24 桃太郎の腕前
24 桃太郎の腕前
しかし、花江の胸には懸念の気持ちが渦巻いていた。すでに花江は、鬼退治についての村人たちからの悲観的な声をたくさん聞いていた。その不吉な結末の予想も嫌という程に耳にしていた。
(桃太郎さんに会えるのも、これが最後では……)
そんなことは考えまいとしたが、どうしても脳裏から振り落せなかった。花江の顔には憂えた色が浮かんだ。
桃太郎は、その花江の憂慮を払拭するためには、下手に言葉をかけるよりも、行為の方が適切だろうと思った。
「花江さん。せっかくですから、私の技をお目にかけましょうか。しばし、お待ちを」
桃太郎は一旦、家の中に戻って、太刀をつかみ取ると、また花江の所に戻った。
「それは……」
「岩切りの太刀です。お爺様から譲って頂きました。どうです、素晴らしい逸品でしょう?この太刀があれば、鬼など一刀両断です。鬼如きに負ける桃太郎ではありません」
桃太郎は得意気に言った。しかし、女の花江には、太刀の価値など良く分からず、曖昧にうなずいた。桃太郎は鞘を払い、抜き身の刃を掲げた。それは陽の光を反射して、キラリと光った。花江は恐れをなして、思わず一歩下がった。
「花江さん。危ないので、離れて見ていて下さい」
路傍に太さ三寸程の若木が生えていた。桃太郎はそれに狙いを定めて、太刀を中段に構えた。腰を沈め、気合いを溜めた。
花江は両手の拳をギュッと握って、固唾を呑んで見守った。
「やっ」
桃太郎は辺りを切り裂くような気合いを発した。それと同時に、地を蹴って跳躍し、虚空五尺もの高さに浮かび、目にも留まらぬ速さで太刀を一閃させた。
花江の目には、何かが一瞬きらめいたようにしか見えなかった。
桃太郎は音もなくフワリと着地し、刃を鞘に収めた。それに一拍遅れて、若木は横に真っ二つに割れて、上半分はドウッと地響きを立てて倒れた。花江は目を見張った。
「どうです?」
桃太郎は振り返って、穏やかな笑顔で訊いた。息一つ乱れていなかった。
花江にも桃太郎の気持ちは通じた。自分の心配を払拭させようとしているのだろう。
(本当なら、私が桃太郎さんを鼓舞しなきゃいけないはずなのに……)
花江は泣き笑いのような顔で、桃太郎にうなずいて見せた。そして、もう長居しすぎていることに気付いた。
「私、もうそろそろ、お暇しなければ」
「ええ。お守り袋、ありがとう。大切にします」
その別れは、普段と何事も変わらなかった。二人は手さえ握らなかった。顔にこそ出さなかったが、花江は歯痒いような、くやしいような、なんとも言えない気分だった。
花江は別れてからも、路上で何度も後ろを振り返った。桃太郎はずっと家の外で見送ってくれていて、二人の目が合う度に、手を上げて、爽やかに微笑んで見せた。




