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背教聖女のレコンキスタ  作者: バナジウム天然氷
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第六話「闇に舞い踊る二人」

 「メソッド院長!まずいですよ、あそこに魔物の大群が!」

 「ここもぎつけられましたか。至急結界を張り、院内の安全を守るのです。それと非常時に備えて移動の準備もなさい」

 「了解です!」

 「あそこで戦っているのはカルヴィナと……もう一人は誰かしら。もしや、彼女が言っていた元聖女……?」


 八ツ星修道院の者達は近くで戦闘が始まったことを察知すると退魔の結界を張る準備にかかった。術で作り出されたモニターには戦闘の様子が映っており、院長はそれを静かに見守っている。


「はああああっ!」


 マルティナが長剣を振るう度に地面は抉られ、一筋の閃光とともに突風が巻きおこる。眼前に居た敵は斬撃で真っ二つとなり、周囲にいた複数の敵も衝撃波で手足が千切れ飛ぶ。下級悪魔とは言え強大な力を持つはずの魔族の肉体ははじけ飛び、宙を舞いながら塵となって消えてゆく。


 背後にいた人喰鬼トロールは剣を振り切った隙を見て棍棒こんぼうを振り下ろすも、見切られた彼女に容易たやすくかわされた上に返す刀で唐竹割からたけわりにされる。


 反対側からも斧を振りかぶって人喰鬼が迫り来るとマルティナは長剣で迎え撃つ。激しい金属音が響き、斧の刃は硝子細工を地面に落としたかのように脆く砕け散った。非力なはずの人間の一撃で自慢の武器が破壊されるというあまりの出来事に恐れをなして逃げようとしたその時、眼前に回り込まれて真っ二つにされる。


「へへっ。噂に聞いちゃいたけどこんな剛剣を振るう剣士がいたなんてね!アタシも負けてらんないわ!」


 カルヴィナは迫り来る敵に次々と銃撃を繰り出し敵の頭部を正確に撃ち抜いていく。だが、遠距離武器を使用すると接近された時に弱いというのが戦場の常。銃撃をかわした下級悪魔の一体が彼女の眼前に迫り来ると勝利の笑みを浮かべ、その爪を振り下ろそうとした。


 カルヴィナは突然の襲撃にも動じず、攻撃を左手に回り込んでかわしてすれ違いざまに銃で撃ち抜いた。標的はあっという間に塵と化し、次々と迫り来る敵も同様の末路を辿っていく。


 踊るかのように攻撃をかわし、捌き、体勢を崩した後に次々と銃撃を加えていく。裾の隙間から見える太ももとしなやかな動きは実に蠱惑的で、群がる者どもの視線を釘付けにした。


 遠近両方に対応可能な銃体術《ガン=カタ》を駆使する彼女に死角はないが、日中の仕事で疲れがたまっているせいかカルヴィナの呼吸は次第に荒くなっていた。それを察知したマルティナは一気に勝負を仕掛けることを決める。


 マルティナは八相の構えを取り、己の霊力を長剣にめると黒い稲妻がはしる。剣に己の霊力を通し、一体となったことを確認すると全力で横にいだ。


威風撃(ヴェント・シュラーク)!」


 霊力を帯びた剣から放たれた強大な衝撃波は、近辺にいた数体の敵を跡形もなく消し飛ばした。高速で地を奔るそれは突如炸裂し、魔族の群れを瓦礫がれきと轟音と共に上空に打ち上げる。


「今だ!やれ!!」

「よっしゃあ!」


 カルヴィナは二丁の銃に霊力を込め、宙を舞う魔物に銃口を向ける。標的が全て宙に打ち上げられたことを確認すると、片っ端から速射クイックドローによる連続銃撃を浴びせた。


「派手に散れ!『瞬光円舞(エクレール・ヴァルス)』!」


 銃口から放たれた光の弾は宙にいる魔族を一体残らず撃ち抜き、夜空の星がまたたいたかのように命を散らす。下級とはいえ人から恐れられた魔族の群れが、()()を掃くかのように二人の手で片付けられた様を目の当たりにした二体はたじろいだ。


「な、なんだこいつら。本当に人間か……?」

「人間の十倍はあると言われている人喰鬼を純粋な力で負かすなど、これは一体何の冗談だ?」

「あのシスターもだ。あんなヘンテコな玩具おもちゃで俺達のしもべを一掃するとは……」


 非力な人間が魔族にも力で渡り合えるように、身体能力を己の霊力や神の加護で強化して戦うのがこの世界の常識である。現にプリムス教会の聖騎士達は女神の祝福を帯びた防具をまとうことで大幅に力を増強されているがゆえに、天下無双の軍隊として名を轟かせている。


 しかしマルティナは鍛錬たんれんで鍛え上げた純粋な力のみで魔族を打ち負かしており、霊力を込めただけの一撃で敵陣を一度に吹き飛ばしてみせた。一方でカルヴィナも銃による術技のみで魔族を翻弄ほんろうし、次々と敵を葬り去った。


 実力の半分を出していないにも関わらずこれである。小さな巨人の大きな力と未知の武器には歴戦の魔族もたじたじである。


「ど……どうする兄者」

「うろたえるな弟よ。我らは魔王様から授かっておるではないか、あの秘技を」

「おお!あれをやるのか!」

「何かわからんが、させん!!」


 マルティナは一気に刺客の下に駆け寄るが、巨大な火柱に阻まれてしまう。燃え盛る炎が彼女の肌を焼き、思わず後ろに飛びのいてしまう。


「ぐぅっ……!」

「我がもとに集え!戦いに散った魂共!」

「共に仇をほふらんがため、我らの血肉となれ!!」


 二人の声と共に、虚空から多数の火の玉が現れた。まるで夜に輝く蛍のように現れたそれらは次々と火柱へと吸い込まれていく。


「まさか、戦いで散った魔族の魂を吸収してるというのか……?」

「……限戒突破オーバーソウル

「何?」

「魔物や魔族に見られる現象で、本来は亡き同胞の無念や恨みを吸収して大幅にパワーアップした突然変異個体のことを言うのさ。それを兵隊ぶつけた後に人為的に再現する奴がいるとはね。不愉快極まりないわ」

「魔王から授かった秘技というのはこれの事か。我ながらなんと不甲斐ない……」


 見る見るうちに二体の身体が膨れ上がり、修道院の高さをも上回る体格となった。その身に宿る霊力も、出会った当初とは比べ物にならない。


 新たな脅威が二人に迫ろうとしていた。

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