて黙礼した。そして、船の中へひらりと乗り込んで、櫓や船底の状態を調べた。どうやら問題はなさそうだった。

「よいか、犬と猿よ。今夜は、私はこの船の苫の中で夜を明かすことにする。明日は、日の出と同時に出航だぞ」

 桃太郎は船端で控えている犬と猿に伝えた。

 日暮れまでは後、半刻程だろう。桃太郎は手をかざして、船の中から沖を眺めた。

 依然として、鬼ヶ島の辺りだけが霧がかっていた。ただ、霧は先程よりも薄れていたので、ボンヤリとした島影だけは確認できた。それは落日の赤い光に照らされて、禍々しい様相を呈していた。

 その時、鬼ヶ島の上空に、一羽の鳥らしき黒い点が旋回しているのが見えた。

(鳥ならば、ひとっ飛びして、鬼ヶ島を真上から見渡すことができるのだが)

 桃太郎はそんなことを思っていると、その鳥は旋回するのを止めて、浜へ方向転換した。それも、ちょうど桃太郎たちのいる場所に一直線に向かっているようだった。

 鳥はグングンと降下してきた。やがて海面スレスレを飛んで、砂浜をサーと滑空して、桃太郎たちのいる船の縁の上に音もなくピタリと止まった。それは両翼の幅三尺もある雉だった。

(ずいぶんと人に馴れた雉だな)

 桃太郎は、手を伸ばせば届きそうな距離にいる雉を見ながら、感心した。

 雉は桃太郎に対しても、また、犬や猿に対しても、恐れている様子は全く示さず、堂々とした態度でいた。黒いつぶらな目をキョロキョロさせたり、小首を傾げたりしながら、桃太郎たちを値踏みするような目付きで見渡していた。

「何だい、お前さん。こんな所に来て」

 と桃太郎は訊いた。

「雉です」

「おや、今、何かしゃべったかね」

「ええ、しゃべりましたよ。『雉です』と言ったのです」

「これは驚いた。お前は人の言葉をしゃべれるというのか」

「我々は鳥族の中でも、のどがよく発達していますからね。器用なやつなら、人語を操るぐらい造作もないことですよ」

「それは初めて知った」

 桃太郎は、こんな巧みに人語を操る鳥を初めて見た。その声はやや甲高いものの、全く流暢な話し方だった。桃太郎はそのような雉の生態をもっと聞き出したくはあったが、今は鬼ヶ島の様子の方を知りたかったので、それは我慢して、

「雉よ。さっきまで鬼ヶ島の上空を飛んでおったな。鬼ヶ島の景色はよく見えたかな?どんな様子だったか、教えて欲しいのだよ」

 と勢い込んで訊いた。

「上から鬼ヶ島を一通り見てきましたが、霧のせいで、全然何も見えませんでした」

「そうか」

 期待が外れて、桃太郎はガッカリした。

「あの辺は、たいてい霧が出ているんですよ。しかし、私はわずかに晴れている時に飛んだこともありますよ」

 雉のその言葉を聞いて、桃太郎は身を乗り出すようにして、

「おお、ならば、ぜひとも、その時の様子を教えてくれ」

 と言った。

「いいですとも。お教えしましょう」

「そうだ、これをやろう。お前もこれが欲しかったのだろう?」

 桃太郎は腰の袋から黍団子を取り出した。桃太郎は、雉も所詮は獣であり、食い物をやれば喜ぶだろうと思った。


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