表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モスグリーンの自転車で  作者: 秋喬水登
1/7

緑山公園前駅

駅についた。

中学生になったばかりの土曜日。

新しい自転車で風を切って駅まで来た。

お気に入りのモスグリーンの自転車、スカートが翻って商店街のウィンドウに映る。ちよっと大人な感じ。

自転車置き場に停めて、改札口に急ぐ。


土曜日の昼すぎって案外人が少ないんだな。

家から近い緑山公園前駅は各駅停車しか停まらない小さな駅。


人気のない駅の改札を通ろうとすると、駅員さんに呼び止められた。


「あ、君、この改札はICカード使えないから、きっぷ。きっぷ使って」


ICカードが使えないなんて、故障したのかな。

きっぷを買おうと思って売り場を探していると、また駅員さんに声をかけられる。


「カード使えなくてごめんなさいね。このきっぷ、使ってください」


そうか。機械が故障したから、みんなにきっぷを配ってるんだな。


「ありがとうございます。これ、どこで降りても使えるんですか?」


「このきっぷで終点まで行けますよ。ご安心ください」と駅員さん。


三駅先のショッピングモールに行きたいだけなんだけどな。

そう思いながら、改札口に入ろうとしたとき、後ろから声がした。


「そのきっぷ、わたしにもいただけませんか」


ふりかえると、どこかで見たことがある上品そうなおばあさんが立っていた。

薄紫のスーツに同じ色の帽子をかぶって、首もとには真珠のネックレスる。

真っ白な白髪は耳の上できれいなウェーブを描いてる。

お孫さんの入学式の帰りだろうか、といういでたち。

どこかで見たことがあるおばあさんだけど、思い出せない。


当然、おばあさんにもきっぷが渡されるものだと思って見ていると、駅員さんは残念そうに首をふって


「ごめんなさいね、おばあさんのきっぷはもうお渡ししましたよね」と言った。


おばあさんはちよっと困った顔をして「もらったきっぷを失くしてしまったみたいなの。もう一回もらえないかしら」


「すみません、規則で、きっぷはひとり一枚なんです」と駅員さんはとても申し訳なさそうに断った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ